カトリックである著者が、アメリカ人の宗教と精神について考える本。
著者は長崎出身で、米国で長く勤務し、現在はハワイ在住という。
合衆国は歴史の若い国ともいわれるが、移民たちの信仰はユダヤ、ローマまでたどることができ、またほぼすべてのアメリカ人が自己の宗教観、信仰、神についての考えを持っている。
本書では、合衆国における最大宗教はカトリックであると書かれているが、一般的な認識である「最大宗派はプロテスタント」と異なる。この違いがどこから来るのかはわからないが、宗派の統計調査は必ずしも正確でないらしく、別の機会に調べる必要がある。
アメリカの生活、社会に根付く神の概念、特にユダヤ・キリスト教の概念を紹介する。
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1
合衆国はプロテスタントの移民によって建設された。このため、カトリックは当初、貧しいアイルランド移民やイタリア移民のものであるとして見下されていた。しかし、現在では平均所得はプロテスタントよりも高いという。
世界各国でキリスト教は受容され、独自の慣習を発達させている。
2
感謝祭は1621年、メイフラワー号に乗ったピルグリム・ファーザーズたちが豊作を感謝するためにインディアンたちと食卓を囲んだのがその起源とされる。このときに七面鳥が料理としてふるまわれたという。
アメリカはアブラハムの時代からの一神教の文化を継承している。
19世紀、大覚醒と呼ばれる運動により、合衆国民の中に宗教が根付いていった。
3
アメリカの各宗派について……
・メインライン・プロテスタント……エピスコパル、メソジスト、プレスビテリアン等、英国系が中心。
・福音主義諸教会……南部バプテストが代表、ファンダメンタリストも含まれ、しばしば論争を生む。
・アフリカ系アメリカ人の教会……大多数はプロテスタント。
・ユダヤ教
・モルモン教……ジョセフ・スミスにより19世紀に成立。愛国心、家族、勤勉。
・エホバの証人……世俗の国家への政治参加や軍隊参加を禁止するが、税金は納める。
・セブンスデー・アドベンチスト教会……エホバの分派。
4
礼拝と説教は、アメリカ人の宗教生活の中心をなす。
5
政治と宗教のかかわりについて。
リベラル主義者は、宗教が政治に介入することを嫌う。一方、ファンダメンタリストは、宗教による社会の再建を主張する。
――宗教組織の権威を嫌う人たちに共通しているのは、その権威を代表する聖職者や信者から自らの道徳価値観を裁かれることへの反感である。ファンダメンタリストの特徴として、それを批判するアメリカ人があげるのは、他人の道徳的価値観を裁く資格があるかのようにふるまう態度ということになる。
6
ユダヤ教について。
最初のユダヤ教徒はドイツ移民であり、ヨーロッパにはオーソドクス(正統派)が多かった。やがて、アメリカに渡ってきたドイツ・ユダヤ人たちが、社会に適応するためにリフォームド(改革派)と呼ばれる世俗的な宗派を拡大させた。
一方、キリスト教と見分けがつかなくなった改革派に抵抗し、保守派が生まれた。
ユダヤ人の定義……母系がユダヤ人であればユダヤ人、改修すればユダヤ人。
7
アメリカでは宗教団体や民間事業による慈善活動が活発である。キリスト教系慈善団体は、政府にすべてを頼るということをよしとしない。
「隣人を助けるのは市民1人1人の責任だと思います」
――国民の税金を使ってホームレス救済をするのはまちがっています。税金は納税者が必要とするプログラムに使うべきです。ただでさえ、税金を払うのは大変なんですから。それに政府の援助を受ければ、法律上、宗教伝道ができません。わたしたちは完全に民間事業で、政府からは何の援助も受けていないから、信じることを自由にできるわけ。わたしたちがこういう活動をするのは、あくまでイエスの教えを実行したいからです。
福祉政策の取り組みにも関わらず、アメリカの貧困問題は深刻化するばかりである。宗教を排除した福祉行政哲学の限界があるのではないか、と著者は指摘する。
8
キリスト教会と女性差別は一体だった。マグダラのマリア研究を始めとする近年の潮流は、虐げられてきた女性像を再検討するものである。
9
合衆国における奇跡、天使のブームについて。
著者は、アメリカは世俗的価値観、宗教的価値観(信仰、罪、終末論等)、そして超常現象や夢、無意識を重んじる価値観の三重構造からなっていると考える。
10
アメリカは、国教はないが実際にはユダヤ・キリスト教の国である。国民は自己の中に確固たる神の観念を抱いている。60年代、体制に対して反抗した世代が、教会に回帰するという現象も起こっている。
――合衆国憲法のいう「政教分離」は宗教が政治に介入するのを違法とする意味ではなく、国家が特定宗教あるいは教会を国教としないと宣言したから、国民の信仰の自由が保障されたという意味である。