うちゅうてきなとりで

The Cosmological Fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

2015-08-01から1ヶ月間の記事一覧

『不穏の書、断章』フェルナンド・ペソア

ポルトガルの詩人の本。 前半がペソアのさまざまな原稿や書簡からの断章、後半が不穏の書である。これはベルナルド・ソアレスというペソアの別人格によって書かれた。 「詩人とはふりをすることだ」という聞き覚えのある言葉。感情を感じたふりをする、そう…

『自由と社会的抑圧』シモーヌ・ヴェイユ

フランスの哲学者の本だが、内容が難しかったので漫然としたメモになった。 マルクス主義を批判し、人間の歴史が常に抑圧とともにあった事実を検討する。人間を、自然や社会形態、権力から解放するためには、個人の自由な思考が重要である、と考えているよう…

『自動車絶望工場』鎌田慧

トヨタの劣悪な工場労働を記録した古典的な本。著者は他にも炭鉱夫について本を書いている。 企業が唱えるスローガンの嘘くささは現在もまったく変わっていない。単調な作業について、一日目は記録できるが、二日目からは何も言うことがない。退屈は言葉を奪…

測定する男

ひそかに、雨音のする崖から ぶらさがる男。 搬送波的な 2つに分裂した眼と眼、やがて 顔をこちらに 向けて、じめじめした 管路を掘りあてる男。 わらと泥を口いっぱいにほおばる 森のなかの森。

『夜の言葉』ル=グウィン

『ゲド戦記』の作者グウィンの創作論。伝統的に子供向けの幼稚なジャンルとされてきたSFやファンタジーの価値を検討する。 グウィンが作風を確立するためには、SFというジャンルのなかでの試行錯誤が必要だった。 一定のジャンルに沿って書けばそれだけで…

『言葉のアヴァンギャルド』塚原史

未来派、ダダ、シュルレアリスムといった20世紀初期の芸術運動について。著者はダダ研究では有名とのこと。 共産主義の終焉によって再びヨーロッパにあらわれた「歴史と地理の文化」は、21世紀の前触れである。革命と進歩と神々の死の時代はおわった。変…

『ケルト/装飾的思考』鶴岡真弓

アイルランドにおける装飾写本、造形美術、十字架等を通してケルト人の文化を紹介する本。 ケルトはゲルマンとともに北方の文化である。十一世紀、ギラルドゥスの『アイルランド地誌』によればその装飾写本は彼に衝撃を与えたのだった。 五世紀はじめ、聖パ…

『アジア史概説』宮崎市定

古代から近代にかけてのアジア全域の歴史について。 宮崎市定は歴史において重要な要素として民族、土地、交通をあげる。特に歴史とは諸国家、諸民族間の交通とそれに伴う競争により発展してきたのだと彼は主張する。 第一章 アジア諸文化の成立とその推移 …

『小説の黄金時代』スカルペッタ

現代小説12作品についての批評。日本語が難しかったので飛び飛びにしか読んでいない。 サルマン・ラシュディ『悪魔の詩』は一神教体制にたいするアイロニーの書である。宗教がほかのすべての言語、テクストを犠牲にしてひとつの言語を確立するのに対し、文…

『史的システムとしての資本主義』ウォーラーステイン

「世界システム論」等を提唱したことで知られる社会学者。 一時期ブームになった後、例によって忘れられたとのことだが門外漢なので詳しくはわからない。わたしがこの本を読んだのはブローデル、マルク・ブロックらの歴史学とのつながりからである。 本書は…

海洋学

甲板に たっぷり水を含んだ『治癒の書』が 貝のようにくっついている。 通信室から出てきた ビット長の子供たちと、足元の 本を踏む。 白い肉、足裏の文様が、羊と 山羊の革にぴったりと 押し付けられ、 子供のはしゃぎまわる 足跡を くっきりと記録する。 …

『砂漠の惑星』スタニスワフ・レム

ソラリスと並ぶ三部作だとのこと。 惑星レギスで消息不明になったコンドル号探索のため、ホルパフ隊長とロハンらの乗り込む無敵号は砂漠の大地に着陸する。 『ソラリス』では知性をもつ海が相手だったが、本書は自在に動く鉄の雲と遭遇する。この雲は円盤飛…

『キャッチ=22』ジョーゼフ・ヘラー

奇妙な登場人物と不条理な軍隊を題材にした戦争小説。戦争を題材にしたフィクションの中でも記憶に残る作の1つである。 兵隊たちは責任出撃回数を終えても帰国できないため必死で任務をさぼろうと奮闘する。一方、異常な指揮官たちはかれらに非人間的な爆撃…

『ジョイスとケルト世界』鶴岡真弓

アイルランド、アイリッシュ・ケルトはヨーロッパの周縁を前線に逆転させ、珍しいことばや形象をうみだした。 全米で三月に行われる聖パトリック祭はもともとアイルランド移民のイベントだった。三つ葉のクローバーは「シャムロック」、緑色。 一八四〇年の大…

『比較言語学入門』高津春繁

比較言語学とは近代に創始された学問であり、特にインド・ヨーロッパ語族(印欧語族)を対象とする。言語学は19世紀から20世紀にかけて大きく発展したが、本書で紹介される方法は今でも有効性を持っている。 第一章 言語の比較研究 比較研究はおもに三つ…

