うちゅうてきなとりで

The Cosmological Fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

最大の復讐は敵と同類にならないことである

 ◆おぞましい皆既日食

 タイトルはマルクス・アウレリウス『自省録』からの引用である。

 

“The best revenge is not to be like your enemy."― Marcus Aurelius, Meditations

https://www.goodreads.com/quotes/428368-the-best-revenge-is-not-to-be-like-your-enemy

 

 自分は普段本を読むとき、必ず3冊平行して読むようにしている。現在は

 

・日本語

・英語

・技術系

 

 と大まかに分けている。さらに、各ラインごとに読むジャンルの周期を設定している。例えば以下のとおり。

 

・日本語:現代史→第2次世界大戦・日本軍→近代以前→告発・社会問題系→

・英語 :思想・宗教系→近代以前→現代史→軍事・サイバー→

・技術系:サイバーセキュリティ→ゲームプログラミング→Linux→軍事情報(米軍の教程、ソ連ロシアの亡命本等)

 

 読む本の分野をばらすことで、1つの退屈な本にリズムを崩されるのを防止している。

 

 ところが最近、英語と日本語の本がほぼ同じ話題で重なってしまった。

 それは次の2冊である。

Duty: Memoirs of a Secretary at War (English Edition)

Duty: Memoirs of a Secretary at War (English Edition)

 

  『Duty』Robert Gates

 ブッシュ政権において、更迭されたラムズフェルド国防長官の後任となったロバート・ゲーツの回想録。

 

策謀家チェイニー 副大統領が創った「ブッシュのアメリカ」 (朝日選書)

策謀家チェイニー 副大統領が創った「ブッシュのアメリカ」 (朝日選書)

 

  『策謀家チェイニー』バートン・ゲルマン

 ワシントン・ポスト紙のジャーナリストによる、ブッシュ政権のチェイニー副大統領を追った調査報道である。

 

 

 本人の回想録とジャーナリストによる報道ということで、あくまで書籍の見方は一面的である。しかし、わたしが2人から受けた印象は対照的である。

 

 ゲーツ国防長官は、ブッシュ政権が侵略し、泥沼となっていた戦争の尻拭いをするために登用された。ゲーツは、イラク戦争が失敗した原因について以下のように考える。

 すなわち、上層部が現実を認めようとしなかったこと、これを受けて軍も改善策を何も講じなかったことが、イラク占領統治が失敗の最大の要因である。

 ゲーツ自身は、CIA首脳部時代にソ連のアフガン戦争に介入しており、またイラク侵略についても不可避だったと考えている。これはわたしの意見とは異なる。

 しかし戦争指導者の1人として、自分の命令が米軍人を死に追いやっていることを認識している。かれは軍病院の惨状がスキャンダルとなったとき、陸軍のトップ2名を解任している。

 

 ――前線兵士の視察で最も心が痛んだのは軍病院だった。なぜなら自分がかれらを戦場に送り、障害者や植物人間にしたからである。

 

 ゲーツはブッシュ、オバマと2代続けて国防長官職を務めるが、その後もイラクとアフガンの情勢は回復せず、むしろ悪化(ISISやタリバンの復活)しているのを見ると、かれの予測もまた甘かったのではないかと考える。

 

 チェイニー副大統領は、『策謀家チェイニー』を読んだ限りでは、自由や民主主義といった価値にほとんど関心がないように感じられる。

 チェイニーは下院議員、国防長官等を務めたベテランの政治家だが、かれの政治能力や行政能力は、すべて目的達成のために利用される。その目的とは、米国の国力最大化、エネルギー生産強化、ソ連やイラン、ならず者国家の転覆である。

 かれは環境問題や教育問題、貧困に何も関心がなく、連邦政府が行うべきは安全保障と経済政策、エネルギー政策といった分野だと考えていた。

 

 副大統領スタッフとして弁護士チームを雇い、アメリカ国民に対する大規模監視を可能にし、またテロリスト容疑者に対する拷問(水責めなど)を推進した。

 本書で問題視されているNSAによるアメリカ国民の通信メタデータ監視は、2013年のスノーデンによる内部告発で存在が明らかになった。

 

 チェイニー副大統領は、捕虜に対する取り扱いを定めたジュネーブ条約を、古臭い、役に立たないものとみなした。

 かれの雇った弁護士ジョン・ユーJohn Yooは、「大統領は軍司令官として、議会から独立した無制限の権限を持ち、またいかなる条約や国際法、法律にも拘束されない」という解釈を打ち上げた。

 この解釈によって大統領府からの保証を得たCIAや軍は、テロとの戦いで拷問を行った。

 

 ――チェイニーが推進した拷問方法は、かつてレーガン大統領ら西側諸国が非難していたソ連式――眠らせない、窮屈な姿勢をとらせる、寒さにさらす――だった。……チェイニーの弁護士団の解釈によれば、大統領が容認するものは拷問ではないから、拷問は行われていないということだった。

 

 ――……アメリカは、効果が出るならこういうことをしてもいい、そういう国になるつもりなのか? そこまでするほど、私たちはおびえているのだろうか? そこまでするほど、我々は冷酷なのだろうか?

 


――同盟国の連中ならこういうだろう。捕虜の歯や指を引っこ抜いて、いい情報を手に入れた。そいつは死んだが、知ったことじゃない。同盟国の将校を使って頭をかち割るのと、米兵に同じことをやらせるのとの境目が、だんだんぼやけてきたんだ。

 

 

 ◆ブリガム・ヤング大学

 チェイニーの言動は、アメリカ合衆国民であること以外は、プーチンや中国、サウジアラビアやシリアその他の権威主義諸国の政治家・軍人と何ら変わるところがないようにおもわれる。

 このような人物がほぼ8年間にわたって副大統領として居座ったというのは非常に不快だが、アメリカ本国でもあまり評価は芳しくないようである。

 

 ※ ちなみに、オバマ前大統領が禁止した問題の拷問である水責め(Water Boarding)を復活しようと唱えたのがトランプ大統領である。

 

  ***

 2007年、末日聖徒イエス・キリスト教会(通称モルモン教)の経営するブリガム・ヤング大学がチェイニーを講演者として招いたことに学生から抗議の声が上がったという。

 

 

 昨年、ポリネシアン・カルチャー・センター(以下「PCCという」。)に無職戦闘員の親族たちを連れていったときに、ついでに運営母体のブリガムヤング大学ハワイ校に立ち寄った。

 PCCは一部の職員を除き、ほとんどがブリガムヤング大学の学生のボランティア(有給らしい)によって成り立っている。各施設の案内だけでなく、ポリネシア舞踊やパフォーマンスも学生たちが担っているとのことである。

 大学の礼拝堂では、日本から留学しているという学生と少し話す時間があった。学生たちの信仰に関する話をきいて、無宗教のわたしは、なるほど、とただ頷くしかできなかった。

 

 後日、散歩中の米軍人にPCCの話をしたところあれは「Slave Labor(奴隷労働)」だとコメントしたので笑ってしまった。そういう見方もあるのかと思った。