うちゅうてきなとりで

The Cosmological Fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

『死海文書のすべて』ヴァンダーカム その2 ――紀元後1世紀までのユダヤ教徒の記録

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 4 クムランのエッセネ派

 クムランで生活していたのは、エッセネ派約4千人のうち最大300人だけである。なぜクムラン・グループが形成されたのかを考える。

 

 A クムラン・グループの歴史の素描

 推測では、紀元前150年頃、ユダヤ教内部で内紛があり、「義の教師」とその追随者たちが流浪の民となり、クムランにたどりついた。

 クムランの居住区規模は拡大したが、後68年頃に破壊された。ローマ軍の攻撃が始まり、エッセネ派の者は写本を隠し防衛したが、多くは殺害されたか、マサダのような場所に行ったかもしれない。

 

 B クムランの思想と慣習の素描

 特徴は、強烈な終末論的考え方にある。

 予定論……すべては神によってあらかじめ定められている。

 二つの道……神の計画には、光の道と闇の道がある。この二極の争いは、世界および個人の生の中で演じられ、最後の審判のときに神が光の子と天使に勝利を与えることで終わる。

 人間存在の中に悪が存在するという考えから、クムランではエノク書における堕天使の物語が好まれた。

 新しい契約の共同体:ネブカドネザルの神との契約に基づく共同体である。

 聖書関係文書の解釈……独自の暦

 礼拝

 終わりのときとメシア……二人のメシア(一人の預言者ダビデ系譜のメシアと祭司のメシア)は独自の思想であり、世俗指導者と、祭司指導者が現れる説は発掘文書の複数において言及される。

 

 

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 5 巻物と旧約聖書

 死海文書はヘブル語聖書研究にとって大きな収穫だった。

 

 A ヘブル語聖書(旧約聖書)のテクスト

 旧約聖書の著作年代特定に関しては従来多くの議論があった。文書ごとに年代は異なるが、すべてが紀元前数世紀までには成立した。

 紀元前に書かれたヘブル語テクストはこれまで発見されていなかった。

 マソラ・テクスト……9世紀、10世紀作成のヘブル語テクスト

 七十人訳聖書(セプチュアギント)……前3世紀頃、ヘブル語聖書のギリシア翻訳が始まった。現存は後代のもの。

 サマリア五書……ヘブル語、前2世紀からサマリア共同体によってつくられたが現存する版は中世のもの。

 

 クムラン文書は最古のヘブル語聖書として様々な発見を導いた。

 写本の正誤判断、写字生のミスなどの発見。

 

 ――……クムランの巻物はヘブル語聖書の研究者に、そのテクストや、それが通過した歴史に関して、膨大な量の新しい情報を提供したと認識することである。

 

 B いくつかのテクスト歴史についての新情報

 詩篇、ダニエル書、

 

 C 聖書の正典

 どの文書を聖書とするかという取り扱いは紀元前から始まっていた。カノン(正典)という言葉が見えるのは4世紀からである。

 クムラン文書には、既にどれが正典かという定義が複数存在したことを明らかにした。

 引用された書をカウントし、どの文書がクムランにおいて「権威ある書」だったかを推定する。

 

 今日外典とされているもの……ヨベル書エノク書

 

 ――……より正確に言えば、われわれは、クムランの人びとが彼らの権威ある文書のカテゴリーの中に、ヘブル語聖書の一部とならなかったいくつかの文書を含めていたと読み取るのである。

 

 

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 6 巻物と新約聖書

 

 A はじめに

 クムラン文書と新約聖書・キリストとの間には直接の関連はない。

 とはいえ、クムランの思想や慣習は、キリスト教ユダヤ教から派生したこと、ユダヤ教の遺産を多く利用したことを追認させた。

 

 B 巻物と新約聖書の間の類似点

 言語とテクスト:新約聖書ギリシア語で書かれたがイエス自身はアラム語やヘブル語を話し、弟子は皆セム語を話すユダヤ人だった。新約の語彙の多くはセム語起源である。

 洗礼者ヨハネ:新約におけるヨハネは、クムラン共同体を連想させる。

 慣習:新約におけるキリスト教徒との強い類似。

 終末論

 教え

 

 ――「わたしは世の光である。わたしにしたがう者は闇の中を歩かず、命の光を持つ」(ヨハネ

 

 ――「光はいましばらくのあ間、あなたがたとともにある。光のあるうちに歩きなさい。闇があなたがたに追いつかないためである。もし闇の中を歩くならば、あなたがたは自分がどこに行くのかを知らない。光の子となるために、光のあるうちに、その光を信じるのだ」(ヨハネの第一の手紙)

 

 ――巻物のおかげで、キリスト教の信仰や実践の多くのものがキリスト教固有のものでなかったことを、われわれは容易に見ることができるのである。

 

 初期キリスト教の独自性は、貧しい生まれの人物が、自分がメシアだと告白し、実現した点にある。

 

 

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 7 死海の巻物論争

 1990年代以降活発になった論争……巻物占有問題や、陰謀論について。

 

 政治的な問題(イスラエルとヨルダンの対立など)が絡み、資料の出版は遅れた。これをきっかけに様々な陰謀論、イエロージャーナリズムが生まれた。

 

 ――……カトリック教徒が優勢のチームがバチカン支配下にあり、バチカンは……断片の中の情報を隠蔽しようと躍起になっている……

 

 またテクストの公開、共有の問題について近年の動向を説明する。

 

 A 巻物の編集と出版

 B 1989年以降の出来事

 

死海文書のすべて

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