うちゅうてきなとりで

The Cosmological Fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

『ルワンダ中央銀行総裁日記』服部正也

 著者はラバウル戦線から帰還した日銀行員で、復興開発銀行(世界銀行)からの要請を受けてルワンダ中央銀行に出向することになった。曰く、小国・貧困国であるルワンダの現状からすぐに諦めるのは誤りである、同じような状態から大国となったのが日本である。

 

 彼が就任したときルワンダ中央銀行財政赤字に苦しんでおり、総裁は行内で孤立、副総裁は銀行業務を知らず、理事は留学経験者だが無責任、行員は怠け者が多かった。服部氏の運転手はガソリン代をちょろまかし、住宅も到着直後は完成していなかった。ルワンダの首都キガリは行政機関が集まっているだけの小さな町で、その庁舎も二階建ての比較的大きな住宅といった風のものだった。現状の資料を集めたところ、計表は一週間遅れで届いていた。なにより銀行の紙幣のストックがなかった。

 「もし働く気がなければ独立国になる資格がないわけです」。

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 市中銀行中央銀行の統制下におき、より円滑な提携を目指すための協定も、はじめは市中銀行ベルギー人に反対される。私腹を肥やす人間、植民地に対し傲慢な態度をもつ人間など、障害はさまざまである。

 服部氏はまず大統領や大蔵大臣などルワンダ人を味方につけておき、さらに植民地的態度をもたぬバンク・オブ・アメリカやコメルツ・バンク(独)の取締役を説得した。

 つづいて経済再生計画のための大統領答申をつくる。累進税は納税者の善意と徴税管理の能力に依存するため、無差別的に徴収する間接税を重視した。またルワンダ人が自立し競争を促せるような制度をつくることが重要だった。平価切下げは経済改革の一貫としておこなわれるべきというのが彼の持論だった。この答申をもとに、彼はIMFや米国の援助の交渉に入る。

 こうした業務では秘密保持や、相談しないことも重要になる。その際自分は蚊帳の外に出されたとして気分を害するものもいるが、個人感情を抑えることも必要である。

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 平価切下げと同時に輸入自由化をおこなうが、この際不当競争がおこらぬように対策をとる。公正な競争がおこなわれる基盤をつくることが銀行・金融システム構築においては重要である。市中銀行も独占状態を避けるためにもうひとつ増やしたほうがよいので、服部氏は誘致をおこなった。

 可処分所得は設備投資や貯蓄にまわされたほうがよいので、ビールなどは価格を上げる。外資導入だけでなく民族資本の育成や流通機構整備も重視する。

 農民のための小トラック輸入、バス会社再建など、インフラ事業の指揮も服部氏はおこなった。この際日産車が採用されたので結果的に本国も利することになった。

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 経済政策も外敵の侵入の前にはすぐ崩れてしまう。

 亡命派長身族の侵攻、隣国コンゴの動乱等に伴う軍事支出で財政均衡は大幅赤字になってしまう。また天候(豊作・不作)や国際市況の影響も強い。後進国における一番の貧困は人的資源であって、劣悪なルワンダ人留学生がむしろ害をおよぼすこともあった。しかし、結果的に彼の任期中に経済は立て直された。

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 ルワンダについて調べたところ服部氏の帰国数年後にクーデターが起こり、フツ族ツチ族とのあいだで内戦が発生している。最終的に90年の虐殺にいきつくことになる。経済再建計画を無に帰すような要因があったということである。

 経済が民族対立か侵略か、なにか別のものに敗れたということである。経済力と軍事力は共通点もあるがまったく同一ではないようだ。

 

ルワンダ中央銀行総裁日記 (中公新書)

ルワンダ中央銀行総裁日記 (中公新書)