うちゅうてきなとりで

The Cosmological Fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

『社会契約論』ルソー その2 ――社会契約説の古典を読む

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 3 政治の法、すなわち政府の形態について

・自由の実現のために力と意志、すなわち「立法権」と「執行権」が不可欠である。立法権は主権者としての人民に属するが、執行権は、主権者の代理・公僕たる政府が担う。

・執行を担うものが最高行政であり、「統治者」あるいは「行政官」である。

・人口が多ければ多いほど臣民1人の権利は減少し、また多ければ多いほど、政府の力を強くしなければならない。すると公権をあずかっている人びとは権力を乱用しがちになる。

・規模に応じて「政府」のかたちは様々である。

 

 国家は自分自身で存在するが、政府は主権者がなければ存在しない。政府・統治者の力は、統治者に集中された公共の力に過ぎない。

 

・政府はすすんで国家と人民の犠牲にならなければならない。

・しかし、行政官すなわち政府は常に個人の利益、団体の利益を優先する傾向にあり、一般意思は後回しになる。

・行政官の数が増えれば増えるほど一般意思に近づいていき、行政官が1人であればそれは個別意志でしかない。

・政府の形態……

 民主政……主権者は政府を全人民に委任する

 貴族政……主権者は政府を少数の人びとの手に委任

 君主政または王政……主権者は、政府全体をただ1人の行政官の手に集中させる

 

・民主政において、立法と執行が一体化するのは問題である。立法が私的利益に傾くほうがより危険である。

 

 民主政は小規模で平等かつ徳のある人民を要求する。

 

 ――もし神々からなる人民があれば、その人民は民主政をとるであろう。これほどに完全な政府は人間には適しない。

 

・貴族政……自然的なもの、選挙的なもの、世襲制のもの。世襲貴族はあらゆる政体で最悪のものである。

 貴族政では主権者すなわち市民の一般意思と、行政の一般意思とがある。

 有能な行政官による効率的な統治が可能だが、政府団体の利益はより重視されがちになる。

 

・君主政……強力な政府を実現できるが、その統治の力は絶えず国家を害する。

 

 ――国王の個人的利益は、まず第一に、人民が弱くて、貧しくて、決して国王に反抗しえぬということである。

 

 行政官が1人であることで、統治者と人民との距離ははてしなく広がる。そのため中間い貴族や王侯を置くことになる。

 

 ――……君主政において立身出世するものは、もっとも多くの場合、小乱暴者、小悪党、小陰謀家だけであって、かれらの小才は宮廷において要職をかちうることはできても、ひとたび地位をうるやいなや、かれらの無能を民衆に暴露するに役立つのみだということである。

 

 君主政の最大の不便は後継者選定とその内紛である。世襲制と摂政制度は選定を放棄しただけである。

 

 ――優秀な王の選挙について争うよりも、子供や不具者や低能を首長としてもつことを、好んだのである。

 

・実際にはこの3つの政体は混合する。

モンテスキューが書いたように、自由がすべての風土に適合するわけではない。気候や土地の生産性、人口によって、適した政体……未開か、君主制か、共和政かが異なる。

・税は人民と政府との距離が遠いほど重くなる。よって君主政はもっとも重税であり、豊かな大国にしか適さない。

・よく統治されている市民の指標はただ1つ、人口増加のみである。ルソーはマキャヴェリを引用する。

 

 ――少しくらいの動乱は、魂に活動力をあたえる。そして、真に人類を繁栄させるのは、平和よりもむしろ自由である。

 

・政府の堕落……衆愚政治、寡頭政治、僭主(王権簒奪者)と専制君主(主権の簒奪者)

 

・主権は心臓、執行は脳髄である。心臓が止まればいずれ脳髄も停止する。

 

・主権は市民の集会をもって行使される。定期集会を法で定め、それ以外の集会は非合法にすべきである。首府を置かずに国内の都市に平等の権利を与えるべきである。

 

・ルソーの代議士、代議制への態度:

 主権は代表されず、一般意思も代表されないという原則から、代議士は決して人民の代表者ではない。人民が会議や国防の義務を金で代用したときに、かれらはすでに奴隷の道を進んでいる。

 

・政府の設立は、法の制定と法の執行からなる。民主政は、一般意思によって政府を設立することができる。かれらが民主政を継続するのであればそのまま法の執行が行われる。

・政府をつくる行為は契約ではなく、1つの法である。よって、この政府は人民が行政のためにあたえた仮の一形態である。

・政府が主権を簒奪し乗っ取らないよう、定期的集会を規則化することが不可欠である。統治者・政府が反対派の定期集会を禁じたとき、これが国家に対する敵対行為であることは明白である。

 

 

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 4 政治の法と、国家の体制をたかめる方法について

 真の民主政は決して実現しない。よって、ここで提案されるのは完全な自由と平等が確保されたと仮定したうえでの理想の形態である。

 

・議論、論争、党派は無用である。理想的な民主政においては一般意思は多数派を意味し、それが正しいものである。

・政府は抽選で選ばれる。なぜなら全市民は能力でも平等だからである。

・軍事など固有の技術を必要とする分野では選挙を併用すべきである。

・直接民主政による投票、必要であれば秘密投票を行う。

・ローマの民会制度を細かく説明する。

・護民府……特別の場合に法と立法権を保持する臨時機構。

 

・独裁……緊急の非常事態の場合、2つの策がある。政府の活動つまり執行権を1名ないし2名に集中させる。さらに独裁官は非常に短い期間のみ、立法と執行を掌握し危機を乗り越える。

 

・監察……一般意思の表明は法が、世論の表明は監察官がおこなう。ルソーの定義では、世論ももう1つの法である。

 

・宗教……古代、政治上の戦争はすなわち宗教戦争だった。神が政治を司っていたからである。改宗はすなわち征服を意味した。

 キリスト教誕生以降の二重権力は害悪であるから、統一されなければならない。

 

・宗教の三分類……人間の宗教(純粋にして単純な福音)、市民の宗教(外的な礼拝、各民族に固有の宗教)、第三の宗教(二重権力)

 純粋な福音に基づいたキリスト教は、現実のキリスト教徒とかけ離れており、理想的ではあるが「服従と依存」だけしか説かないので圧政にとって好都合である。

 そしてかれらはあの世を重視するためそれに抵抗しない。

 

 宗教に統治者の役割を与えてはならない。そのうえで、宗教に対する寛容を確立すべきである。

 

 

社会契約論 (岩波文庫)

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