うちゅうてきなとりで

the cosmological fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

『神の歴史』カレン・アームストロング その4

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 15、16世紀は西洋が東方文明を追い越し、進出を始めた時代である。この過程でキリスト教も激変し、カトリックプロテスタントに分裂した。

 オスマン帝国コンスタンティノープルを占領し、東ローマ帝国が滅亡したことにより、ギリシア正教はロシアに引き継がれた。

 1492年、スペインのムスリムが制圧されたとき、スペインのユダヤ人は改宗か追放を迫られた。ユダヤ人の多くはひそかに信仰を続けるか、北アフリカ、トルコ、バルカン諸国に亡命した。

 ルネサンス時代にイスラム世界が停滞したというのは必ずしも正確ではない。政治勢力としてはオスマン帝国サファヴィー朝ムガル帝国が繁栄し、また絵画芸術も発展した。

 

・ダマスカスのイブン・タイミーヤ……ムハンマドと『クル・アーン』の時代に回帰すべき。

イラク学派のムッラ・サドラ……スーフィー

シーク教……ムガル帝国における、ムスリムヒンドゥー教徒の融合

 

 スペインから、続いてヨーロッパ中から追放されたユダヤ教徒たちは、ガリラヤのサフェドにおいて新しい神秘主義を作り出した(コルドヴェロ、イサーク・ルリア)。

 14世紀から15世紀にかけて、西洋でもペスト、コンスタンティノープルの陥落、アヴィニョンの捕囚(ローマとアヴィニョン教皇の分裂)、大分裂等の危機が続き、既存の体制が信頼を失っていた。

 

・オックスフォードのドンス・スコトゥス

・トマス・ア・ケンピス『キリストのまねび』

 

 ルネサンス人文主義者たちは神よりもマリアや聖人、イエスをとりあげ、難解なスコラ哲学を批判した。

 宗教改革がおこった原因については、現代では諸説ある。

 ルターの影響がドイツ国内のみにとどまったのに対し、カルヴァンはより広範な影響を及ぼした。

 ツヴィングリはスイスにおいて、ルターに比較的近い主張を展開した。しかし教義をめぐって、ツヴィングリ派とルター派との内戦になり、本人は戦死した。

 ルターは元々カトリックからの分裂を目指してはいなかった。またかれは強烈な反セム主義者であり、また女性嫌い、セックス恐怖症であり、「すべて反抗的な農民は殺されるべきだと信じていた」。

 いずれの改革者も、イエスに立ち返り、神の絶対的尊厳を強調した。

 しかし、カトリックプロテスタントともに、聖書を字義通り解釈し(リテラリズム)、当時発展していた科学に反対した。このため、神は説得力を失い、後の無神論の誕生につながった。

 

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 啓蒙主義の時代には、産業と技術の発展にあわせて、神の観念も変質していった。

 啓蒙主義者たちの神の解釈は、それぞれ異なる。

 

パスカル……啓示の神

デカルトニュートン……哲学の神。デカルトは意識の中に神を見出し、ニュートンは神を機械工のような存在ととらえた。

ヴォルテール……理神論(Deism)。創造者としての神は認めるが、啓示や奇跡は否定した。

スピノザ……汎神論。ユダヤ教から破門される。神すなわち自然すべてであるという考え。

・カント……人間のための神

・クェーカー、メソディスト……汎神論的、理神論的。厳しく冷酷な神からの解放。

・アメリカの大覚醒……熱狂的な信仰。平坦で明瞭な神。

 

 一般に、西洋の信仰復興(リバイバル)は、激しい感情への志向を持っている。

 

・17世紀後半、ユダヤ教ではシャバタイがメシアを名乗り、熱狂的に支持された。ところが、シャバタイはスルタンに改宗か死かをせまられムスリムになってしまい、ユダヤ教徒の間に混乱を招いた。

 

 ユダヤ教徒は東欧でポグロムに見舞われていた。

 

・18世紀、ハシディズム(ユダヤ教的敬虔主義)が広がった。これは共同体と絆を重視し、希望的な信仰だった。

 

 イスラーム思想の変遷について。

・18世紀のワッハーブ……神秘主義に反対し、預言者とウンマイスラム共同体)の時代に回帰すること。反トルコ主義に基づく、オスマン帝国へのジハード。

 

 無神論の先駆者たちが西洋で生まれた。

デイヴィッド・ヒューム……神への懐疑

ディドロ……神の存在を疑い投獄される。

・オルバック伯爵……近代の無神論者の起源。

ラプラス……物理学から神を追い出した。

 

 ――ディドロー、オルバック、ラプラスは……より極端な神秘家たちと同じ結論に到達した。「かなたには」何も存在しないのだ、と。間もなく、ほかの科学者や哲学者が、神は死んだと勝利の宣言をしたのだった。

