10
ダーウィン主義に対して大きな影響を及ぼした、批判者の1人であるグールドについて。
スティーヴン・グールドは、進化論を普及させる上では素晴らしい業績を残した。しかし、彼の説は進化論に「スカイフック」(何者かが進化を今あるように導いたとする概念)を見出そうとするものであり、一切はアルゴリズムの積み上げによって形成される、とする本来のダーウィニズム(デネットの立場)からは、明白に間違いである。
グールドは、形質の形成は適応ではなく、それ以外の何かによってもなされた、と主張する。デネットによれば、適応には必然の一手がなく、複数の解がある場合もある。
よって、グールドのように、進化はほとんど「偶然」によってなされたという見方は精確ではない。
バージェス頁岩の生物の多様性とその絶滅を指して、絶滅は単なる偶然によっておこる、とグールドは結論付ける。しかし、その根拠はない。
グールドは「ラディカルな偶発性」を唱え、もう1度生命の進化をたどれば人間にはたどり着かないだろう、と考える。
しかし、眼や、哺乳類の形質や、羽根の進化は、形質の形成が一定の問題解決アルゴリズムに則って発生することを示す。
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生命の起源に関するトンデモ説や、ラマルク説といった異説について。そのどれも、ダーウィン主義を論破することはできていない。
突然変異に方向性があるというのも事実の誤りで、データは全くの偶然であることを示している。
3部 心、意味、数学、そして徳性
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他の種と異なり、ヒトが遺伝子の利益に反した行動の選択肢を持っているのはなぜか。
人間は文化を用いて、驚異的な速度で生活や体型等を変化させる。文化もまたダーウィン主義的な起源をもつ。
チョムスキーは、言語が人間の文化形成のクレーンとなることを示唆したが、グールドと同じく、ダーウィン主義を言語理論に適用することを拒否した。
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チョムスキーについて。
かれは言語器官が生得的である(人間は、生まれた時点で言語を扱う能力を有している)と主張したが、それが自然淘汰に由来するということはかたくなに否定した。かれによれば言語器官は突如現れた未知のものか、脳が拡大した副作用だという。
人間の心をブラックボックスのままにしておく思想は、反ダーウィン主義者の拠り所となってしまった。
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古来、哲学の重要なテーマであった意味について、進化論的に考える。
知能、精神もまたアルゴリズムの動作の積み重ねによって生まれる。
わたしたちの肉体と精神は、遺伝子を運ぶ機械である。
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ペンローズに反論し、数学者の脳もアルゴリズムの集積であり、AIと同質であることを主張する。
――個々の芸術家、小説家、作曲家、コンピュータプログラマーは、「スタイル」として知られるひとまとまりの特異な習慣を利用して、デザイン空間の探索を促進している。そのスタイルは、私たちに拘束と才能を同時に与えることによって私たちの探索に1つの積極的方向を与えてくれる……
――プルーストにはベトナム戦争についての小説を書く機会はまったくなかったが、プルースト以外の誰にも、「プルーストの作品」を書くことは、つまり「プルーストの」作風で「かの」時代を描いた小説を書くことは決してできないだろう。
[つづく]
- 作者: ダニエル・C.デネット,Daniel C. Dennett,山口泰司,大崎博,斎藤孝,石川幹人,久保田俊彦
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