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『プーチンと甦るロシア』シュテュルマー その1

 ロシアはいまも国際社会の鍵となる主体である。ロシアがアメリカ、EUと対立するのか、それとも共存していくのか、また中国とどのように関わっていくのかは、(特に本書刊行時点では)まだ明らかではない。

 ロシアは問題を多く抱えた国である。外交姿勢はアメリカ、中国と同等に強硬的であり、内部には深刻な人権問題が存在する。

 本書では、プーチン政権以後の状況をテーマごとに検討していく。

 

 ◆所見

 ミヒャエル・シュテュルマーはドイツの保守的な歴史家である。

 プーチン・ロシアに関する本は、強烈な批判か、いくらもらったのかと勘ぐってしまうようなヨイショかに二分される印象があるが、本書は比較的プーチンに対し好意的であると感じる。

 著者は、ロシアとEU・アメリカの協調も可能であると考えている。この見通しはクリミア併合とウクライナ紛争によって外れた。しかし、対テロ戦争イスラム過激派、IS)やシリア紛争・難民問題をめぐって、大国同士が連携する可能性はゼロではない。

 中国と同様、ロシアは強力な隣人であり、イラクリビアのように簡単に政権を破壊・排除することはできない。著者はドイツの歴史家であり、異質で権威主義的な大国といかに共存していくかを考えている。

 

  ***

 1 新しいロシア

 プーチンは、ロシア苦難の時期に、西側諸国が権益拡大に専念してきた点を非難した。東欧・中央アジアの引き込み、NATOの拡張を、プーチンはロシアへの挑戦ととらえた。

 最大の批判は、一極支配を掲げる子ブッシュアメリカに向けられた。

 アメリカ、中国、ロシアの3国による勢力均衡が始まるとロシアは理解していた。

 ロシアは一片の領土を失うことも許容しないだろう。ロシアにとっての脅威とは、中国、アメリカ、南方に潜むイスラム過激派である。

 

 ――ロシアはアメリカにけっしてすりよらないし、自分はアメリカの支配やロシアの排除が不快でならない。これがプーチンが人びとに痛感させたことであった。

 

 2 経歴

 ――人権、民主主義、透明性、野党? 人間の尊厳への敬意? もしそれらがより力に満ちたロシアを実現してくれるのであれば、結構。そうでなければ、彼は別の導きの星を探すであろう。そのような導きの星とは、上から指導され、開明エリートによって統御されるロシア・スタイルの民主主義であり、彼はそれを「権力の垂直構造」と呼んでいる。

 

 プーチンがFSB長官として頭角を現し、1999年の疑惑の爆弾テロ、第2次チェチェン紛争を経て、大統領に当選するまで。

 

KGB勤務の最初は、宗教行列の監視や、協力者の引き込み、事務処理など、退屈な仕事が多かったという。

東ドイツドレスデンで勤務しながら、ドイツ民主共和国が崩壊していく様子、またソ連が分解していく様子を目の当たりにした。

・大学時代の師サプチャークの下でサンクトペテルブルク市政に携わる。この間、財政・金融関係の業務に詳しくなった。

・モスクワ連続爆弾テロと、チェチェンへの報復爆撃により、突如プーチンは大統領第一候補として踊り出た。

 

 3 国際政治におけるプーチン

 著者が会談や国際会議等でプーチン大統領と会ったときの回想。

 ロシア経済の核はエネルギーだが、天然ガスと石油は市場価格に依存する。エネルギー以外の産業にも活路を見出す必要がある。

 

 4 権力基盤

 プーチン政権の権力基盤は、サンクトペテルブルク行政関係者と、KGB出身者である。

 

 ――いずれにせよ、今日クレムリンを支配する心理や文化や世界観には、旧KGBの刻印がくっきりと押されている。現在のところ、治安機構、政府、経済は、多くの場合、直接または間接に、諜報機関の監督下に置かれている。現在ロシアで上級将校の地位にあるものの4人に3人までは、過去のある時点でKGBないしその関連組織に籍を置いていた。

 

 兵器産業と一部のハイテク産業以外、ロシアにはこれといった強みがない。

 

 ――……防衛産業は特殊な市場のみを相手にしており、競争にとくに敏感というわけではなく、政治に左右され、けっして効率もよくないのである。

 

 エレーヌ・ブラン『KGB帝国』で言及されていたように、現在ロシアはシロヴィキ(治安機関出身者)が支配している。かれらは法の支配、自由主義、民主主義を理解していないようだが、それが外国からの投資を阻む一因にもなっている。

 

 5 ソ連の歴史

・NPT(核兵器不拡散条約)は、核保有国を国連常任理事国に限定し、IAEA国際原子力機関)の査察を加盟国に実施するシステムである。問題点は、制裁や矯正の力がないことにあった。

・対外戦争においてソ連脆弱性を露呈した。アフガン侵攻ではムジャヒディンに苦しめられ、また、1982年のレバノン戦争では、シリア軍のミグ戦闘機70機以上がイスラエルのF16に撃墜された。

 

 ――……ロシアの分析官は、自分たちが衛星国の軍隊に対してやっているのと同様に、アメリカ人もまた、けっして同盟国に第一級の装備を渡したりはせず、せいぜい二級品か産休品しか渡さないだろうと踏んでいたのである。ロシアの分析官は、切羽詰まったイスラエル核兵器に手を出したりなどせぬように、ペンタゴンが彼らに最新テクノロジーを提供していたのだということを、ほとんど理解していなかった。これはヨム・キプール戦争の教訓であった。このときイスラエルは核に手を出そうとしたのであり、アメリカの偵察衛星はそれをしっかり察知していたのである。

 

 ソ連は、自国のC4システムの遅れを痛感した。

 

 ――もし民主主義が、複数の政党候補者の1人に時折票を投じることを意味するのであれば、ロシアはその条件を満たすであろう。だが、もし民主主義が、正当な法の手続き、予測可能な一連の規則、信頼できる憲法、そしてチェックアンドバランスの制度によって限定される統治システムとして考えられ、かつ実践されるのであれば、ロシアが歩まねばならぬ道のりはまだ遠い。

 

 [つづく] 

プーチンと甦るロシア

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