◆ソ連時代から現代、おわり
一方、北コーカサス部族(チェチェン、イングーシ、カラチャイ、メスへティア・トルコ、クルド)は、ドイツに協力したとして、カザフスタンやシベリアに強制移住させられた。同様の処分が、ウクライナのドイツ人やポーランド人にも科せられた。
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5 厄介ごとの時代
スターリン以後のコーカサスの政治家……アルメニアのデミルチアン(Demirchian)、アゼルバイジャンのヘイダル・アリエフ(Heydar Aliyev)、グルジアのシュワルナゼ(Shevardnadze)等は、独立後も国の指導者として力を保持した。
兄弟とライバル
革命に伴う飢饉や、物資の欠乏した社会主義経済下においては、個人のコネがものをいう。このため、伝統的な部族社会や地域共同体が、ソ連時代を通して強化されることになった。
汚職、賄賂、縁故は深刻な問題だった。
また、ソ連時代を通じて、各共和国における民族の純粋化が進行した。戦後の大規模な暴動3つは、すべてコーカサスで発生している。
土地と闘争
南コーカサスにおける、独立後の紛争について……ナゴルノ=カラバフ(Nagorniy Karabakh)、アブハジア、南オセチア。
民族紛争の原因の多くは、ソ連時代につくられた民族意識と、当時の政治家たちの強硬姿勢や、社会構造にある。
回避できたはずの戦争は、いまでは、民族対立の歴史の一部、歴史の必然として書き換えられている。
ロシアが承認したコーカサス諸国の独立を、コーカサス諸国は国内地域に対しては承認しなかった(グルジア領内のアブハジア、南オセチアや、アゼルバイジャン領内のナゴルノ・カラバフ)。
だれの国、だれの国家か?
・アルメニア……ソ連時代のエリートと、亡命者たちとの間に溝があり、またアルメニア国民も出身によって分裂している。シリア出身のテル・ペトロシャン(Ter-Petrosyan)からナゴルノ・カラバフ出身のコチャリャン(Kocharyan)へ。
・アゼルバイジャン……ソ連時代の指導者ヘイダル・アリエフが、共産党とKGBのコネクションを活用し長期政権を築いた。かれは2003年に、息子のイルハム(Ilham)に権限を委譲した。
・グルジア……理想主義者・夢想家の言語学者ガムサフルディア(Zviad Gamsakhurdia)が退陣し、元ソ連外相シュワルナゼが政権につき、国家安定に努めた。
ここでも、アゼルバイジャンと同様、シュワルナゼ個人に忠誠を誓うコネクションが支持基盤となった。
グルジアはソ連でもトップクラスの腐敗国家だった。シュワルナゼ退陣後、欧米派のサカシヴィリ(Saakashvili)が大統領となり、汚職の一掃を唱えた。
悲劇的な北部
1994年と1999年のチェチェン紛争について。
エリツィンは分離主義の動きを阻止しようと軍を派遣したが失敗した。一方プーチンは、いくつかの方策をとることで戦争を有利に進めた。
・志願兵を中心に構成し、世論の反対を抑える。
・テロとの戦い、国際ジハード主義との戦いを強調する。
・地域勢力の懐柔を行い、チェチェン人対チェチェン人の紛争に変質させる。
二度の紛争により、チェチェンの若者たちは犯罪や戦争に頼って生きるようになった。また、ロシア軍、チェチェン人双方による誘拐や不正な金儲けが蔓延した。
北コーカサス諸国は依然不安定である。しかしその原因は、古代から続く宗教・民族対立ではなく、ソ連の政策である。
チェチェン独立派の指導者たち……ジョハル・ドゥダエフ(Dzhokhar Musayevich Dudaev)、ヤンダルビエフ(Yandarbiev)、マスハドフ(Maskhadov)、シャミル・バサエフ(Shamil Salmanovich Basayev)、アフマドとラムザン・カディロフ(Kadyrov)
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結論:大陸変動
終章:友、敵、パトロン
・南コーカサス三国は、地理的な障壁を越えて、ヨーロッパの枠組みに入ろうとしている。ヨーロッパとは、いまや単に地域を指すのではなく、民主主義、市民の自由、人権といった価値を重視する考え方を含む。
・ロシアは自分たちの勢力圏を守るために、北コーカサスの分離主義を弾圧するだろう。また、南コーカサスに欧米が介入することも許さないだろう。
・ロシアは、国連を合衆国と欧州の隠れ蓑とみなしている。そのため、2008年のグルジア紛争の際も、国連勧告を無視した。
コーカサスは地域対立と、帝国主義、国外の介入勢力(ロシア・合衆国)が交錯した世界でありつづけるだろう。
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