 

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 19世紀には、無神論が盛んになった。フォイエルバッハマルクスダーウィンニーチェフロイトなど。

 一方で、人間の想像力を重視するロマン主義も支持された。この時期の詩人はワーズワース、コールリッジ、ブレイクなど。

 シュライエルマッハーは、過度の合理主義を拒絶し、宗教の本質を「絶対依存の感情」と定義した。

 

ヘーゲル……神は人間と不可分に結びつく。

・ショウペンハウアー……神は作用していない。諸業無常が真理である。

キルケゴール……既存の教理や信条は贋物であり、真の信仰はそこから離れなければならない。

フォイエルバッハ……『キリスト教の本質』において、神は人間の投影に過ぎないと主張した。

マルクス……宗教は抑圧された者たちのため息、民衆のアヘンである。

ニーチェ……貧しいキリスト教から解放され、人間自身が自分たちの支配者になるべきである。仏教的な、回帰と再生という神話に立ち返るべきである。

 

 19世紀の無神論者は、神という迷信を捨ててより良い人間世界をつくることを目指した。しかし、ナチスニーチェヘーゲルイデオロギーを利用したように、「無神論イデオロギーも、「神」の理念と同様に残虐な十字軍的倫理に導きうる」ものだった。

 神を捨てるということには苦痛や混乱が伴った。

 

ドストエフスキー、マシュー・アーノルド、テニソン。神を待つ人間たち……「ゴドーを待ちながら」。

 

 イスラーム世界は西洋の従属的地位に落とされており、一部の為政者たちはイスラム教を切り捨て、西洋化を進めようとした。しかし、過度の宗教的抑圧は、強い反発、原理主義運動を生むものである。

 改革主義者たちは、多くが神秘主義的傾向(スーフィーやイシュラク神秘主義)を持っていたが、かれらは自由・平等・博愛の社会がイスラームの理想に近いことを発見した。またかれらは科学に肯定的であり、宗教と科学が共存可能であることを疑わなかった。

 キリスト教は苦難と逆境の宗教だが、イスラームは、成功者の宗教だった。イスラームの教えは社会を成功させ、ムハンマドの時代のように、大帝国をつくりあげるはずだった。

 

 ロシアでポグロムが発生した1882年以降、パレスチナへの移住を目指すシオニズムがおこった。これは若い社会主義者共産主義者を中心に進められた。世俗主義にもかかわらず、宗教的な用語を用いた。

 ホロコーストは、ユダヤ教だけでなくキリスト教においても、伝統的な神学を終わらせてしまった。

 神が虐殺を止められなかったなら神は無能で無益である。わかってて止めなかったならば、神は怪物である。

 

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 近現代の思想について。

カール・バルト

パウルティリッヒ

・ド・シャルダン

・ダニエル・デイ・ウィリアムズ……「プロセス神学」

ホワイトヘッド

・カール・ラーナー

・バルタザール

マルティン・ブーバー

アブラハムヨシュア・ヘシェル

ハイデガー

・ホルクハイマー

 

 1970年代以降、主要な宗教において、根本主義(ファンだメンタリズム)が勃興した。それは字義主義的で、不寛容で、政治的だった。根本主義は慈愛よりも神の敵を断罪することに熱心だった。

 著者によればこうした動きは神からの後退である。

 

 ――われわれは、慈愛こそが、「機軸の時代」に創造されたほとんどのイデオロギーの特徴であったことを見てきた。……あまりにもしばしば、慣習的な信仰者たちは攻撃的な自己義認の態度を持っている。かれらは自分たち自身の好き嫌いを支えるために「神」を利用し、それらを神自身に帰するのである。……歴史的唯一神論の神は犠牲ではなく慈愛を、高尚な礼典ではなく慈悲を要求するのである。

 

 著者は、根本主義を神の安易な代用品であるとして批判する。

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 用語

 エン・ソフ……ユダヤ教の神秘神学カバラーにおける、神の不可知の本質。

 ケノーシス……自己をむなしくすること。

 シェキナー……ユダヤ教において神の現臨を意味する。

 タウヒード……神の聖なる統一。

 トーラー……モーセの律法。聖書の最初の五書『創世記』、『出エジプト記』、『レビ記』、『民数記』、『申命記

 ミシュナー……ユダヤ教の法典。タンナイームらによって編集されたもので、『タルムード』の基礎。

 ミツヴァー……戒律。

 

神の歴史―ユダヤ・キリスト・イスラーム教全史 (ポテンティア叢書)

神の歴史―ユダヤ・キリスト・イスラーム教全史 (ポテンティア叢書)