4 危険な時代
国際テロリズムの本家たる合衆国の活動を検討する。
1962年10月キューバ危機の見直し……キューバがソ連に支援を求め、ソ連がミサイルを運搬したのは、キューバを合衆国の侵略から防衛するためだった。
合衆国はソ連のふところであるトルコに核ミサイルを配備していた。またアイゼンハワー時代のグアテマラクーデタ支援と同じように、キューバに度々武力工作やテロを行い、政府転覆を試みていた。
・CIAのアレン・ダレスが中心となって、亡命キューバ人の訓練、潜入工作、工場施設破壊、放火、カストロ暗殺作戦などが長期にわたって行われた。
・1961年4月 ピッグス湾事件
・1961年後半~ マングース作戦
・1960年代を通じてキューバに対するテロ活動が続けられ、そのほとんどの発生源がマイアミだった。
その他の抵抗:
・グアテマラへの軍事介入は、ソ連が関与する前に行われた。合衆国が警戒していたのは、中南米諸国がキューバをモデルとして、それぞれの主権を持つことだった。
・ブラジル、エルサルバドル、チリ、インドネシアも同様に、国際テロリズムの犠牲となった。
ベトナムにおけるミライ地区虐殺よりも、国家規模で行われたキューバや諸国に対する犯罪行為の方が重大である。
レーガンはニカラグアを、米国の喉元につきつけられたナイフ、癌と形容し、軍事介入や民兵への武器供与を行った。
シュルツ国務長官は「テロリズムとは一般市民に対する戦争である」と警告したが、その言葉のとおり、合衆国はリビアを爆撃し市民を殺害した。
軍事介入と独裁者ソモサへの支援により、ニカラグアの社会経済は破壊された。
――キューバと同様、ニカラグアはテロ攻撃に対し、合衆国爆撃や政治指導者暗殺その他の手段に訴えなかった。それらは合衆国の指導者が最も得意とする手段だが。
ニカラグアは合衆国の攻撃を国際司法裁判所(The World Court)に訴え、違法との判決が下ったが合衆国は無視した。
・ベトナム戦争をめぐる合衆国内ハト派とタカ派の発言の違い……
カーター「我々は相互に苦しんだのだから賠償は必要ない」
ブッシュ父「我々は過去を蒸し返さない、ベトナムが我々にした犯罪は忘れないが、MIA(Missing in Action(戦闘中行方不明者))の捜索をしっかりしてくれればいい」。
侵略者が犠牲者に賠償金を支払わせる伝統……
義和団の乱、ベトナム戦争、ジョージ・ワシントン(イロコイ族を虐殺した後、かれらが秩序を乱したとして賠償金を科した)。
レーガン政権時代、ニカラグアが50年代製のミグ戦闘機を輸入したところ、合衆国は激怒し自衛のための爆撃を主張した。
ニカラグアは合衆国とその支援団体による殺人、拷問、強制失踪に苦しんでいた。
・ジョン・ネグロポンテ(John Negroponte):ホンジュラス大使館においてニカラグアへの国家テロを指揮
・ドナルド・ラムズフェルド(Donul Rumsfeld):中東テロの責任者、サダム・フセインへの親善大使
・エリオット・エイブラムス(Elliott Abrams):中米テロ責任者、コントラ事件の主犯(ブッシュにより恩赦)
・コリン・パウエル(Collin Powell):中米テロの担当、アパルトヘイト支援者
・ジョン・ポインデクスター(John Poindexter):イラン・コントラ担当
ニカラグアと異なり、エルサルバドルは自衛手段さえ持たず、テロの主体は自国の治安部隊だった。
ラテンアメリカは合衆国による暴力をよく知っている。中南米における合衆国の振る舞いはロシアや中国と変わらない。
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5 イラクコネクション
ブッシュ政権とその起源について。
国外分野:
・「テロリズムとはわれらの指導者がそう宣言するものである」
・冷戦時、CIAはイスラム過激派に対し支援を行い成功した。アフガンにおけるムジャヒディンの支援は、その後同国を混沌に引き込んだ。
ソ連崩壊後、過激派はCIAマニュアルに基づき、国際テロを開始した。
・対イラン政策のため、サダム・フセインはレーガン=ブッシュ政権によって熱心に支援された。
共和党の重鎮ボブ・ドールらがイラクを訪問した。合衆国はイラクの大量破壊兵器開発を支援した。
・その他、合衆国が面倒を見た化け物たち……
フィリピンのマルコス(Marcos)、ハイチのデュヴァリエ(Duvalier)、チャウシェスク(Ceausescu)、スハルト(Suharto)、ザイールのモブツ(Mobutu)、韓国の軍人大統領たち、パナマのマヌエル・ノリエガ(Manuel Noriega)。
――旧友のならず者たちの陳列が忘却のかなたに消えると、新しいお気に入りが現れる。ウズベキスタンのイスラム・カリモフ(Ismlam Karimov)、トルクメニスタンのニヤゾフ(Niyazov)、赤道ギニア(Equatorial Guinea)のテオドロ・オビアン(Teodoro Obiang)。
国内分野:恐怖を煽ることは、国内問題(景気、雇用、福祉)を隠し支持を集めるために不可欠の手段である。
イラク戦争は国連・国際社会の反対を無視して行われた。ブッシュ政権は、イラク侵略が大量破壊兵器とテロの拡散を呼び起こすものだと自覚していた。しかし、政権と受益者にとってそれは大した問題ではなかった。
戦争遂行者は、国連や人道組織が訴える侵略後の人道危機に全く無関心だった。暴君フセイン時代にはまだ中産階級や高等教育機関が存在した。
合衆国、イギリスはかつての子分フセインに牙をむいた。ドイツ、フランスは合衆国への追従を拒否したため、ブッシュ政権から「幼稚園児」、「反米主義」と罵られた。
イタリア、スペインなど8ヶ国は、世論の反対を押し切って戦争支持を表明した。
トルコは国民、エルドアンともに反対したが、合衆国の圧力により派兵を決定した。ところが議会がこの案を無効にした。
中東における民主化の第一人者であるポール・ウォルフォウィッツ(Paul Wolfowitz)国防副長官は、「トルコにおいて軍が世論・政府に屈し、強いリーダーシップを発揮しなかったこと」を叱責した。
民主化と経済的新自由主義(Neoliberalism)は強制的に課される。
――民主主義の名残といえば商品を選ぶ権利くらいのものである。
イラクは石油拠点であるため、東ティモール、コソヴォ、アフガンのように放置されなかった。
ただし、イラクが本当に民主化した場合イスラム政権ができるだろうから、これをブッシュ政権が許容するはずがない。
[つづく]
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Hegemony or Survival (The American Empire Project)
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