うちゅうてきなとりで

The Cosmological Fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

◆海外のフィクション

『不穏の書、断章』フェルナンド・ペソア

ポルトガルの詩人の本。 前半がペソアのさまざまな原稿や書簡からの断章、後半が不穏の書である。これはベルナルド・ソアレスというペソアの別人格によって書かれた。 「詩人とはふりをすることだ」という聞き覚えのある言葉。感情を感じたふりをする、そう…

『砂漠の惑星』スタニスワフ・レム

ソラリスと並ぶ三部作だとのこと。 惑星レギスで消息不明になったコンドル号探索のため、ホルパフ隊長とロハンらの乗り込む無敵号は砂漠の大地に着陸する。 『ソラリス』では知性をもつ海が相手だったが、本書は自在に動く鉄の雲と遭遇する。この雲は円盤飛…

『キャッチ=22』ジョーゼフ・ヘラー

奇妙な登場人物と不条理な軍隊を題材にした戦争小説。戦争を題材にしたフィクションの中でも記憶に残る作の1つである。 兵隊たちは責任出撃回数を終えても帰国できないため必死で任務をさぼろうと奮闘する。一方、異常な指揮官たちはかれらに非人間的な爆撃…

『山椒魚戦争』カレル・チャペック

山椒魚が人類に代わって地上の支配者になるという話。 作家は自分が生きている時代が気にかかってしょうがない。よって山椒魚を主人公にしたこのファンタジーは、現実を映す鏡として書かれたものである。両生類ではなくサルが生物の覇者でなくてはいけない、…

『アシェンデン』サマセット・モーム

大戦中、情報員としても働いたモームが体験をもとにつくった短編集。 英国の作家アシェンデンはR大佐の依頼に応じ、スイスで諜報活動を行う。 連作形式になっており、それぞれアシェンデンが出会う人物に焦点をあてる。挿話群に通ずるのは英国人としてのア…

『スペインの遺書』アーサー・ケストラー

スペイン内戦に潜入したケストラーの本。オーウェルの『カタロニア讃歌』と読み比べてもおもしろい。 スペイン内戦は共和国軍の民兵とフランコ率いる叛乱軍の内戦である。フランコは王党派を名乗りファシスト・イタリアの援助を得た。ケストラーは英国の新聞…

『真昼の暗黒』アーサー・ケストラー

スターリンの大粛清を題材にしたフィクション。ジョージ・オーウェルが言及していた。話としてもおもしろいが、ソ連亡命者の体験を参考にしており現実味がある。 「第一人者」スターリンの治下、革命戦争の英雄ルバショフは逮捕される。彼は政治上の意見の相…

『アラーの神にもいわれはない』アマドゥ・クルマ

主人公ビライマの自叙伝がはじまる。 口語文体によって、彼が正規の教育を受けていないことが示される。フランス語を使えないものは稼ぐことができない。 同郷の贋金つくり、ヤクバとともに部族戦争中のリベリアに出発する。部族戦争とはおいはぎが「富の分…

『人間の土地』サン=テグジュペリ

みじめな生活とは何か、なぜ働かなければいけないのかについて考える本。 ――ぼくら人間について、大地が、万巻の書より多くを教える。理由は、大地が人間に抵抗するかがためだ。人間というのは、障害物に対して戦う場合に、はじめて実力を発揮するものなのだ…

『ジョージ・オーウェル 文学と政治』照屋佳男

序章 「常識を武器に政治に関する真実を発見し直した稀有な作家」オーウェルはいまだ未知のものである。 彼は自分の自伝に「私は金もなかった、私は弱かった、醜かった、人気がなかった、慢性のせきに悩まされていた、臆病だった、悪臭がしていた……私は魅力…

『捜査』スタニスワフ・レム

『ソラリス』、『完全な真空』、『砂漠の惑星』につづいてこれを読む。 ――盲目的な偶然、偶然のはてしない組み合わせいがいはなにも存在しないのです。無限にある〝事象〟がわれわれの〝秩序〟を嘲笑っていますよ。 刑事グレゴリイは連続屍体移動事件の捜査…

『寒い国から帰ってきたスパイ』ジョン・ル・カレ

英国の諜報員リーマス・エリックと、東ドイツの諜報員ハンス・ディートリヒ・ムントが対決する。 (冷酷な殺人者)ムントによって東側潜伏の部下を皆殺しにされたリーマスは、一旦落ちぶれたと見せかけて敵を倒そうとする。管理官の計画にしたがい、部署をク…

『コンラッド中短篇小説集 1』

「潟」 マレーの原住民が白人に自分の過去を語る。彼は酋長に仕えるものだったが、この酋長の愛人を、弟とともに掠奪する。逃走中に弟が捕えられ撲殺されるが彼は女のために見捨てた。多島海と熱帯の表現がこまかい。 「進歩の前哨基地」 アフリカの植民地ポ…

『征服者・王道』マルロー

『征服者』は中国における革命運動を舞台にした小説。登場人物は活動家たちだが、特に社会主義文学のような印象は受けなかった。どちらかといえば、ロシアのアナキストたちを主役にしたコンラッドの本を思い出す。 『王道』はこの古本ではなく、その後講談社…

『緑の家』バルガス・リョサ

インディオと交渉するシスター(宣教師)と軍隊が、悶着をおこして退避する場面からはじまる。<緑の家>なる歓楽街の館を構える町ピウラ、インディオ教化につとめる修道院、ペルー軍、商売で儲けをたくらむ行政官ドン・フリオ、刑務所を脱獄した日系人フシー…

