うちゅうてきなとりで

The Cosmological Fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

『Obama's Wars』Bob Woodward その2

 ウッドワードは、マクリスタル司令官の極秘文書コピーを入手し、新聞で報じた。

 報道の前には、慣習により政府に事前通告と調整を行うが、これは報道の自由を重視する米国ならではの手続きである。

・極秘文書を入手した民間人は、それをどう扱おうと処分されない。

・政府は、個人の身の安全や、将来の作戦に関する事項だけの削除を要求した。

・政府から報道機関に圧力をかけることは、その行為が検閲であることから絶対に許されない。

 アフガン戦争の悲観的な状況が国民に知らされ、またオバマと軍との方針の違いが浮き彫りとなった。

 

  ***

 オバマ就任に伴うアフガン増派から約10か月後、現地指揮官の問題提起に基づき、大統領とNSCはさらなる増派を検討していた。

 太平洋戦争時の日本と同じく、かれらは戦争の目的を見失ていたように見える。

 

 ――戦争が始まって8年たち、かれらは何が核心的な目的なのかを定めようと奮闘していた。

 

 10月に入り、アフガン戦略は以下の要点に絞られた。

 

・腐敗した政府、警察、軍を再建しなければ、タリバン打倒は失敗する。

・軍の増派よりも、政府の再建が優先である。

・米軍の使い方には3通りある……大量動員によるCOIN戦略か、COIN戦略をしつつつアフガン軍を訓練するか、または特殊部隊・無人機を使った対テロ戦略か。

 対テロ戦略は、COINによる地域情報の収集がなければ成功しない。

 しかし、理想的なCOIN戦略には数十万の軍が必要であり、非現実的である。

 

  ***

 オバマは軍に増派案を出すよう求めた。しかし、マクリスタル、マレン、ペトレイアスらは実質一案……40000人派兵の案だけしか提示しなかった。

 大統領は、軍は選択肢を示さないと批判した。オバマや、バイデン副大統領、アイケンベリー在アフガン駐米大使、ジョーンズ大統領補佐官らは、多大なコストを必要とするCOIN戦略に懐疑的だった。

 大規模な増派はカルザイを依存させるだけである。オバマが求めていたのは、期限の明確な出口戦略だった。

 

  ***

 オバマは軍と補佐官との意見を天秤にかけ、中間をとって30000人の増派を決定した。

 2009年12月、ウェストポイントでの大統領演説で、増派が宣言された。

 あわせて、2011年7月からの逐次撤収が示された。

 増派後も、アフガンの状況は不透明のままだった。アフガン国軍への移行と、政府による国家建設の時期は確定しなかった。

 

  ***

 2010年5月、NYタイムズ・スクエアで車両爆弾によるテロ未遂が発生した。TTP(パキスタンタリバン運動)が犯行声明を出し、その後パキスタン人が逮捕された。

 大統領らは、再びパキスタン問題に立ち返らざるを得なかった。

 

タリバンは自由に国境を越えて、パキスタンの安全地帯(セーフ・ヘイブン)から米軍を攻撃している。

パキスタン統合情報庁は、対インドに目が向いており、タリバン討伐に消極的である。また、パキスタンがテロ組織LeT(ラシュカレタイバ)を支援している事実を、米情報機関は把握していた。

パキスタンは常にテロに見舞われているため、アメリカがテロに過敏になっている様子に対して、冷淡である。

 

  ***

 2010年6月、アフガン司令官マクリスタルはローリングストーンズ誌でバイデン副大統領らの悪口を言ったため解任された。後任は、かれの上司である中央軍司令官ペトレイアスが指名された。

 

  ***

 大統領補佐官ジェイムズ・ジョーンズの悪口を言ったマーク・リッパートが更迭されたのと同じく、アメリカ政府は軍人の不服従や反抗には厳しいようだ。

 本書では、オバマとその側近は度々軍と対立している。オバマの選択が正しいとは限らないが、大統領が、軍人をコントロールすることに苦心していることは確かである。

 オバマは戦争について、次のような言葉を残している。

 

 ――……いかに正当化されようとも、戦争は人間の悲劇である。戦士の勇気と犠牲は栄光に満ちており、国家、主義、戦友への献身を表現している。しかし戦争そのものが栄光であることは決してないのであり、われわれはそのように吹聴することも許されない。よって、われわれの挑戦とは、これらの相反する真実に折り合いをつけることである――戦争は時には不可欠であり、またある程度までは人間の愚かさの表れである。

 

 南北戦争の将軍ウィリアム・シャーマンの言葉……

 

 ――戦争は地獄である。いちど戦争の犬たちが解き放たれれば、どこへ行くかわからない。

 

 調べたところ、発言者であるシャーマン将軍は苛烈な総力戦の実行者であり、インディアン虐殺の一端を担ったという。

 言うことはきれいでやることが汚いという点では、オバマと似ている。やりたくないがやるしかない、という、苦悩する姿に価値を見出しているのかもしれない。

 

Obama's Wars (English Edition)

Obama's Wars (English Edition)