◆トランプ、日米同盟への不満を再表明
日本政府が事実無根と否定していた「トランプが日米同盟に不満をもっている」疑惑だが、FOXニュースでのインタビューで本人が直接不満を口にしたことで事実が確定したようである。
トランプ氏は26日、FOXビジネス・ネットワークのインタビューで「日本が攻撃されれば、米国は第三次世界大戦に参戦し、米国民の命を懸けて日本を守る。いかなる犠牲を払ってもわれわれは戦う」とした上で、「だが米国が攻撃されても、日本にはわれわれを助ける必要がない。ソニー製のテレビで見るだけだ」と述べた。
(ブルームバーグ https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2019-06-26/PTPLCQ6K50XU01)
躍起になって否定する意味があったのか不明だが、トランプは大統領選の時から同じ主張を続けており、またボブ・ウッドワードのノンフィクション『FEAR』では、日本だけでなく韓国、NATOに対しても同じように不平をこぼしている。
Fear: Trump in the White House
- 作者: Bob Woodward
- 出版社/メーカー: Simon & Schuster
- 発売日: 2018/09/11
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同書では、一連の同盟国への不満に対し、マティス元国防長官、軍、役人が必死に説得する様が描かれている。
・トランプのNATO攻撃:アメリカがなぜNATOに金を払うのか、と文句を訴えたがマティスやダンフォード統合参謀本部議長に必要性を説得された。トランプは、加盟国のほとんどが目標額を支出していないことを非難し、「アメリカの納税者に対し不公平である」と言った。
・KORUS(U.S.-Korea Free Trade Agreement, KORUS FTA(米韓FTA))破棄の危機……不安定で支離滅裂なトランプは、この協定を破棄したがっていた。しかし、韓国との関係を毀損することは、北朝鮮ミサイルに関する情報探知能力を著しく低下させることにつながるため、コーン大統領補佐官やマティス国防長官はこれを阻止するか、トランプが忘れるまで引き延ばそうと苦労した。
・韓国のTHAADは、土地は無償貸与だが建設費は米国が負担している。トランプは文句を言ったが、マクマスターらは、サードは米国の役に立つため運用も在韓米軍が行うのだと説得した。
◆予算・人員不足の米軍
2018年12月に辞任したマティス国防長官の公開書簡は、「大統領はもっと同盟国を尊重するべき」というものだった。
インド太平洋軍は同盟国との協力に非常に積極的であり、ミサイル防衛や基地・施設確保等の点で他国の支援が不可欠だと考えている。
これは主に予算と能力が軍の戦略に追いついていないためと思料する。
◆アメリカ本土防衛レーダー建設計画
米軍は現在ハワイにも本土防衛用BMDレーダー「HDR-H」(Homeland Defense Radar - Hawaii)建設を計画している。
これは、米会計年度2019に建設地が決定される「HDR-P」(Homeland Defense Radar - Pacific)と対をなすものである。
「HDR-P」は太平洋のどこかに建設されるということだが、それが日本ではないかという報道もある。
ジャパンタイムズの記事では、情報源は国防総省の担当者ということである。
もう1件は香港の英字新聞サウス・チャイナ・モーニングポストで、取材源は読売新聞である。
記事では2019年1月頃にアメリカ政府から日本政府に対して、HDR-Pの建設が日本において可能かどうか打診したというものである。
イージス・アショア、2つの本土防衛レーダー、アラスカの長距離探知レーダー(Long Range Discrimination Radar, LRDR, イージス・アショアはこれの簡略版)と、大量の兵器契約を結んだロッキード・マーティンは、笑いが止まらないだろう。
◆自由で開かれたインド太平洋の財布
冒頭のトランプ発言は、新たな兵器売りつけの布石ではないかという報道もある。それがでまかせに聞こえないのが情けないところだ。
前述のアメリカ本土防衛レーダーには宇宙ゴミや衛星を監視する機能もあり、同盟国間での情報共有が予定されている。
空の〇〇隊は宇宙監視を始めるらしいが、その用に供するという理由で、当該レーダー費用も払わされることになったら笑える。
◆同床異夢
アメリカは自国の利益とそれ以外を峻別している。一連のミサイル防衛の仮想敵国は中国であり、アメリカ本土防衛が第一目的である。韓国や日本、NATOに設置される設備は斥候か歩哨所のような役割である。
いざというときに優先されるのはアメリカの都合である。
上の記事は太平洋空軍の最近の戦略(Agile Combat Employment、通称ACE)に関する話題だが、要点は、太平洋地域の同盟国とその拠点を活用し、中国のミサイル脅威に対抗するというものである。
固定された基地に対して、弾道ミサイルの危機がせまった場合、米軍は、同盟軍とその小規模基地・拠点を使い、小規模航空部隊に分散し、太平洋地域を飛び石のように迅速に動きながら戦っていくことになる。
多国間演習や、海外での共同演習が行われるのはそのためである。
太平洋空軍のコンセプトではあるが、米軍は統合軍単位で動くためこのコンセプトは全軍種も共有していると思われる。
在日米軍基地がミサイルの標的になった場合、米軍は当該コンセプトに基づいてさっさとオーストラリアかオセアニア地域に後退するだろう。
日米が「完全に一致」というのは、おめでたい頭をしているか、信仰告白でしかない。
◆用心
”同盟国とともに戦う以上に最悪なことが1つだけある。それは同盟国なしに戦うことだ”――ウィンストン・チャーチル