◆買い物
Catherine Merridale『Ivan's War』(邦訳『イワンの戦争』)は独ソ戦を戦った赤軍兵士たちの実態を、証言や報告資料をもとに明らかにした本であり、非常に面白い。
赤軍兵の死者は推定800万人~1300万人であり、これだけで第二次世界大戦における日本の軍・民間人を合わせた死傷者(約300万人)を超えている。想像しがたいスケールの戦場だったことがうかがえる。
メモ抜粋……
・開戦時の装備・物資不足……前線への輸送手段なし、ライフルが行きわたらず、19世紀のライフルで銃剣突撃、ヘルメットで塹壕を掘る、4分の3の旧式戦車が使用不能かつ部品枯渇、貧弱な通信、平文で無線を使う技師たち。
・ドイツ軍の占領地ではどこでも大量射殺がおこなわれたが、その大半はアインザッツグルッペンではなく国防軍が実施した。
・1942年春までに、赤軍は200万人程の死者を出していたが、士気に影響しないよう、この数字は隠された。
・前線兵士となった女性は、後方勤務女性に比べ偏見にさらされた。女性兵士は将校に性的サービスをすることで勲章を受けるのだと陰口を言われた。
・懲罰大隊出身者や囚人が通常部隊に混ざるにつれて兵士たちの文化は変質していった。リンチ殺人、けんか、放火、酒のトラブルが頻発した。ある将校は「この飲酒癖がなければ我々は2年前にドイツを倒していただろう」と書いた。
将校や秘密警察自身が加担する大規模窃盗・横領や賄賂ネットワークが流行し、公式の報告だけでも、1割の兵士が犯罪に関わっていた。
Ivan's War: The Red Army at War 1939-45 (English Edition)
- 作者: Catherine Merridale
- 出版社/メーカー: Faber & Faber
- 発売日: 2011/03/17
- メディア: Kindle版
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ソ連軍の組織制度や歴史に興味を持ち、西側に亡命したGRU将校であるスヴォーロフ(Viktor Suvorov)という人物の著作をまとめ買いした。冷戦時代の、一種の暴露本ということで安く手に入れることができた。
Spetsnaz: The Inside Story of the Soviet Special Forces
- 作者: Viktor Suvorov,David Floyd
- 出版社/メーカー: W. W. Norton & Company
- 発売日: 1988/09/30
- メディア: ペーパーバック
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Inside the Soviet Army (Panther Books)
- 作者: Viktor Suvorov
- 出版社/メーカー: Grafton
- 発売日: 1984/04/19
- メディア: ペーパーバック
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◆スミソニアン記念日
9月22日がスミソニアン記念日であり、美術館・博物館等を無料で観覧できるということだったので、ハワイ日本文化センター(Japanese Cultural Center of Hawaii)に行ってきた。
常設展示は40分もあれば回れるが、施設では他にも柔道や剣道、その他の習い事を開催しており、私が行ったときには子供たちの空手教室をやっていた。
外国人労働者としてやってきた後、定住、組合運動や第二次世界大戦への協力等を経て、徐々に市民としての権利を獲得していく過程をパネル展示でたどることができる。
太平洋戦争中の強制収容(the Internment)は日系人にとって非常に重大な出来事であり、人種に基づく隔離と強制移住、財産没収は、アメリカ史においても過ちの1つと認識されている。
日系人部隊がヨーロッパ戦線で活躍した後も、強制収容された人たちの資産や家は戻ってこず、また雇用における差別待遇もすぐには改善されなかった。こうした状態が徐々に変わっていったのはかれらが自発的に活動して訴えたからである。
自分たちの要求を実現するには自らがまず動かなければならないと感じる。
