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うちゅうてきなとりで

the cosmological fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

『自壊する帝国』佐藤優

 10年程前に『国家の罠』、『獄中記』等を読んで以来、久々にこの著者の本を読んだ。

 

 著者は極端なロシア政府寄りというわけではないだろうが、暗殺されたアンナ・ポリトコフスカヤやリトビネンコに対しては冷めた見方をしている。

 どちらの書いた本も読んだことがあり、非常におもしろかった。しかし、著者によれば、プーチンはポリトコフスカヤを保護していたのであり、またリトビネンコは変節漢だという。

 西側とロシアでは物の見方が全く異なると感じる。どちらも、自分たちのことは棚に上げて、敵の人権侵害や不正をあげつらっている。

 

 本書は、1987年から1995年にかけて、ソ連崩壊前後にモスクワ大使館員として勤務したときの回想録である。

 国費でチェコに留学し大学院から学んでいた神学に取り組もうとしていた著者は、ロシア担当に配属された。

 著者は、外交官に求められる資質が人間性であることを強調する。いわく、もっとも重要なのは道徳である。具体的には、嘘をつかない、人を裏切らない、約束を守る、筋を通す、といったものである。
 目先の利益で人を切り捨てたり、保身のために他人を売ったりする人間、信念がなく情勢を見て態度をころころ変える人間は信頼されず、そういう人間に人は情報を提供しないという。

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・外務省職員

 キャリアと専門職員とは、研修にかける期間と費用が異なる。2つの採用区分の間で階級差をつけることで、キャリアは自分たちの地位を守ることができる。

ソ連の状況と日常

 ソ連は広いため権力は地方や連邦諸国まで届かないことがある。ウォトカとロシア人の関係。ソ連時代の住宅、大学、その他。

・インテリジェンスの世界

 ロシア人によればKGBテクノクラート(技術官僚)であり、それ自体は脅威ではない。かれらの任務は監視と記録であり、KGBを利用するのは政治である。政治が牙をむくとKGBはその武器となる。

 KGBには諜報と防諜があり、諜報がエリートコースだった。職員は学者や外交官、ビジネスマン等、表の肩書を持っている。

 GRUは軍の参謀本部情報総局であり、KGBとは別系統である。著者によれば関東軍に近く、謀略や攻撃的な諜報活動を好む。

・物語

 潜在的な能力を持つ主人公が、周囲の人間を味方につけながら、徐々に戦いに巻き込まれていくという話の流れ。ノンフィクションの形をとっているが、冒険小説やスパイ小説を読んでいる気分になるのはこのためである。

バルト三国やザカフカス、連邦諸国の様相

 バルト三国では独立派とソ連貴族派との対立が深まっていた。

ロシア正教

 社会主義イデオロギーが急速に力を失ってく過程で、ソ連の党官僚たちはロシア正教を利用できないかと考えた。ロシア正教の力は強く、ソ連の全歴史を通じて教会は生き残った。

 ロシア正教か、ロシアのナショナリズムか、民族主義か、民主主義か、どのような信念に基づいて国を再建するかが問題だった。

リトアニア情勢

 リトアニアで独立派への弾圧が行われたときの様子が詳しく書かれている。

自壊する帝国 (新潮文庫)

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