うちゅうてきなとりで

The Cosmological Fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

2016-02-01から1ヶ月間の記事一覧

『誓い』ハッサン・バイエフ

――殺戮の脅威や長年の戦争によって、わたしたちチェチェン人は、人間的感情の表出が敵の眼に弱さと見られることを恐れて、できるだけ自分の感情を隠すように条件づけられてしまった。 *** チェチェン人ハッサン・バイエフの自伝。 医者になり、チェチェン戦…

『Mohammed and Charlemagne』Henri Pirenne

イスラム帝国の成立が、ヨーロッパ世界を誕生させたと主張する本。著者のアンリ・ピレンヌはベルギーの歴史家で、本書は死後の1937年に刊行されたとのこと。 「ムハンマドなくしてシャルルマーニュなし」という命題が、マルク・ブロックらアナール学派に…

『スカルノとスハルト』白石隆

インドネシア初代大統領スカルノと2代大統領スハルトの伝記。 著者によれば、スカルノは貴族の子であり、ロマン主義者である。一方、スハルトは小役人の子であり、現実主義者である。 *** 1 スカルノはオランダ東インド統治下、ジャワ島スラバヤで生まれた…

『誘拐』ガルシア=マルケス

コロンビアの麻薬商人パブロ・エスコバルによる誘拐取引と、かれが政府に投降するまでの話。 ほとんど事実を列挙することにより作品が成り立っているが、一部、修辞的な文章がある。 エスコバルはコカイン取引によって財をなし、かれの率いる麻薬組織は大き…

糸との草

声を聴いた、糸をわけてほしいという あぶくとともに、沼の奥から、こんな真夜中にも かかわらず、 脳に負荷のかかる声が聴こえる。 人びとをあみあげる糸、 脳の、球体的な部分をつくる糸、 そのような、 わたしたちの日々の沼を波立てる あらゆる糸が、魚…

『審判』カフカ

中学校のときに読んだが再び読んだ。『城』は退屈で投げたがこちらは読みきった記憶がある。 ヨーゼフ・Kが突然訴訟を起こされてから、2人の男に連行されて処刑されるまでの話。何か理不尽な理由で逮捕され、最後まで理解できずに処刑されるという話にはイ…

『神を見た犬』ブッツァーティ

ブッツァーティはイタリアの小説家で、他に『タタール人の砂漠』というおもしろい本を書いている。 短い話を寄せ集めたもの。文はわかりやすく、昔話に似た印象を受ける。キリスト教を題材にしたものや、日常の出来事を拡大させたものが含まれる。いくつか、…

『小海永二翻訳選集2 アンリ・ミショー集』

みじめな奇蹟 メスカリン(ペヨトルサボテンに含まれる幻覚剤)服用時の記録。 幻覚作用が発生したときのメモ、印象などが書かれている。 漠然とした気分が連なっておりすべて読み通すのは難しい。 荒れ騒ぐ無限 前作と同じ、麻薬服用報告が8つ含まれる。麻…

『小海永二翻訳選集1 アンリ・ミショー集』

小海永二によるミショーの翻訳を集めたもの。 *** 「わが領土」 題目ごとに、架空の風土、架空の動物についての思い出が書かれる。 ――重さが、ペストが、腐敗が、 壊疽が、殺戮が、併呑が、 ねばねばしたものが、消滅したものが、悪臭を発するものが、 その…

『地図の歴史』織田武雄

地図は文字よりも古く、その当時の人間の世界観をよく表している。本書は古代から近代までの地図の発展をたどる。 *** 地図は未開民族の間でもつくられていた。 古代……初期ギリシア人は、世界は平面であり、オケアノスという海に囲まれていると考えた。 アレ…

『統合失調症』林公一

1 医師が病気について勉強するときはまず症例を調べる。本書は統合失調症の症例をわかりやすく示すことを目的とする。 統合失調症は脳の病気であり薬を飲まなければ何も始まらない。 2 統合失調症は100人に1人の割合で発症する。主に20歳前後に発症…

粘菌の格子

てのひらから、手首、腕の骨と骨のくぼみ、主たる腕骨の峰をとおっていく水の音がする。 純度の高く、冷たい音のする水。 海の近くの工場から、運ばれてきた。 わたしは、赤い舌と耳をもつ技師たちにたのんで、 長い血液ラインをつくってもらった。 気持ちの…