――自分の権利があからさまに軽視され蹂躙されるならばその権利の目的物が侵されるにとどまらず自己の人格までもが脅かされるということがわからない者、そうした状況において自己を主張し、正当な権利を主張する衝動に駆られない者は、助けてやろうとしてもどうにもならない。 (『権利のための闘争』イェーリング)
――日本では、権利とはどこかほかから与えられたもので、権利の侵害があればお上がなんとかしてくれると考える傾向がないわけではない。ところが、英米人にとっては、権利とは、本来それぞれの人間が主張し、実現すべきものと観念される。そして、そのために相応の手間と金をかけなければならないということは、当然だと考えられている。(『英米法総論』田中英夫)
◆本来の姿
政治とは元々、放っておけば腐ってくるものであり、それは日本だろうと他の国だろうと同じことである。政治家の嘘や責任回避は、権力の本来の姿であり、それがまかり通っているのは私たちが容認しているからである。指摘し責任をとらせる者がいなければ権力を持つ人間・組織は必ず好きなように行動する。
シュテファン・ツヴァイク(ツワイク)は『ジョゼフ・フーシェ』において、王政・革命期・帝政時代を生き延びた権力者の姿を描く。
現実の政治・歴史を動かすのは多くの場合、すぐれた英雄ではなく、価値で劣る狡猾な人物である、とツワイクは述べている。
――パトロクロスはすでに倒れ、ヘクトル、アキレウスまた倒れたが、ただ一人生き残っていたのは策謀家オデュッセウスのみであった。彼の能才は天才を凌駕し、彼の冷血性はあらゆる情熱に打ち勝って生き延びたのである。
権力者の横暴や不正を許すのは多くの場合、人間の臆病さである。
――かれは大多数の人間の臆病なことを知り抜いていて、猛烈な強硬なテロルの風を吹かすだけで、たいていの場合はテロルをやらないですむということを心得ていた。
――残念ながら世界歴史は、ふつう叙述されているような人間の勇気の歴史であるだけでなく、また人間の臆病の歴史でもあるのであり……危険な言葉を弄し国民の熱情をあおりすぎるところから、常に戦争が勃発するように、政治的犯罪もまた然りである。
かれはその時々の状況に応じて理念を変えたが、それはかれに理念がなかったからである。
――それにはただ一つ邪魔になることはカルノーのような端正な共和主義を奉ずる同僚たちが控えていることで、かれらは依然として共和政体を信じており、理想などというものは、それを種に儲けるために掲げるものにすぎないということを、どうしてもわかろうとしないのである。
民主制や官僚制についてのヴェーバーの分析は、システムの本来の姿を示すものである。
・代議制は貴族制・金権制として始まった。代議士は本来、民衆の主人であった。
・官僚制は、民衆の社会的階層を平準化させるが、官僚自体は民衆に対して絶対的な優位を持つ、強固な権力となる。
・専門知識を持つ官僚をコントロールするのは君主や首長であっても非常に困難である。
・大規模な民主社会では、民衆は支配される存在であり、世論を通じて巧妙に操作される。かれらは指導者選出に際し若干の選好を示すに過ぎない。
・19世紀半ばまで、英国では議員は特権身分とされ、国会は傍聴禁止、議事録を流出させた際には刑罰が科せられた。
ジョゼフ・フーシェ―ある政治的人間の肖像 (岩波文庫 赤 437-4)
- 作者: シュテファン・ツワイク,高橋禎二,秋山英夫
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1979/03/16
- メディア: 文庫
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◆見えないものは見えない
とある部隊の隊長が「認識していない物事には対処できない、なので問題や改善点があれば必ず報告してほしい」と部下の人びとに話していた。
ちょうどそのころ野中広務についての本を読んでおり、かれら政治家が相手にしている「国民」とは何者なのかについて考えさせられた。
政治家が見ているのは身内や後援団体、土建業者、宗教団体である。
政治家の半生をたどった本のなかに、名もない国民の姿はほとんど登場しない。私のような、特定の宗教団体の信者でもなく、団体の長でもない国民など、代議士は眼中にない。
政治家(や官僚)が私の方向を向いておらず、逆なでするような言動ばかりとっているというのは、わたしがまず国民として認識されていないからだろう。
何者かとして統治者に認識されないうちは、ただ都合のいい、大人しい群衆でしかない。そういう個人は投票でも不利である。