3 旅行者から観光者へ
観光業の発展によって、かつては人生の一大イベントであり、限られた人びとしか経験できなかった海外旅行が、誰でも手に入る商品となった。
旅行は陳腐化し、冒険や計画、リスク等の要素は薄れていった。
美術館、国内旅行、ホテル、あらゆる分野で、本物から、贋物、疑似イベントへの変異が進行した。
4 かたちから影へ
芸術作品を例にとって、形式が時代によって変質し、意味を失っていく過程を考える。
印刷物の増大と識字率の向上によって、人びとが芸術作品に触れる機会が高まった。
しかし、多くの古典作品は縮尺版、要約版として普及し、こうした版がオリジナルを凌駕するようになった。
技術やメディアが発展すればするほど、わたしたちは直接体験する機会を失っていく。
小説や演劇は映画にとってかわられ、「ダイジェスト」誌に代表されるような、要約と集約による雑誌が普及した。
本書の主張では、わたしたちが普段受け入れている形式の芸術・芸能はほとんどが贋物・複製の性質を持つものである。映画産業の発展と、小説および戯曲の衰退、また、蓄音器の発明による音楽鑑賞の変質も、「疑似イベント」現象に含まれる。
5 理想からイメージへ
印刷革命によって、イメージが理想(ideal)にとってかわった。ここでのイメージは、企業や商品が利用するような「イメージ」を意味する。
イメージの特性は次のとおり。
・人工的である。特定の目的に供するためにつくられる。
・信ぴょう性がある。人びとが信じなければ効果がないからである。
・受動的である。イメージの制作者はイメージに適合する。
・鮮やかで具体的である。
・単純化されている。
・曖昧である。イメージは期待と現実との間にある。
19世紀、ニューヨーク近郊で話題を提供したバーナムの怪奇博物館を例に、イメージと広告が人びとの関心をつかんでいく過程をたどる。
広告は完全な嘘で真実でもない。それらは製品のためにつくられる。
プラグマティズムは物事の表面に着目してきたが、広告が狙うのは「真実らしく見える」ことである。
広告、宣伝、著名人による推奨endorsementも疑似イベントの一種である。また、世論、世論調査は人びとの意見を映す鏡だが、人びとは世論に合致するように行動していく。
イメージはわたしたちの現実認識をあいまいにし、また自己の願望もあいまいにする。
6 アメリカン・ドリームからアメリカの幻想へ
夢は現実とはかけ離れた目標である。一方、幻想は現実と区別のつかないものである。アメリカは多くの夢を実現させてきたが、印刷革命によりそれらは幻想にとってかわられた。
われわれの体験は人工的、人為的になっている。物事は発見されるのではなく発明される。
わたしたちは自分の見たいイメージを見ているだけである。自分たちのつくりだしたイメージに騙されているというのが現代アメリカ人の症状である。
こうした状況を打開するためには、まず現実を認識することが不可欠であると著者は考える。
The Image: A Guide to Pseudo-Events in America
- 作者: Daniel J. Boorstin
- 出版社/メーカー: Vintage
- 発売日: 2012/05/09
- メディア: Kindle版
- この商品を含むブログを見る