うちゅうてきなとりで

The Cosmological Fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

『The killing of Osama Bin Laden』Seymour Hersh その2

 軍と軍

 オバマはシリア情勢について現実を無視した方策をとり続けている。彼の方針は以下の4つである。

 

・アサドは退陣させなければならない。

・ロシアとの共闘はありえない。

・トルコはテロとの戦いにおける同盟国である。

・シリアには米国の支援に値する穏健派反政府勢力が存在する。

 

 様々な調査や事実が、オバマの方策の非現実性を浮き彫りにしている。

 

・デンプシー将軍以下統合参謀本部は、アサド政権崩壊がリビアイラクのような泥沼を招くと確信していた。

 米軍とCIAは、政府による反政府勢力支援を骨抜きにし(粗悪な兵器ばかりを横流しした)、またドイツ、ロシアに軍事情報を与えることで、シリア政府軍がこの情報を間接的に利用できるよう取り計らった。

・トルコは隣国シリアを不安定化させるために、アル・ヌスラ戦線とISISを支援している。アル・ヌスラ戦線に化学兵器を供与したのもトルコである。

 オバマはおそらくこの事実を知っているにも関わらず、アサド追放のためにトルコと協力している。

・ロシアにとって脅威はジハーディストである。ISISの構成員にはチェチェン戦争のベテランが多く含まれている。

 シリアとは長年の同盟国であり、ラタキア県タルトスにロシア軍基地を保有している。

 プーチンはアサド政権を守るために支援を惜しまない。

 ロシアは一貫してジハーディストとの戦いに協力的だったが、オバマは冷戦的な価値観から「ロシアとの協調は不可能」と考え、相手にしなかった。

 2015年9月、ロシアがシリア政府軍を支援し、反政府勢力を爆撃した。米国は、穏健派に対する攻撃だと非難したが、ロシアはISISにも攻撃していた。このため、ロシア機がISISに撃墜されることになった。

 また、ロシア機はトルコ領内に侵入を繰り返したため、敵対するトルコ空軍に撃墜された。

・中国はロシアとともにシリア政府軍を支援した。これは、ウイグルにおける過激派対策、地政学的な理由、国際法上の根拠に基づく。

・インドもイスラム過激派に対する懸念から中国と合同演習を実施している。

・米国は、中ロと協力できるにも関わらずこれを拒否した。しかし、米国が肩入れする穏健派……シリア自由軍は、戦力として存在するか疑わしい。

・ISIS戦闘員の発言によれば、シリア自由軍は、アメリカから武器を手に入れるとすぐISISに売ったという。

・米軍の軍事訓練には、身分を偽ったシリア政府軍が多く混じっていたという。

 これは、イラクベトナムと同じ状況である。

 

 米軍と情報機関は、シリア政権の崩壊が、武器庫の解放と過激派の跋扈につながることをわかっていた。このため、軍事の範囲内でロシアやシリア政府と協力した。

 しかし、デンプシー、マイケル・フリンが退場したことで、米軍はオバマ……文民政府により従順になった。

 

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 ◆メモ

 本書はシリア情勢の実態を伝えるものである。特に、日本語報道は米政府の方針を基盤としているため、本書で描かれる構図は全く異質である。

 オバマはシリア政権打倒が難しいと知りながら、無力な穏健派への支援を続けている。一方、同盟国トルコはISISとアル・ヌスラ戦線、アルカイダへの支援を続けている。

 オバマがシリア、ロシアを敵視する理由はなんだろうか。

 シリアは人権侵害国家だが、911当初は、反アルカイダの立場からアメリカに協力していた。ブッシュとその配下がシリアを悪の枢軸認定したことにより、こうした協力関係は表面上断ち切られた。

 ロシアはウクライナにおいて侵略と拡大を続けており、また冷戦時代からの敵である。しかし、ソ連崩壊当初は核兵器管理の分野で米国と協力した。

 オバマテロとの戦いを掲げながら、抑止の要であるアサド政権を認めず、自己矛盾した政策を継続させている。

 米国発情報、ロシア発情報にそれぞれ警戒しなければならない。

 対米従属政策をとる日本においては、特に米国のフィルターを通して物事が伝わることを認識する必要がある。

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 ガーディアン紙における書評……匿名の情報源に頼りすぎており、居酒屋談義の域を出ない。

 LAタイムズ……好意的な評価。

 「ゼロ・ダーク・サーティ」……CIA全面協力による、ビン・ラディン暗殺劇のプロパガンダ。実際には、パキスタン政府の黙認のもと、軟禁状態のビン・ラディンを殺害したが、映画ではCIAによる居場所追求と特殊部隊の活劇に変質している。

 映画としては面白い。

 同じく「ローン・サバイバー」 も、大幅脚色映画とのことである。

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The Killing of Osama Bin Laden

The Killing of Osama Bin Laden