特殊皇帝ヘリオガバルスの家系から、かれの生涯までをえがく本。ヘリオガバルスの母たちの異様な生態、当時の祭典、習俗、また、皇帝が即位してから、乱行をはたらき、叛乱によって殺害されるまでを題材にする。
文体は、奇怪な事物や、皇帝のうごきを書いているが、時折、意味がとれなくなる箇所がある。
ヘリオガバルスの母の話、即位するまでの策略の話、またかれの倒錯した趣味の話、戦闘、叛乱による殺害等、印象にのこる箇所があった。
性的な、不潔な単語と、抽象的な歴史の話が混ざっているので、理解しがたいところがある。しかし、こういう伝記もあるようだ、と納得した。
***
異常な言葉遣いが多々見られる。
――そしてこの書の深い非現実性、唯心論、無用性をよく指示せんがために、わたしはこれをこの世のためのアナーキーと戦争とにささげる。
――今のべたことはすべて、形而上学的見地からすれば東洋(オリエント)は常に確実な沸騰状態にあり、事物が墜落するのは決して東洋のせいではなかったこと、また、諸原理の苦悩の皮フが東洋でひどく縮むことになれば世界の額もまたひきつれて、万事が滅亡の淵に近づくであろうことを示すためなのである。そしてその日はもはや遠くないとおもわれる。
――しかし、植物や動物が生きているように、生きている石がある。ちょうど、太陽に黒点があって、それらが場所を変え、ふくらんではちぢまり、互いに合流してはふたたびあふれだし、また位置を変え――黒点が太陽の内部から律動的に膨張と収縮をくりかえすとき……。
以上のような、わかるようでわからない、学問風の、奇怪な文章がならべたてられている。
また、陽物の像、処女、精液、男根、等、性的な単語とイメージが多様される。
――走りながら男根を投げ捨て、ピュティアの神の祭壇の上で血を大量に失うこれらの祭司たちを見て、女たちは突然恋に落ちる。
――ホムスの町は、エメサが臭かったように今でも悪臭を放っている。情事、肉、糞など、すべてが戸外にさらされているからだ。……便所のそばに菓子屋がある。これらすべてが叫び、あふれ出し、愛し、我々が唾を吐くように毒液と精液をまきちらす。
作者によれば、ヘリオガバルスは「生来のアナーキスト」である。かれは叛乱により斬殺される。
――……それは肉屋の光景、胸の悪くなるような肉屋、屠殺場の古めかしい一幅の画である。汚物が血と混じり合い、血と同時に汚物までが、ヘリオガバルスとその母を滅多切りする剣にほとばしる。
――かくして碑文も陵墓もなく、かわりにむごたらしい葬儀をもってヘリオガバルスは生涯を終える。卑怯未練な死にざまではあるが、かれは叛乱開始の状態で死ぬのである。そしてこのような死によって最後を飾られたかくのごとき人生には、結論は不要であるとおもわれる。
ヘリオガバルスまたは戴冠せるアナーキスト (白水Uブックス)
- 作者: アントナン・アルトー,多田智満子
- 出版社/メーカー: 白水社
- 発売日: 1989/06
- メディア: 新書
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