うちゅうてきなとりで

the cosmological fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

『従軍慰安婦』吉見義明

 ◆所見

 吉見義明は『毒ガス戦と日本軍』の著者でもある。

 長年問題となっていた朝日新聞従軍慰安婦捏造記事は、本書では資料として使われていない。

 政府と軍が支えた強制システムの証拠は豊富に残されており、業者の汚れ仕事に見て見ぬ振りをしつつ、慰安所を運営していた点が非難を受けている。

 今後の日本の価値観としては、「慰安婦記事は捏造であり、また一部の証言も虚偽だった、したがって従軍慰安婦問題は捏造・虚偽だった」という方向に進んでいくだろうが、わたしは絶対に同調することはないだろう。

 軍隊組織は建前を巧妙に使い、表面をきれいにし、汚れた実態を隠すことに長けている。

 反女性意識、人種差別は、今も変わらぬ日本の伝統的価値観であると再認識した。

 

  ***

 1992年の河野洋平内閣官房長官談話では、「政府は軍や官憲の関与と慰安婦の徴集・使役での強制を認め、問題の本質が重大な人権侵害であったことを承認」した。

 ただし、政府は軍・官憲が主体となったとは認めておらず、また朝鮮人以外の慰安婦についても言及していない。

 国民の間では、上述の政府認識についても共有されていない。

 

 1

 記録に残っている最初の慰安所は1931年、上海事変に併せて海軍が設置した。本格化したのは1937年の南京攻略前後からで、現地部隊の強姦が治安維持上問題化しているのを受けて、軍の指示により慰安所が設置されるようになった。

 やがて、揚子江流域だけでなく華北、東北にも広まった。

 慰安所設置は、陸軍省の統制の下、現地司令部が指揮し実施した。

 設置の理由として陸軍省文書に残されているのは「軍人の士気の振興、軍紀の維持、略奪・強姦・放火・捕虜虐殺などの犯罪の予防、性病の予防」である。

 

 ――事変勃発以来の実情に徴するに、赫々たる武勲の反面に掠奪、強姦、放火、俘虜惨殺等、皇軍たるの本質に反する幾多の犯行を生じ、為に聖戦に対する内外の嫌悪反感を招来し、聖戦目的の達成を困難ならしめあるは遺憾とするところなり。

 

 慰安所運営に係る関係省庁……台湾・朝鮮総督府内務省

 当時第11軍司令官だった岡村寧次の証言。

 

 ――第6師団の如きは、慰安婦団を同行しながら、強姦罪は跡を絶たない有様である。

 

 2

 軍を主体とする慰安所運営は、太平洋戦争の開始とともに東南アジアにも拡大した。それでも強姦等はおさまらず、行政文書でも問題として記録が残っている。

 慰安婦の民族内訳は、半分が朝鮮人、3割が中国人、残りが日本人や、現地人や植民地白人だった。

 

 3

 女性の徴集についての資料は、軍の行政文書では断片的にしか残っていないため、聴き取り調査が大きなウェイトを占めている。

 売春業の募集として集められたのはごくわずかであり、ほとんどは、業者による詐欺、誘拐等だったという。一部、完全な拉致の例もあった。

 義務教育のない朝鮮人女性が就職するのは難しく、看護師、清掃夫、給仕等、職につけると業者に騙されて中国や東南アジアに渡り、慰安婦にされたケースが多い。

 他、台湾人、中国人、東南アジア人も同様に徴集された。

 フィリピン、インドネシア反日ゲリラが活発であり、現地人は軍から敵対視されていた。このため、慰安婦徴集も暴力的になることが多かった。

 占領地では、軍が女性を要求し、村の代表が娘を差し出す事例が見られた。

 

 4

 慰安婦たちは軍の規則により厳重に管理された。運営は業者と部隊が行い、多くは劣悪な環境で監視されつつ性欲処理をさせられた。

 日本国内では規制されている未成年の使役禁止や、外出・通信・面接・廃業の自由も、占領地では認められなかった。

 

 5

 国際法上での従軍慰安婦問題の位置付けと、オランダ人慰安婦裁判について。

 慰安婦の大多数は、植民地人、占領地のアジア系女性である。これは、国際法による追及を逃れるための政府の方針に基づく。

 

・日本人を連行した場合、兵士の士気が下がり、問題化する。

・占領地から慰安婦を強制徴集した場合、国際法違反となる。特にヨーロッパ系は、追及されるリスクが大きい。

・植民地においては、未成年使役の規制は適用されていなかった。

 

 ――裁判であきらかになった重要な事実のひとつは、日本軍司令部が、売春のための強制徴集は戦争犯罪であるという国際法をよく承知していたということである。それは設置する際の注意、また事件が発覚すると軍慰安所を閉鎖したことから、よくうかがわれよう。

 

 日本は51年サンフランシスコ平和条約で、東京裁判とBC級戦犯裁判を受諾している。よって、インドネシアスマラン慰安所事件(スマラン慰安所事件 - Wikipedia)の裁判も認めており、強姦、強制売春のための婦女子連行、売春強要をしたという認識も受け入れている。

 

 6

 終戦後、占領軍の性犯罪対策のため、内務省は慰安施設の設置通達を出した。「特殊慰安施設協会Recreation and Amusement Association」が東京で設置された。慰安所設置には、笹川良一ら右翼、売春業者も関与した。

 米英軍による性犯罪も発生しており、また軍中央からの統制からは外れているが、慰安所も設置されていた。

 ソ連軍、ドイツ軍も同様の記録がある。

 

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 日本軍と慰安所問題の背景には、女性蔑視がある。これは伝統的な価値観であり、今でも克服されていない。

 著者によれば、従軍慰安婦問題の本質は次のとおり。

 

・軍隊・政府による性暴力・人権侵害の組織化

・人種差別・民族差別

・経済的に困窮していた階層に対する差別

国際法違反(未成年者使用、甘言・強圧による連行、強制使役)

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従軍慰安婦 (岩波新書)

従軍慰安婦 (岩波新書)

 

  ※ 参考