うちゅうてきなとりで

The Cosmological Fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

2016-06-01から1ヶ月間の記事一覧

『はじめての部落問題』角岡伸彦

自らも部落民出身であるライターが部落問題についてわかりやすく説明する。 *** 部落の起源はかつては江戸時代の政治制度とされていたが現在では否定され、中世から賤民階級の形成が始まっていたという。穢多、非人以外にも無数の被差別身分があり、由来や職…

『Embracing Defeat』John Dower その2

5 犯罪 東京裁判と、各地で行われたB・C級戦犯裁判について。 アジアにおける軍事裁判は特にオランダ、イギリス、フランスが多く実施し、日本兵や朝鮮・台湾出身の兵を処刑した。 東京裁判の特徴…… ・GHQとキーナン判事は天皇免責工作を行った。 ・A…

『Embracing Defeat』John Dower その1

邦訳は『敗北を抱きしめて』。 当時の出版物や新聞記事、証言、またはデータを基に、日本人がどのように終戦と占領を受け入れたかを検討する。 日本人の占領に対する意識は驚くほど多様だった。また、米軍による政治指導者たちの処罰や施政方針は、戦争責任…

金切り声の山

影そっくりのもの。 わたしと、となりの影を まねるように、時計の 針のゆらぎはあるが、 この児童が持っている、ウサギの 耳の形をした時計の針を 見つめているうちに 日が暮れて、わたしたちは影の 国のなかにすっぽりと 吸い込まれる。 こうやって 昨日の…

「ブリッジ・オブ・スパイ」

公開:2015年 監督:スティーブン・スピルバーグ Bridge of spies 実話に基づいてつくられた映画。 ソ連スパイの弁護と、捕虜交換の交渉を行った弁護士の話。合衆国、ソ連、東ドイツ、それぞれの国を背負い仕事をする人物たちを描く。 ・弁護士は合衆国…

やさしいあわれみのはさみが

やさしいあわれみのはさみを 操作する。 ちょきちょき おお、108本の、指の 規律正しい動き。 むかし、わたしの耳の 水槽に住んでいた、 ヒドラを思い出すような 複雑なもの。 では、このはさみは、 何を切ろうか、 ちょきちょき ちょきと 魔法の木から …

『労働法入門』水町勇一郎

各国の労働法は、その国の労働観、宗教観に深く影響されている。 日本の労働法は欧州の考え方と、日本の伝統的な思考とが混ざったものであり、本書はその本質と特徴を明らかにするものである。 労働法の成り立ちから、労働法の枠組み、日本における運用と問…

『事件の核心』グレアム・グリーン

ネタバレ注意 素直で信心深いカトリックの中年男が、不倫にやましさを感じて自殺する話。 警察副署長スコービーの配偶者ルイーズは、植民地の社交クラブで爪はじきにされている。この女は、植民地にやってきた素性の怪しい男ウィルソンと不倫をする。 一方、…

『日中戦争 殲滅戦から消耗戦へ』小林英夫

日中戦争を日本の殲滅戦略(ハードパワー)と中国の消耗戦略(ソフトパワー)との衝突としてとらえ、検討する。その際、2003年公開された憲兵隊の検閲記録を参考とする。 前半は、著者の提唱する枠組みから日中戦争を検討する。 後半は、検閲された通信…

サラダ病

その人は、いや、 代理人の長は、 冷却材でゆっくりと脳をひやす。 大理石の脳も当然のこと ではわたしの脳は その人の脳はどのような 素材からできているだろうか。 「残念ながら、大理石 ではない」 赤土と、立体の ための粘土、他には 何があるだろうか、…

「マックス・マヌス(ナチスが最も恐れた男)」

制作:2008年 監督:Joachim Rønning "Max Manus: Man of war" ノルウェー・レジスタンス活動家を主人公にした映画。 国王と軍は英国に亡命しており、本土に潜り込んだマヌスたちは絶望的な戦いに挑む。占領下において妨害工作を行うが、敵の数や武器は…

