うちゅうてきなとりで

the cosmological fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

『休戦』プリーモ・レーヴィ

 『アウシュヴィッツは終わらない』(未読)の続編。

 

 主人公であるイタリア系ユダヤ人の生き残りは、アウシュヴィッツから解放され、赤軍の占領地域を通って故郷に帰る。

 本書に登場するのは、第2次世界大戦を生き延びた、無名の人びとである。

 かれらの特徴や、混乱のなかでの様子について。

 諸国のユダヤ人、ロシア人、ドイツ人、アメリカ人、ポーランド人等、主人公が出会う人間は様々な背景を持ち、各人が自分の性質を持っている。

 そうした性質は、国籍や人種といった範疇だけでは断定できない、唯一無二のものである。

 主人公は収容所と鉄道輸送の生活において、冷静な観察を続ける。

 

 収容所で生まれてその後まもなく死んだ子供について。

 ――フルビネクは1945年3月初旬に死んだ。彼は解放されたが、救済はされなかった。彼に関しては何も残っていない。彼の存在を証明するのは私のこの文章だけである。

 

・たくましい収容所の子供たち

・カポーの男娼となって権力をふるう少年

・謎めいた、信念を持つギリシア

 

 ――彼の道徳律の基盤は労働で、それを神聖な義務と感じていたが、その範囲は非常に広かった。自分の自由を侵害することなく利益をもたらすもの、そのすべてが、ただそれだけが、彼にとっての労働だった。従って労働には、いくつかの合法的なもの以外に、密輸、盗み、詐欺も含まれていた(強盗は入っていなかった。乱暴な人間ではなかったからだ)。一方、自分の創意工夫やリスクを伴わないもの、つまり規律や位階を前提とするものは、屈辱的であるがゆえに、卑賎だとしていた。雇われたり、労力を提供する関係は、それがいかなるものであれ、たとえ報酬が多くても、十把ひとからげにして「奴隷の仕事」としていた。だが自分の畑を耕したり、港で観光客に贋の骨董品を売りつけるのは、奴隷の仕事ではなかった。

 

・様々なイタリア人……悪党、その他。

・ロシア軍人たち……大雑把、勝利のよろこび、賄賂

・秘密警察とおぼしきロシアの中尉が、タップダンスに夢中になり、人間性を見せた。

  ***

 主人公たちを保護した赤軍は、大雑把で官僚的なシステムとして描かれる。ロシア兵の大半は、素朴である。膨大な人命損失を経て勝利したため、ロシア兵の間にも喜びの気分が感じられる。

  ***

 絶滅収容所の実行者であるドイツ人に対して、主人公は次のように考えた。

 

 ――私たちはドイツ人の1人1人に何か言うことがある、それもたくさん言うことがあると感じていた。そしてドイツ人もそれについて、私たちに言うことがあるだろうと思った。

 ――「彼らは」知っていたのだろうか、アウシュヴィッツについて、日々の静かな虐殺について、自分の戸口の少し先で行われていたことを? もしそうなら、どうやって道を歩き、家に帰り子供たちと顔を合わせ、教会の扉をくぐれたのだろうか?

 ――彼らは眼を閉じ、耳をふさぎ、口をつぐんでいた。彼らは廃墟のなかにこもっていたが、それはあたかも責任回避の要塞に意図的に閉じこもっているかのようだった。

 

 本書の最後の文。

 ――こうして夢全体が、平和の夢が終わってしまう。するとまだ冷たく続いている、それを包む別の夢の中で、よく知っている、ある声が響くのが聞こえる。尊大さなどない、短くて、静かな、ただ1つの言葉。それはアウシュヴィッツの朝を告げる命令の言葉、びくびくと待っていなければならない、外国の言葉だ。「フスターヴァチ」、さあ、起きるのだ。

 

  ***

 終戦からの復員、帰還を描いた本であり、戦争から解放される光景が、鮮明に浮かび上がる。

 ヨーロッパを覆った災難のすさまじさ、また、生き延びた人びとの生命力ともに、私の想像を超えるものだった。

 

休戦 (岩波文庫)

休戦 (岩波文庫)