「サウルの息子」、戦争関連の資料館巡り、その他

映画「サウルの息子」を観に行ったので紹介します。あわせて、年末から年始にかけて観光した資料館について。 ◆「サウルの息子」 映画『サウルの息子』予告編 ハンガリーの若い監督による。 ゾンダーコマンドとして働く男は、自分の息子と呼ぶ子供の屍体を埋…

『公認会計士VS特捜検察』細野祐二

本書は粉飾決算を関係者とともに共謀したとして逮捕され、東京地検特捜部から起訴された公認会計士の体験を題材とするものである。 1 経緯 公認会計士細野は株式会社キャッツの経営アドバイスを行っていた。キャッツの社長である大友と、経営首脳の村上らは…

『暗号を盗んだ男たち』桧山良昭

日本における軍事暗号利用の歴史を辿る本。一部、脚色があるという。 暗号技術の発展により危機感を抱いた日本陸軍は、第1次大戦後誕生したポーランドから将校を招き暗号の基礎を学んだ。この将校の教え子たちが後の日本陸軍暗号の基礎を作り上げた。 参謀…

『不確定性原理』都筑卓司

量子力学の根幹である不確定性原理について、たとえ話を用いて説明する本。 体系的にわかりやすく理解させるのではなく、エピソードを通して、あくまでも量子力学や不確定性原理の本質やイメージを伝えることを目的としているようだ。 *** ラプラスの悪魔は…

『国会事故調報告書』東京電力福島原子力発電所事故調査委員会

原発事故についての調査報告書。分厚いが、内容を理解しやすいように書かれている。 結論 共有認識……東日本大震災に伴う東京電力福島原子力発電所事故は現在も収束しておらず被害が継続している。 根本的な原因……シビアアクシデント対策や住民保護など、東京…

『日本の統治構造』飯尾潤

日本の政治制度について説明する本。特にシステム面について検討した本であり、読みやすい。 はじめに 議院内閣制は、行政権の成立根拠を議会すなわち政権党に置く制度である。 ――本書は、日本における議院内閣制の分析を通し、国会、内閣、官庁、政治家、官…

試験的なとき

あのイヌこそは イヌの中のイヌ 胴体の 中枢まわりにぴったりと 神経基盤が接続され あたかもイヌが 夜霧のなかで からだをきたえるような 幽霊の 骨髄的な声を出した 湿った土と、内燃の 腸を袈裟がけにした 調査官は 黒いブーツで足跡を書く それらは 大き…

『死の家の記録』ドストエフスキー

帝政ロシアの監獄に入れられた人物の回想という形式をとる本。収容所を書いたフィクションはソルジェニーツィンも制作しているが、ロシアにおいてはこのような施設が連綿と受け継がれてきたということがわかる。 囚人たちの性質や、日日の生活を説明する。以…

『対極』クービン

架空の人工都市を題材にした物語。 似たような幻想的な作品ではマルセル・ブリヨンやジュリアン・グラック、ユンガー『ヘリオーポリス』が思い浮かぶが、本書の結末は特に強烈である。 翻訳は『対極』、『裏面』と2種類あり、わたしが読んだのは『対極』だっ…

『国際宇宙ステーションとはなにか』若田光一

国際宇宙ステーションの概要から、宇宙飛行士の仕事までを説明する。宇宙飛行士はパイロットと同様、心身ともに高い水準を要求される。最後のスローガンは子供のように単純だが、それを実行するのは大変困難である。 1 ミニ地球 国際宇宙ステーションIntern…

『頭脳勝負』渡辺明

竜王が将棋の魅力を紹介する。 将棋は技術だけでなく精神力も要求される。相手との駆け引きや、態度が勝負を左右する。 どのような手を打つか考えるためには、長時間にわたる集中力のコントロールが必要である。 戦型には大別して居飛車と振り飛車の2つがあ…

『生命とはなにか』シュレーディンガー

物理学者シュレーディンガーによる、生物を物理の言葉で説明する本。生物もまた物理法則に基づく現象の1つであることを示す。 若干難しいのでさらに勉強が必要だと感じた。 生きている生物体の空間的境界の内部でおこる時間・空間的事象が、物理学と化学に…

端末室の歌

1秒の眼の運動後もう1秒の眼を押下する満足の指 夕焼けの岩の表皮に蚊の腹を押し付けて血の雫をにぎる 逆さ吊りの子供の態度が検査官の心に宿るテレタイプ顔を ヨモギには拡散された棘があるヨモギを食べる牛の尾を踏む