『物語の作り方』ガルシア=マルケス

リョサの「若き小説家に宛てた手紙」とは異なる方法で、物語の創作について考える。 お話をどう語るか 「わたしにとって何より大切なことは、創作のプロセスなんだ」、人に語って聞かせたいという情熱は大きな力をもつが、よくよく考えると何の役にも立たな…

『ホイットマン詩集―対訳』 その2

「ホイットマンは人間の自然な本性(Nature)を尊重する立場から肉体的・物質的なものも霊的なものもすべて等しく重要であると考えていた」 ――And nothing, not God, is greater to one than one's self is, 「また、商売であれ、雇われ仕事であれ、それにた…

『ホイットマン詩集―対訳』 その1

ヘンリー・ミラーの尊敬する作家であるホイットマンの対訳詩集。 岩波文庫版は翻訳と原文とが並んでいるため、理解の助けになる。わたしは10年以上前に読んだので、意味の把握に難があり、文字通り雑然としたメモしか残っていない。しかし、読んでいる最中…

『Eichmann in Jerusalem』Hannah Arendt その2

8 良民の義務 アイヒマンはカントの定言命法を引用し、自らの規律にのっとって行動した、と弁明した。しかし、最終的解決の決定以降はカントに限界を感じ、命令者ヒトラーの原則を自分の原則と考え行動した。 ハンガリーはドイツの干渉を嫌うため、ユダヤ人…

『Eichmann in Jerusalem』Hannah Arendt その1

副題「悪の凡庸性について」 アイヒマン裁判についての記録。 1963年に出版されたこの本は、欧米やイスラエルのユダヤ人から非難を浴びた。 アイヒマンを悪の権化ではなく、凡庸な、思考停止した愚か者と解釈したこと、そのような凡庸な人物が悪をなすこ…

「ハンナ・アーレント」

制作:2012年 監督:マルガレーテ・フォン・トロッタ アイヒマン裁判についての文章を発表した哲学者が世間の攻撃にさらされるが、自分の確信を曲げずに貫く様子を描く。 人間の悪の正体を見極め、また思考不能、思考停止こそが人間を悪と残虐行為に駆り…

連続1

紫色の、海の虫たちのいる 船底から、わたしたちの 歴史が収束し、1つの花の環に なった。 野ばらと、可視光線の編上げによる 皆殺しの環と、 それを、つなぎあう手と手が わたしの頭部になる。 かれらは、その他の区域のすべて、 「心室と、心室との連接」…

『憲法』芦部信喜 その2

10 経済的自由権 職業選択の自由、居住・移転の自由、財産権を総称していう。精神的自由に比べてより多くの、広範にわたる規制を受ける。 規制が合憲であるかどうかは、「合理性」を基準に審査される。 財産権はフランス人権宣言においては神聖かつ不可侵…

『憲法』芦部信喜 その1

◆感想 憲法には理想・理念が詰め込まれている。しかし、実際にどう運用されているかが問題である。 理念はそれだけでは国家権力を服従させることができない。人力によって目的を達成することが必要である。 平和主義、特に9条については、自衛隊創設時から…

『昭和天皇』古川隆久

目的……昭和天皇について実証的な研究を行い、実像の把握につとめる。 *** 1 思想形成 裕仁は大正天皇の子供として生まれた。学習院で初等教育を終えてからは、東宮御学問所で様々な教科を学んだ。このときにダーウィンの進化論や実証史学に触れており、天皇…

『しろばんば』井上靖

親類の老婆の家に預けられた子供についての話。伊豆半島の田舎が舞台である。 作者の小説には、いじめっ子に対して卑屈にならず勇敢に立ち向かう人物がよく登場する。無口であっても石をもって暴れ出す姿を見て、主人公は自分の卑屈さ、弱さを反省する。 育…