うちゅうてきなとりで

The Cosmological Fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

『ザ・マーセナリー』フランク・キャンパー

 著者は元米軍人で、傭兵学校を開設したが、本書出版時は自動車爆弾による殺人未遂で服役中だったという。

 淡々とした文体で、著者の心情やコメントは時折挿入される程度である。

 

 ベトナム派遣後、FBI工作員サウジアラビア軍の支援、傭兵学校、中南米での傭兵活動等、著者の半生はスパイ映画のようだが、どこまでが事実かは確認しようがない。

 作中に落合信彦の名前が出てくるため、不信感が増大された。

 著者は冒険の好きな人物で、反共主義と権力への不信が特徴である。権力を信じないと主張しながら、反共活動のために積極的にFBIや軍に協力するのは不思議である。

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 著者はベトナムに派遣され、LRRP(long range reconaissance patrol)小隊に配属されグリーンベレー(第5特殊部隊)の指揮下で働いた。

 一時帰国後、軍の連絡ミスが原因で無許可欠勤となり捕まった。これで逆上したのか、以後、脱走と収監が繰り返された。

 かれは、国に裏切られたと感じたようだ。

 

 ――民衆はついにマスコミと反戦抗議者たちの圧力の下で圧し潰された。私の国は道徳的にも政治的にも敗北した。そのことは敵も知っているし、我々の政治家も知っている。

 ――私は世間体の悪い戦争の産物であり、戦うことがやめられず、家族に受け入れられなかった。

 ――国は、何もわからずにベトナムに送られた我々に誠実ではなかった。忠誠など大体において嘘で、他人を利用するための道具でしかなかった。だが、私は政府や家族の態度でくじけたりはしなかった。1人で生き延びていかなければならなかったのだ。

 

 米軍は懐が深く、何度も警察やFBIに追われ、軍法会議にもかけられた兵隊を歩兵として使い続けている。

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 著者の世界観……共産勢力がアメリカ社会を引き裂いていた。

 除隊後、地元アラバマ州共産党下部組織に潜入し、さらにその下部組織である武装黒人組織に潜入した。かれは自分からFBIに連絡を取り内偵を1年ほど行った。

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 その後、カーレースで働くが、戦闘を求めて1979年に中東に向かった。イスラエル人に協力者として雇われながら、修理工兼戦闘員としてサウジアラビア軍の後方支援を行った。

 かれは1979年のグランド・モスク占拠事件に遭遇した。

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 1980年に、合衆国に戻りマーク・スクール(傭兵学校)を開設した。各国の軍・警察関係者が多く入校したため、情報機関もインテリジェンスとリクルートの場として注目した。ただし、犯罪者やテロリストも紛れこんだ。

 それから、かれは中南米において反共ゲリラに潜入するフリーランス・スパイになった。

 著者の反共主義、米国への忠誠心は強固である。エルサルバドルの路上で、兵隊による射殺や処刑部隊の活動に遭遇しても、まったく疑問には思わなかったようだ。

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グアテマラ偵察……イギリス情報部の依頼

・イラン・コントラ作戦……米軍情報部門(MI)に依頼されて、武器の横流しを支援する。

・ナイジェリアクーデタのための武器の横流し

パナマ特殊部隊との取引

・シーク人反政府派を訓練しつつ、FBIに情報を提供する。

 

 ――我々の国ではこういった森林地帯はないんだ。もっとだだっ広いところだ。我々が知りたいのは市街地戦や道路での装甲車両の止め方なんだ。そういうのもやってくれるのか?

 

・合衆国NSCは、CMA(civilian material assistance)という組織を通じてニカラグアの反共組織コントラを支援していた。しかし、アメリカ人傭兵を載せたCMAのヘリが、サンディニスタに撃墜された。

 

 ――議会はコントラへの合衆国援助に対立し、コントラ支援を法律で禁止する案を出していたからだ。私の経験から言って、議会はいつも勝つ。

 

・マーク・スクールにやってきたシーク教徒はその後、インディラ・ガンディー暗殺やエアインディア爆破テロ等に関与した。

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 著者はテロ支援の疑い等で逮捕された。

 

 ――根本的な疑問は、なぜこんな人生を歩んだかだった。もちろん、筆頭は義務感からだが、生き残るスリルと危険の克服にも理由がなかっただろうか。そうだとすれば、義務感だけを正当化するのは片手落ちだ。基本的には、自分に合っていたからやったことは認めなければならない。

 ――私は政治も政治家も信じなかった。彼らは自分こそが解決できると主張するが、私の考えでは彼らこそが厄介者であり、問題を増やしているようなものだ。

 ――私は忠誠と勇気を信じていた。それが本人だけの目的のものであっても。しかし同時にそれが、ずる賢い政治家が兵隊を戦争に送り続けるために使うごまかしであることも知っていた。

 

 

ザ・マーセナリー―傭兵たちの世界

ザ・マーセナリー―傭兵たちの世界