韓国の徴兵制、軍隊、また、歴史的な経緯を説明する本。
兵役を経験した若者の証言なども紹介されており、韓国社会と軍との関係を学ぶことができる。
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北朝鮮軍108万の大半は、国境の非武装地帯近辺に配置されている。その施設は地下化されている。
北朝鮮侵攻の想定パタン……
・地下トンネルを利用した韓国側への侵入
・軽飛行機による特殊部隊降下
・大量破壊兵器の使用
――……日本人が韓国人を本当に理解するためには、韓国の軍隊とそれが生んだ文化、いわば軍事文化をどうしても知る必要があると考えるようになった。
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1
韓国の男性にとって兵役は通過儀礼の意味を持っている。高校卒業後、青年は皆身体検査を受け、合格したものは入隊時期を希望し、入営通知を待つ。
身体検査不合格や特殊事情で入隊できない者は、社会服務や公共施設警備に回される。
6週間の教育の後、特技教育を受け、部隊に配属される。
軍隊には古い時代のいじめや制裁が残っているため、多くの若者は不安を感じ入隊する。しかし、同時に、兵役を終えることは、人間として成長し一人前になることととらえられている。
・特技兵……電算機や音楽、整備等、自己の特技を生かした職種につく制度。また、英語教育や情報技術教育を軍隊に導入し、兵役を自己啓発の場とする試み。
・兵役忌避……韓国社会の指導層において、本人や身内の兵役逃れが問題になっている。国民は、こうした上級国民の振る舞いに大きな不満を抱いている。
・実態としては、自分から兵役に行きたがる若者は減っている。
――徴兵制は神聖な国民の義務であるとされているが、文字通り神聖だと思っている人はそれほど多くないであろう。南北分断という現実のなかでのみ作用する統治論理にすぎないという主張も根強い。
芸能人やスポーツ選手が特技を生かして、兵役に替わる役割を担うということは、兵役義務を果たす人間はただの無能であるということになる。
海外国籍取得等による兵役逃れが増加している。
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2
日本統治下の1944年、韓国人に対し徴兵制が施行された。その後1949年、韓国政府が兵役法により再び徴兵制を復活させたが、北朝鮮の侵攻を懸念するアメリカの圧力によりすぐ廃止された。
1950年の朝鮮戦争勃発により、韓国軍が壊滅寸前となった事態を受けて、徴兵制が再度復活した。停戦時には韓国軍は65万人規模になっていた。
60年代には、アメリカの要請を受けてベトナムに参戦した。また、北朝鮮ゲリラの攻撃もあり、軍の規模は維持された。
――朝鮮半島は、その歴史を通じて国防の重要性を体験してきた。大陸と海洋勢力の角逐の場であった朝鮮半島では、千数百年の間に930余回もの大小の戦争があったという事実がこれを物語る。……朝鮮民族にとって国防とは、国家が存続するための、もっとも基本的な国家活動なのである。
兵役義務は、国家への忠誠心に基づき、肉体・精神を発揮して国家に献身する理念を実現することである。
兵役制度の分類……
・義務兵制
徴兵制
民兵制
・志願兵制
職業軍人制
募兵制
傭兵制
韓国における兵役義務は、「選兵」→「服務」→「予備役」の段階を経て移行していく。
将校養成機関……各軍士官学校(義務服務期間10年)、ROTC(学生軍事教育団)、軍奨学生制度、陸軍第三士官学校(短期の士官学校制度、中堅幹部養成)
副士官……下士官のこと。志願制をとる。
一般兵士……陸軍の大部分は徴集によって服務を行う。海軍、空軍、海兵隊の一般兵士志願には試験がある。
常勤予備役……6週間の教育後、郷土の予備役に服務する。肉体的に弱い者や、軍事境界線付近に住む者がなる。
転換服務……警察、消防、刑務官等への配属
代替服務……障害や、医師・弁護士等特殊資格者の公共施設勤務
郷土予備軍……予備役の組織編成。40歳までは、すべての男性は予備役組織(民防衛)の中に組み込まれている。
新兵教育と兵科教育について……
・新兵教育……精神教育、基礎体力訓練、兵器訓練
・兵科教育
工兵
機械
防空
野戦輸送
陸軍訓練(迫撃砲、無反動砲など)
情報
総合軍需
通信
砲兵(自走砲、砲兵探知レーダー)
航空
化学
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[つづく]
韓国の軍隊―徴兵制は社会に何をもたらしているか (中公新書)
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