うちゅうてきなとりで

The Cosmological Fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

『公安警察の手口』鈴木邦男

 趣旨:

 公安警察は極めて政治的な存在であり、政府や体制に批判的な人間、危害を及ぼしそうな人間を監視する。公安は市民の自由をおびやかしており、またそれに対する批判の声も聞こえない。

 著者は新右翼の活動家で公安の監視対象となっている。

 本書では実体験も交えながら公安の実態と問題点を検討する。


・公安は必要な機能だが、自由主義と民主主義に反する手段を使っており、予算の使途も不明である。

・公党である共産党を監視し、スパイを送り込んでいる。また、組織の予算を維持するため、絶滅寸前の新左翼に異常な規模の人員を投入している。

・現在の組織編制は、従来の新左翼重視から、アルカイダ等の国際テロ重視へと移行しつつある。

・規制の右翼団体や左翼団体に係る情報収取能力は有しているが、潜在的なテロリスト(潜在右翼等)を検知する能力はない。よって、一般市民が突如起こすような犯行には対処できない。

・公安はテロ組織の危険性を煽り組織防衛を図り、一方、ターゲットにされた団体も、権力に対する抵抗意識を高めていく。このような共存関係は社会の治安に対して有害である。

 

 ◆所見

 公安警察とは名称こそ違うが思想警察、秘密警察と同一である。社会に潜伏するテロリストを取締るために必要であるというのは著者も理解している。

 しかし、軍隊と同じく、活動を国民の管理下に置かず、無条件に肯定することは腐敗、暴走につながる。

 合衆国やフランス等、自由主義国家においても監視・統制の問題は浮上している。

 人間の自由、民主政と、このような監視システムとの間で、どのようにバランスをとっていくのかを常々考えなければならない。

 

 ――マイケル・ムーア監督の映画「華氏911」を観た。このなかで「安全のためには自由を捨ててもいい」と言う人が出ていて驚いた。「あ、日本も同じだ」と思った。

 

 必要性や、運用の実態を国民が掌握しておかなければ、盲目的に組織を礼賛し、役立たずの装備・システムをほめて税金泥棒を増長させることになる。

 軍隊と警察は社会の維持に不可欠であるとわたしは考える。だからこそブラックボックスの利権集団や私兵にしておいてはならないと考える。

  ***

 1

 公安の手段……転び公妨、容疑でっちあげ、ガサ入れ

 

 2

 公安警察は敗戦に伴う特高警察等の廃止後わずか4カ月で復活した。人事上もっとも出世する部署であり、「自分たちこそが国家の安全を守っている」というエリート意識を持つ。刑事警察や交通警察を見下す者もいるという。

 

 3

 公安の組織について

 ◆警察庁……

 警備局、刑事局、交通局、生活安全局、情報通信局

 警備局――

  警備企画課、公安課、警備課、

  外事情報部――国際テロ対策課、外事課
  公安課――公安第1課(共産党新左翼)、公安第2課(右翼、皇室、VIP)

 ◆警視庁……

 公安部――

  公安総務課(共産党、オウム、新興宗教)、

  公安第1課(新左翼極左)、

  公安第2課(労働団体革マル派)、

  公安第3課(右翼)、公安第4課(資料管理)、

  公安機動捜査隊、

  外事第1課(ロシア、イラン、イラク、中東)、

  外事第2課(北朝鮮、中国、東アジア)、

  外事第3課(国際テロ、中東)

 

 その他の情報機関についてのコメント……公安調査庁破防法適用に係る組織の調査を行うが、お粗末であり事業仕分けが望ましい。調査隊(現・情報保全隊)は自衛隊の防諜を担当し、退職自衛官等を追跡調査する。しかし、公安に比べて稚拙である。

 

 4

 赤報隊征伐隊拉致問題に関する朝鮮総連等への脅迫)は、いわゆる右翼団体には所属しない、潜在右翼たちの犯行だった。公安は右翼団体とは日ごろから懇意にしており、情報も持っているが、このような潜伏者に対してはまったく機能しなかった。

 

 5

 著者の批判の1つが、公党である共産党に対する大々的な監視である。歴史的な経緯から、公安はスパイ活動、監視・盗聴等を続けている。合法政党となった共産党をこのように取り扱うのは、憲法に反しているといえないだろうか。

 

 6

 革マルによる分厚い本『内ゲバにみる警備公安警察の犯罪』をめぐる顛末に笑った。

 

 ――批判的に書いたら革マル派に襲われるし、好意的に書いたら中核派に襲われる。それに、書評に取り上げただけで公安に目をつけられることになるだろう。だから、書評担当者が敬遠する気持ちもよくわかる。とはいえ、まさか書評しただけでそんなことにはならない。でも、そう思われても不思議はないくらい危険な本であることは間違いない。

 

 7

 公安の協力者獲得工作について。相手の弱みに付け込み、スパイに仕立て上げる。または、人間的魅力を持つ警察官は自ら組織に潜入する。

 ここで紹介されている手法は、防諜教育で登場する「国外スパイの手口」そのままである。

 

 8

 民主主義国家である以上、公安警察も国民の管理下に置かれなければならない。

 

 ――ある意味では、公安は日本で最も「愛国者」なのかもしれない。そうした優秀な人材を、いつまでも顔のない隠密にしておくのはもったいないだろう。さらには、ただの抑圧・弾圧・謀略機関の一員として終わらせるのも惜しいと思う。

 

 

公安警察の手口 (ちくま新書)

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