『夜間飛行』サン=テグジュペリ

危険な航空業務に従事する人びとの様子を書く話。 夜間飛行 南米のサン・ジュリアンからブエノスアイレスへ夜を徹して飛行する場面からはじまる。ジッドの序によれば航空会社は競争のために夜間飛行も辞さなかったのだという。夜の灯火、人間の火が注目され…

『ゴットフリート・ベン著作集3』

肉の医師はひたすら外科医的な、猟奇風味のことばを使う詩である。評論によれば「即物的な死」、人間の物体化をあらわしたものらしい。 初期の病院連作は猟奇的だが、「アラスカ」、「陶酔の満潮」はすばらしい。ベンは言葉遣いがおもしろいので読む気がおき…

『ゴットフリート・ベン著作集2』 その3

文学は生を改善すべきか 表題のようなことがよく叫ばれるが生活水準の改善という点から見れば国会議員や経済学や技術、医学などが十分やってくれているから文学の入る余地はない。そもそも文学とは……「今日もはや吟遊詩人は存在しないし、現にこのわたしども…

『ゴットフリート・ベン著作集2』 その2

抒情詩の諸問題 抒情詩についてのさまざまな話題。季節や風景を歌った詩は「私たち本当は歯牙にもかけません」。近代では小説と詩をどちらもやるものがいなかった。小説家はどうしても叙述、逸話をもとめてしまう。 ネルヴァルからはじまる表現芸術の根幹た…

『ゴットフリート・ベン著作集2』 その1

文学論 詩の問題性 科学万能の時代に詩の必要はあるのかという疑問が多数の人間によって投げかけられた。ベンの世紀、物理学者とともに双璧をなすのが人類学者である。詩人と時代というのがはやりの形式である。 ――時代とは何か? 時代が我々に口をきいたか…

『ゴットフリート・ベン著作集1』 その6

第五章 文学的なこと 現象学的小説。音の排列による完璧な芸術をはじめに提唱したのがパスカルであり結実させたのがフロベールである。 「サンスクリットの研究者の食卓でのそぶりで、その象形文字を見てとらねばならぬのか、また実存主義者はその哲学のため…

『ゴットフリート・ベン著作集1』 その5

第二部 二重生活 第一章 過去の影 ヒトラーが政権をとったときに亡命した人間の大半はただ個人的な危険を避けてそうしたのだった。それもロシアとは異なり直接処刑の危険にさらされたわけではない。ドイツ亡命者は「むしろ逆に、ロシアの亡命者たちを追い出…

『ゴットフリート・ベン著作集1』 その4

◆自伝 ベンの誕生から、詩人としての活動、ナチ党政権下での生活まで。特にヒトラー政権下での風景は笑える場面が多い。 二重生活 ――二つの自伝的試み―― 第一部 一人の主知主義者の半生 自らのもつドイツ精神の特質とはなにか。 「生まれながらに独特の精神…

『ゴットフリート・ベン著作集1』 その3

芸術と第三帝国 ワイマール朝は「奢侈と享楽の時代」だった。第三階級の力は頂点に達した。実証主義的世界像に亀裂が生じ、陶酔や精神病や芸術が「生物学的劣性」としてくくられる。 ――月の世界以前の人間が視野に歩み出てくる。彼と共に地質学上の天変地異…

『ゴットフリート・ベン著作集1』 その2

ニヒリズムの次に来るもの 「漸層的脳髄進化現象」とはどういう現象か。 ――著者は自問する、すべてを科学的に定義して行こうとする世界像に対して、われわれは今なお、創造的自由をもつ自我を主張しうるのか、と。 「構成的精神」とは一切の唯物的思想から解…

『ゴットフリート・ベン著作集1』 その1

ゴットフリート・ベンは、戦間期から戦後にかけて活動した詩人である。ドイツ語が読めないので翻訳でしか触れていないが、表現主義に影響を与えた言葉の用法に大きな衝撃を受けた。 また、ナチ党の台頭にともない多くの文学者、詩人が亡命する中、かれは軍医…

『プレクサス』ヘンリー・ミラー その3

――スタンレイのうしろには、いつも、戦士、外交官、詩人、音楽家といった系列が見えるのに、このおれはといえば、祖先なんてものがまるでいないのだ。自分でつくりあげるしかないのだ。 彼は自分を「どこの馬の骨ともわからぬ祖先をもった一アメリカ人にすぎ…

『プレクサス』ヘンリー・ミラー その2

引き続き貧乏生活は続く。 「ぼくが生活について無力なことは自他共に認めるところだ」。 ミラーは散文詩『メゾチント』を自分の知り合いに売りつけて回り、ロングアイランドの精神病院の院長にでたらめな署名で、電報にして送った。 ネッドの紹介で雑誌界の…

『プレクサス』ヘンリー・ミラー その1

『薔薇色の十字架』第二部。 「過去は、それが失敗や挫折の文字を綴るかぎり、非存在のまぼろしにすぎないのである」。 彼は近所の図書館で悪名を馳せた。 「ぼくはいつも貸し出し期限超過だとか、紛失(といっても実はぼくの書棚に鎮座ましましていたのだが…

『現代の英雄』レールモントフ

一部小説でよく名作として引用される小説。中短篇が集まってできている。ツルゲーネフ『父と子』といい、舞台は古いロシアだが、今読んでも納得のできる点がある。人間の精神は根底では変わっていないのかもしれない。 ナポレオン戦争後のロシア(推定)、エ…