『時間』吉田健一

時間の観念についての本。吉田健一の本のなかでも特に文体の特徴が強く出ている。 ――併し一秒前の針の位置が三秒前、四秒前のことになってその四秒前が過去であると考えるのは物理的な所謂、時間が頭にあってのことでそれならば過去、現在の区別も全く物理的…

『ヴァーチャル・ウォー』マイケル・イグナティエフ

原題はkosovo and beyond。 コソヴォ紛争を筆頭とする、彼のいうヴァーチャル・ウォーは、地上戦が欠如しているところにその特性がある。イラク戦争とコソヴォ紛争はどちらも国際連合を無視して行われた。 人権をトランプの切り札のように考えては、「人権の…

夜間警備の海

月の探照灯がうごきだすと、 わたしたち搭乗員は、 光の柱が、黒い海面に 突き刺さり、沖から沖へ ということはつまり、 もう見えなくなる埠頭に向けて 量子のたばが指向していくのを確認する。 かれらは乗った。 そして、かれらの 金属のドンガラに溶接され…

『武装解除』伊勢崎賢治

国際NGO、国連等で紛争地帯の武装解除に取り組んできた人物の書いた本。 紛争を調停し、武装を解除させ、民主化を支援する仕事がどのようなものかを解説する。NGOや人道支援ビジネス、紛争の実態について詳しく書かれている。 紛争の調停は現地の武装…

『民族はなぜ殺し合うのか』マイケル・イグナティエフ

この本は具体的な紛争地域の解説からなる。ウクライナ、トルコ等、近年情勢の悪化した地域も取り上げられている。 民族ナショナリズムは旧共産圏、民主主義国の双方で発生している。 ナショナリズムが殺人を命じるとき、それは民の「善の心」に訴える。そし…

『外国語上達法』千野栄一

外国語学習をする人間に必読だと評判の本。千野氏は語学の才能がないことに失望し、ポリグロット(多言語使用者)の伝記をよく読んだ。彼いわく才能もあるが、それだけでなく上達法も大切なのだという。 バイリンガル、二つの言語を同等に使いこなせるには努…

『彼らは来た』パウル・カレル

ノルマンディー上陸を題材にしたドイツの戦記文学。 一九四四年六月三日、D-DAYの三日前からはじまる。ノルマンディはコタンタン州、伝書鳩がいまだに、英国諜報部とフランスレジスタンスの間で用いられていた。北仏を統括しているのはロンメル将軍で、彼は…

『イスラーム文化―その根底にあるもの』井筒俊彦

イスラーム学者の古典的な入門書。イスラーム文化の根源を論じる。 「イスラーム文化もまた、地中海文化、イラン文化、インド文化、アフリカ文化等との文化枠組的接触の、創造的エネルギーの働きの所産にほかならない」。 Ⅰ 宗教 イスラームは宗教的基盤の上…

『ほんまにオレはアホやろか』水木しげる

落ちこぼれ扱いをされて生きてきた作者の回想について。水木氏は子供のときから落第生で、戦争では片腕をなくし、その後は漫画家を目指して貧乏な生活を続けた。しかし、死なない限り暗くなることはないという。 戦争で片腕を失った水木氏の戦争観に対して、…

『戦艦大和ノ最期』吉田満

戦記文学で有名なもの。全部カタカナで、覚書を思わせる形式を使用している。始めは読みにくいがすぐに慣れた。 「コレガ俺ノ足ノ踏ム最後ノ祖国ノ土カ、フト思フ」。 大和は呉を出て周防灘を過ぎ沖縄の本島周辺米軍上陸地帯へ向かった。 通信士中谷少尉はア…

『英語と英国と英国人』吉田健一

『吉田健一著作集 Ⅸ』に収録されていたもの。英語学習のアドバイスや、英国人と英国文化についての漫談。 この本は英語を勉強するときの参考になった。 「英語と英国と英国人」 著者によれば、外国語は外国語と開き直って取り組むべきである。 「外国人は一…

聴くことのひも

呪いの花の壁によりかかって聴く、 あの人たちは聴く、今、 平面の人たちの声を 耳の規律を正して、 風のたわみから 両手で電気的な雑音を すくいあげる。 あれは、副官の首 睡眠の積もり積もった土から フレンチ式バルブのように、指で ねじりとった首、 き…

『声の文化と文字の文化』オング

口語文化と文字文化との大きな違いを論じる。科学や哲学に含まれる特長の多くは人間生来のものではなく書く技術がもたらしたものである。本書では声文化と文字文化をそれぞれオラリティー、リテラシーと呼ぶ。 「ホモ・サピエンスが地上に出現したのは、いま…

『機械発明史』アボット・ペイソン・アッシャー

戦前に刊行されたもの。 訳者序文によれば、本書は機械発展の地理的環境および発明の功績をとりあげるものである。技術的で難しい箇所もあるが大まかな発達の流れはわかる。 第一章 経済史上における技術工学の位置 機械の発明を論じるにあたってまず用いら…

『批評の途』ノースロップ・フライ

副題は「文芸批評の社会的コンテクストにたいする試論」。フライはブレイクの解読を足がかりにして、批評の役割を考えていた。 文学を、学問や思想から切り離し、作品そのものとして受け入れる立場をとる。 所々難しくて理解できない箇所がある。 第一章 ――…