カントは、永遠平和の達成のためにどのような具体的な策が必要かを考えた。
1章 国家間の永遠平和のための予備条項
1「将来の戦争の種をひそかに保留して締結された平和条約は、決して平和条約とみなされてはならない」
2「独立しているいかなる国家も、継承、交換、買収または贈与によって、ほかの国家がこれを取得できるということがあってはならない」
国家は人格であり、財産として扱われない。
3「常備軍は、時とともに全廃されなければならない」
常備軍と同じく、財貨の蓄積も、先制攻撃の原因となる。一方で、防衛のための限定的な軍隊編成は認めている。よって、実効性があるかどうかは別として、自衛のための軍事力を否定しているわけではない。
兵隊という職業の根本的な問題についての見解は次のとおり。
――……そのうえ、人を殺したり殺されたりするために雇われることは、人間がたんなる機械や道具としてほかのものの(国家の)手で使用されることを含んでいると思われるが、こうした使用は、われわれ自身の人格における人間性の権利とおよそ調和しないであろう。
4「国家の対外紛争にかんしては、いかなる国債も発行されてはならない」
5「いかなる国家も、ほかの国家の体制や統治に、暴力をもって干渉してはならない」
――……一国家に生じた騒乱は、一民族がみずからの無法によって招いた大きな災厄の実例として、むしろ多民族にとって戒めとなるはずである。
ただし、カントの定義では、国家が無政府状態となり、分裂した場合は、一勢力に援助することは認められる。それも内戦中の場合は許されない。
6「いかなる国家も、他国との戦争において、将来の平和時における相互間の信頼を不可能にしてしまうような行為をしてはならない。たとえば、暗殺者や毒殺者を雇ったり、降伏条約を破ったり、敵国内での裏切りをそそのかしたりすることが、これに当たる」
交戦法規、フェアプレイの精神について。
2章 国家間の永遠平和のための確定条項
人間社会の自然状態は戦争状態である。
よって、「平和状態は、創設されなければならない」。
通常の市民社会のおいて、人びとは法的体制の下にある。
1「各国家における市民的体制は、共和的でなければならない」
社会の成員が皆自由であり、法の下に従属しており、国民として平等であることが条件である。こうした体制が「あらゆる種類の市民的組織の根源的な地盤となる体制」である。
共和的な体制においては、戦争には国民の賛同が必要となり、決定者全員が苦難を背負うため、慎重な判断になる。
なお、統治者が多数であっても統治方式が憲法に基づかない専制的なものである場合は、それは共和的体制ではなく、民衆的体制である。
2「国際法は、自由な諸国家の連合制度に基礎を置くべきである」
国家間において法的体制を作り出すのは困難だが、カントは永遠平和を目指すための平和連合を提唱する。
――この連合が求めるのは、……もっぱらある国家そのもののための自由と、それと連合したほかの諸国家の自由とを維持し、保障することであって、しかも諸国家はそれだからといって、……公法や公法の下での強制に服従する必要はないのである。
カントの考えでは戦争への権利を正当化する国際法は無意味である。
3「世界市民法は、普遍的な友好をもたらす諸条件に制限されなければならない」
他国民の尊重の必要性について。
***
◆メモ
補論に、諸国家は哲学者の提言に忠実でなければならない、という秘密条項がうたわれている。
確かに、全員がカントの話を聞き入れれば戦争はなくなるだろう。
平和連合の観念は現在の国際政治にも影響を与えていると思われる。
少量の規定だけで全人類の行動を規制するのは困難である。戦争は膨大な数の人間が関わってくる複雑な現象である。大原則は必要だが、それだけではきれいごとで終わってしまう。
カントは、ホッブズと同じように、人間は生来戦争と無秩序に向かう傾向を持っており、人為的、意図的に平和を創設しなければ安定は維持できないと考えている。
平和への取り組みはおそらく無限の道だが私たちは進み続けるしかないだろう。
- 作者: カント,Immanuel Kant,宇都宮芳明
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1985/01/16
- メディア: 文庫
- 購入: 5人 クリック: 24回
- この商品を含むブログ (56件) を見る