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うちゅうてきなとりで

the cosmological fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

『旧約聖書の謎』長谷川修一

 旧約聖書の記載内容を考古学の方法によって追求する本。各エピソードを取り上げ、考証を行い、エピソードに含まれるメッセージを考える。

 

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 ノアの方舟……メソポタミアアッシリアバビロニア等)に普及していた洪水伝説の変形バージョンと考えられる。

 シュメール人ギルガメシュ神話によく似た話があり、これを後世のセム系住民が書き残し、イスラエル人たちに伝えた可能性が高い。洪水伝説は、メソポタミア地方で頻発した災害と、敬虔な者が神によって救われるという教訓を伝えるものである。

 

 出エジプト……エジプトへのセム系民族ヒクソスの侵攻と追放が起源という説もある。それとは別に、聖書の年代が違うか、事実そのものが存在しないか、または原点となる事実を大幅に脚色したか、という複数の解釈が可能である。

 ヨセフやモーセの出自(殺戮から運よく逃れて、後に大成する)は、古来からよく見られる類型である。

 「紅海」は誤訳であり、かれらが渡ったとされる「葦の海」は特定されておらず、シナイ山も発見されていない。

 ――これだけの人数(60万人)が移動するとなると、歩く人間それぞれ前後の間隔を1メートルと計算して横10列に並んで歩いたとしても、全長250キロメートルにも及ぶ人の列になる。……この計算だと、モーセが率いるイスラエル人が、割れた海の底を渡り切るのに少々問題が生じる。夜間は行進を休んだと考えれば、全員が渡り切るまでに9日間がかかってしまうからだ。

 正確な年代を特定できていない出エジプトを事実化している日本の歴史教科書に対し、著者は疑念を表明する。

 

 エリコの征服……モーセの後継者となったヨシュアが約束の地において大虐殺を行い征服するという説話だが、事実確認はとれない。

 エリコの砦がらっぱの音によって崩れるという話には、類似の伝説がある。また、ヨシュアによる多民族絶滅攻撃は、アッシリア碑文を参考にしたと考えられる。

 

 ダビデとゴリアトの一騎打ち……歴史がどのように変化していくかを説明する。吟遊詩人は、聴衆に併せて語る内容や、登場人物の身に着けている装備を変える。ゴリアトが歴史的に異質な武装をしているのはこのためではないかと推定する。また、ある伝承を脚色し、別人の功績とすることがある。

 

 シシャクの遠征……別の文献から、エジプト王シシャクの遠征が事実であったことが確認できる。

 

 アフェクの戦い:登場人物や年代等が実在であっても、まったく架空の戦いが創作されることがある。

 

 ヨナ書と大魚……ヨナの物語は完全な創作であって、神の慈悲深さを伝えるための教訓物語である。ヨナは頑迷で心が狭く、人種主義的だが、神はこのような欠点だらけの預言者であるヨナを許し、またニネヴェの民を許す。完全に歴史からは遊離した挿話である。

 

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 聖書は全てが歴史的事実というわけではない。すべての内容には、編集者たちの明白なメッセージがある。歴史的事実、歴史の改変過程、またメッセージを総合することで、古代オリエントの人びとが何を考えていたのか、その文明を知る手がかりをつかむことができる。 

旧約聖書の謎 - 隠されたメッセージ (中公新書)

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