内部告発サイトであるウィキリークスと、その創設者ジュリアン・アサンジについての本。
ウィキリークスはサイバー空間におけるセキュリティに対しても影響を与えた。
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ジュリアン・アサンジの方針
本書から読み取れるのは、アサンジが技術者であるとともに、強い主義主張を持った政治活動家であるということである。かれは秘密の情報を全世界に明らかにすることにより、権力の不正を告発する、という報道・ジャーナリズムの本来の目的を達成しようと考えている。
伝統的なメディア、すなわちテレビ局や新聞は、政府や経済界との軋轢を避けるために、報道内容を事前に打診し、自粛するなど、報道機関本来の役割を見失っている。
ウィキリークスは自分たちの活動の公開に際し、伝統的なメディアと協力しながらも、第5の権力としての任務をまっとうしようとする。
アサンジはオーストラリアで生まれ、ヒッピーの母親に連れられて国内を転々とし生活した。コンピュータにはまり、ハッカー活動に熱中するようになる。
やがて、独裁国家や大国が隠している情報を盗み出すことに意義を見出す。
彼は、インターネットとコンピュータ技術が情報を民主化するという未来に希望を見出した。
――「舞台裏を見てみたい」というのが彼の動機だ。部外者の目に触れない情報が、彼にとっては戦利品のトロフィーだった。「極秘」レベルのデータや文書が目当てだったのである。「そこには解説抜きの、世界の真の姿がある。それは写真のように嘘がない」
「ウィキリークス」設立の構想が進められた。ウィキリークスは内部告発者を支援し、情報を精査し公開するためのウェブサイトである。ウィキリークスへの投稿については、投稿者の身元が保護されるような技術が利用されている。
また、情報の信頼性、真実性を検証するために、アサンジに賛同するスタッフらが動員された。
アサンジはカリスマ性を持つが独善的な人物として描かれており、このためウィキリークスに内部対立が起こり、離反者を生むことになった。
ウィキリークスは、内偵者や密告者の保護のために情報の一部を秘匿することはあるが、それ以外は原則として無差別に公開することを方針としている。
一方、同じ情報公開活動家の中でもアサンジらを批判する者たちは、個人情報の保護が軽視されていると訴える。
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ウィキリークスの主要な活動
1 ケニア等新興国の機密を公開した。このとき、告発者として疑われた外国人をケニア政府は暗殺した。情報公開とその行為に伴う責任を考える契機となった。
2 ユリウス・ベア銀行、ドイツの情報機関は、公開された情報の撤回を求めてウィキリークスに圧力をかけたが、逆にそのやりとりも曝露されてしまった。
3 技術要員として海兵隊に入隊したブラッドリー・マニングは、米軍がイラク市民とロイター記者2名を武装ヘリで殺害したビデオを秘密システムから持ち出し、ウィキリークスに手渡した。
本映像は「コラテラルマーダー(付随的な殺人)Collateral Murder」ビデオとしてアサンジらによって編集を施された。
マニングは自ら知人のハッカーに行為を打ち明けてしまい、通報により逮捕された。
4 米軍の作成したアフガン戦争日誌を公開した。オバマ大統領の政府はウィキリークス及びアサンジを非難し、保守派はアサンジを逮捕すべきと主張した。
5 イラク戦争日誌が公開された。この中には政府が隠ぺいしていた死者の顛末が記載されており、また、イラク軍による捕虜や市民の拷問、殺害を、米軍が黙認していたことも明らかになった。
[つづく]
- 作者: マルセル・ローゼンバッハ,ホルガー・シュタルク,赤坂桃子,猪股和夫,福原美穂子
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