うちゅうてきなとりで

The Cosmological Fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

『誘拐』ガルシア=マルケス

 コロンビアの麻薬商人パブロ・エスコバルによる誘拐取引と、かれが政府に投降するまでの話。

 ほとんど事実を列挙することにより作品が成り立っているが、一部、修辞的な文章がある。

 エスコバルはコカイン取引によって財をなし、かれの率いる麻薬組織は大きな力を持った。政府や警察、軍はエスコバルを取り締まることができなくなっていた。警察の特殊部隊による暴力行為に対し抗議するという名目で、エスコバルは要人の誘拐による取引を開始した。

 麻薬組織の元幹部が、広い農園のような場所で隠遁生活をしているが実際は投降者だという。また、エスコバルのためにあてがわれた刑務所も、刑務所とは程遠い豪華な施設である。国家が十分な力を持たない場合、犯罪組織がいかに跋扈するかがわかる。

 本書の時点ではエスコバルは追い詰められ、逃亡生活を続けている。また、敵対組織から逃れるため、政府へ投降する機会をうかがっている。

 人質となった主人公たちが接する麻薬組織の若者たちは、田舎出身で、ほとんどは無知蒙昧である。

 エスコバルの投降に尽力したのは、大統領の親類であるビヤミサルと、国内でも有名な神父である。カトリックと神父はコロンビア人に対して強い影響力を保持しており、麻薬組織の構成員やエスコバルは大変信心深い。

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 犯罪行為についての細部……組織の人間は常に覆面をかぶり、顔が割れないようにしている。かれらの活動にも士気があり、意欲がなくなってくると自暴自棄になり麻薬を摂取する。

 通報ダイヤルに対しては子供を雇い電話をかけさせ回線をパンクさせる。

 誘拐の際には、運転手は真っ先に殺害される。

 エスコバルは冷酷で賢いが、仁義を重んじる側面がある。ビヤミサルと神父に対しては恩義を感じ、感謝の念をあらわした。こうした振る舞いにより支持を得ようとしていたことがうかがえる。

誘拐

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