書名通りの惨めな人びとが順番に表現されていく。
ディーニュ市の司教ビヤンヴニュ氏の聖人伝と、そこにやってきた追放者ジャン・ヴァルジャンの司教宅訪問から物語ははじまる。銀の匙のみならず燭台までもさしだす話。ガキの貨幣を奪い取る話。
女と遊び人にだまされたファンテーヌは、子供のコゼットを悪党夫婦に預けてしまう。このファンテーヌの故郷では、改心したジャン・ヴァルジャン改めマドレーヌ氏が工業で産を成し市長になっていた。しかしジャヴェル警視だけは彼を信用しなかった。
マドレーヌの自白、ジャン・ヴァルジャンの逃走。コゼットの救出と二人の生活のはじまり。
王党派ジルノルマン氏に反発したその孫ユリウスは、ナポレオン軍の将校だった亡父を崇拝して家を飛び出す。彼はその後成長したコゼットに恋をする。
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人間ユニットを用いて善と悪のたたかいが展開される。神のつかわした一体目のユニットがミリエル神父である。私利私欲のない善行はジャン・ヴァルジャンを転向させ、さらに彼が多くのみじめな人間たちを救った。
大抵の人間は善悪どちらにでも傾く遊兵である。
善人とみじめな人間は多くいるが、真性の悪人はテナルディエら一握りである。ユゴーは社会の矛盾、貧困こそが多くの悲惨の原因であると力説した。善行は伝播する。善悪とは別の位置にいるのが秩序の守り手たるジャヴェルである。彼はジャン・ヴァルジャンの体現する善に負けた。しかし、神が死んで良心の軍隊が消滅したあと、人間を律するのは彼ら体制の番人だろう。ジャヴェルは一度死んだものの、やがてよみがえり人間を統率する。
本筋を追う文章より、ユーゴーの説教のほうが長かったかもしれない。ジャヴェルとジャン・ヴァルジャンの追跡、マリユスとコゼット。
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――彼女の様子のうちには、まだ始まらないうちに既に終わった一生涯がもつところの茫然自失さがあった。
――およそ徳の一面が傲慢に接することは確かである。そこに悪魔の渡した橋がある。