報道記者のミラーは、偶然、SS隊員の互助組織オデッサの存在を知る。かれは、リガの収容所でドイツ系ユダヤ人を虐殺したエドゥアルド・ロシュマンを追うが、そこにはもう1つ強い動機があった。
元SS隊員たちは、イスラエルを消滅させるために、エジプトに科学者を送り込み、生物兵器ロケットの開発を進めていた。イスラエル諜報員たちもまた、ロケットプロジェクトの中核であるロシュマンの行方を追う。
単なる部外者に過ぎなかったミラーが、イスラエルの工作員と協力し、元SS隊員に身分を偽ってオデッサに潜入していく過程は、始めは不可解である。
ただし、物語の終盤に、かれがロシュマンに執着する理由が明かされる。
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背景として、SSの犯罪追及に消極的なドイツの姿勢が説明される。各州の治安機関や司法機関にはSSの関係者がいまも残っており、かれらは過去の犯罪を忘却させようとしていた。
また、ユダヤ人虐殺などの戦争犯罪を「ドイツ人全体の罪」に帰することは、個々の犯罪者たち(SS、SD、ゲシュタポ)にとって都合の良い言説だった。
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オデッサの協力者である文書偽造男は、戦中、連合国側の紙幣の偽造に取り組んでいた。こうした部署の役割は「登戸研究所」とほぼ同一である。
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物語は、事実の間にうまく作り話を埋め込むことで成り立っている。
シモン・ヴィーゼンタールは実在の人物であり、また、「オデッサ」は、実際には単一の組織ではなく、元SSを支援する複数の勢力が存在した(バチカンや南米の軍事政権など)。