うちゅうてきなとりで

The Cosmological Fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

『日本の社会保障』広井良典

 社会保障を考える上で、年金、医療費といった個別に分けて論じるのではなく、そもそも国家が負担すべき国民のリスクとは何かを検討し、その後、あるべき社会保障の姿を検討する。

 制度自体が複雑でわかりにくいため、この本も自分のような素人には読みにくい箇所がある。

 社会保障の制度を検討するには、その国の経済について知らなければならないことを痛感した。

 

 ◆感想

 どこまでを国がカバーするのか、また、公平とは何かについては、国や倫理に対する見方によってとらえ方が変わる。これらは別個に本を読んで考える必要がある。

 家族構造は産業にあわせて変わるものであり、「介護と育児は大家族制に回帰すれば解決する」と号令をかけてどうなるものでもない。

 

  ***

 1

 社会保障制度は、経済社会システムの変化や、家族構造、就業構造の変化に対応するかたちで発展してきた。

 

・「福祉国家」の概念は、第2次大戦後に西欧を中心に発展したシステムをさす。

社会保障は、リスク分散を原理とする「社会保険」と、所得再分配を原理とする「福祉(公的扶助)」とに分けられる。

 社会保険は民間保険にその起源があり、福祉はエリザベス救貧法等が発祥である。

 福祉国家観はヨーロッパにおいて80年代まで続き、やがて経済の不調にあわせて危機が叫ばれるようになった。

 

・現在、社会保障は3つのモデルに分けられる。

 (1)普遍主義モデル(北欧)……租税中心、全住民対象、平等志向

 (2)社会保険モデル(独仏)……社会保険中心、被雇用者ベース、所得比例給付

 (3)市場重視モデル(米)……民間保険中心、最低限の国家介入、自立自助とボランティア

 

 各モデルでは、公助(公共性)、共助(共同体または連帯)、自助(自立した個人)が社会保障の軸となる。

 

社会保障を考える上では、規模、内容、財源を検討することが重要である。

・福祉に経済効果があること、また、環境問題やグローバル化を視野にいれることも、忘れてはならない。

 

 2

 日本は後発国家として出発し、また少子高齢化にいずれ直面する。

 日本の社会保障制度の特徴は本書によれば以下のとおり。

 

・ドイツ型社会保険システムからイギリス的普遍主義へ

医療保険の整備の後、年金制度整備、年金制度の肥大へ

社会保険の保険者が国である

・非サラリーマン・グループ(第1次産業、自営業)を医療保険を中心として取り込んだ。

 

 日本の社会保障システムは、途上国や新興国がとるべき方針に合致していた。しかし、現在は情勢が変わり、問題点が浮上した。

・医療……途上国型から成熟経済型医療構造へ

・年金……「貯蓄/保険」機能と「所得再分配」機能の峻別と公的部門の見直し

・福祉……高齢者介護問題への対応と「対人社会サービス」の展開

 

 ――……現行のわが国の年金制度では、所得に応じて保険料を払いそれに応じて給付を受けるという「貯蓄/保険」的機能と、「所得再分配」機能(世代間・世代内)とがきわめて複雑なかたちで一体化していると言える。

 現在の日本の社会保障は、エスピン・アンデルセンのいう「大陸型ヨーロッパ福祉国家のモデル」、すなわち「高度に発展した社会保険(とりわけ年金)と、発達不良の社会サービスという組み合わせ」にあてはまる。

 

 高齢者介護と医療問題は分けて考えるべきである。

 

 3

 社会保障を考える上で、経済学的な視点、公平性・共同体に関する視点、グローバル化に関する視点をとりいれることの重要性を述べる。

 

・効率性、公平性の観点から社会保障システムを考える。不健康な者だけが健保に入り財政悪化に陥らぬよう、また、民間会社が不健康な者を排除しないよう、保険は強制加入が効率的である。

・国家の機能……市場の失敗への対処(純粋公共財(防衛・秩序・財産保護・公衆衛生等)、教育、環境保全、独占規制、保険)、公平性の改善(貧困層保護、社会保障供給(再分配的年金))

 

 著者の主張は、「医療や福祉の分野についてはできる限り公的な保障を維持し、年金については大幅なスリム化ないし民営化を図る」というものである。

 

・公平性について、ロールズを議論のきっかけとして検討する。

多国籍企業やEU等、国民国家の概念だけではカバーできない経済事象が生まれている。社会保障設計については、このような要素も考慮しなければならない。

 

 4

 ――社会保障という制度は、経済の進化に伴って、(自然発生的な)共同体――家族を含む――が次々と解体、「外部化」されていくことに対応して、それを新たなかたちで「社会化」していくシステムである。

 ――社会保障の今後のあり方を考える場合、「公私の役割分担のあり方」ということが基本的な視点であり、そうした点から考えると、いったん純化した形で社会保障の「機能」を考え、それらの機能に応じて公私の分担を整理していくのが妥当である。

 

 今後の社会における社会保障は、「市場」をベースとし、それを補完する制度として「個人」を基本的な単位とするものであるべきだという。

 

 議論の際は、社会保障全体の設計を考えたうえで、公私の役割を分担していく作業が不可欠である。

 今後の社会保障モデルとしては4つある。

 

A 全分野重点型

B 医療・福祉重点型

C 年金重点型

D 市場(民間)型

 

 他の先進国、つまり低成長国、定常国では、制度改革に関して次の共通点が見られる。

・年金:給付範囲の縮小と、私的年金への移管

・医療:公的範囲は維持し、市場原理・競争原理導入による効率化

・福祉:高齢者ケアを中心とする医療から福祉、施設から在宅へのシフト

 

日本の社会保障 (岩波新書)

日本の社会保障 (岩波新書)