ポーランドでユダヤ人殺害を実行した第101警察予備大隊について書かれた本。
当該大隊については、他の移動殺人部隊と異なり、所属隊員のリスト、証言、詳細な裁判記録が残されていた。
調査の過程で、「ホロコーストは多くの人間が多くの人間を殺害することで成立した」という基本的事実を著者は再認識させられた。
アインザッツグルッペを描いた映画「炎628」に近い題材である。
親衛隊や秘密警察ではなく、招集された一般的な市民が、いかに殺戮行為に加担していったかが詳しく書かれている。
本書で追及される根本原因は、順応性や協調性といった普遍的な徳目である。
***
前説
ユダヤ人犠牲者の大半は1942年から1943年の間に生じており、それは独ソ戦の時期と重なる。
1
第101警察予備大隊は、徴兵年齢を過ぎたハンブルクの中年男性を中心に成立しており、大隊長は警察官のトラップ少佐だった。
2
秩序警察(オルポ)は元々戦間期に設立された。敗戦により失業した軍人たちの多くが、フライコール等の義勇軍に加入し、その一部は、設立された警察機構に編入された。
秩序警察は当初から軍事訓練を行っており、いつでも陸軍戦力として利用できるよう準備されていた。
親衛隊全国指導者ヒムラーは、警察機構を保安警察(ジポ、ゲシュタポと刑事警察(クリポ)に分かれる)と秩序警察に分けた。秩序警察は各地方、各都市に駐在し通常の警察業務を行った。
ドイツの領土拡大に合わせて、秩序警察も占領地に広がっていった。ポーランドにおいて、秩序警察は警察指揮系統と、親衛隊指揮系統との双方に組み込まれていた。
本書の題材となる第101警察予備大隊の犯罪行為も、親衛隊系統からの指示によって引き起こされたものである。
3
アインザッツグリュッペンは、独ソ戦線の後背地でボリシェヴィキ、ユダヤ人等の射殺を行った部隊であり、武装親衛隊、秩序警察、刑事警察、一部外国人(リトアニア人等)の混合だった。
これらの部隊と協働して、秩序警察部隊も民間人の殺害を実行した。
4
1941年の暮れからロシア・ユダヤ人の虐殺が始まったが、これに伴い、ドイツや占領地のユダヤ人を東方に移送する業務が開始した。
秩序警察は主に運搬列車の警備を担当した。ユダヤ人たちは食事なし、水分なしの酷暑の中、車両に詰め込まれ、目的地にたどり着くまでに数百人単位で死んでいることが多かった。
移送先では、親衛隊員がユダヤ人を引き取り射殺した。秩序警察はこうした事実を知っており、また列車警護の過程で殺人に加担している。
5
第101警察予備大隊の特性について。
独ソ戦開始後、人員の入れ替わりがあり、ほとんどの構成員が予備召集者、軍事経験のない者で占められるようになった。
大隊長:トラップ少佐(警察官)
中隊長:SSの青年である大尉、中尉、徴兵警察官の中尉
その他の将校
構成員の大半はハンブルクの労働階級で、次に中流階級(個人経営者等)がいた。ほとんどは学歴のない者だった。
[つづく]
Ordinary Men: Reserve Police Battalion 11 and the Final Solution in Poland
- 作者: Christopher R Browning
- 出版社/メーカー: Penguin
- 発売日: 2001/06/28
- メディア: ペーパーバック
- この商品を含むブログを見る