本書は、言語における意味について考える。
人間が自分の思考や感覚をどのように言葉にするかを検討し、人間の性質について探ろうというものである。
特に、具体的な言語の使用例や、日常生活に即して言語における意味について考えようとする方法に特徴がある。
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1
意味論は、言葉と現実の関係、言葉と社会との関係、言葉と感情との関係を考察の対象とする。本章はこの3つの関係をおおまかに紹介する。
<思考の言語>はわたしたちが概念をストックしそれを用いる枠組みを指す。わたしたちは思考の言語に基づいて現実を解釈する。
言葉、特に名前は、他の言葉によって定義されるものではなく、存在するものを指し示す、名前をつける、くっつけることで世界に結び付けられる。
言葉は社会のなかで理解され、伝達されるものである。言葉の用法や意味は社会の中で生起、変化するが、それは予測不可能に近い。
言葉と感情の関係について……なぜ特定の言葉はタブーとみなされ、禁止されるのか。わたしたちは言語と感情の問題について常に悩まされる。
言語は思考や感情を表現する手段であるが、思考や感情そのものではない。
2
人間の思考プロセスには次のような基本的な特徴がある。
――すなわち、心はいくつかの対立するとらえ方を採用し、日常のもっともありふれた出来事でさえ複数のしかたで解釈すること、現実の空間における位置の変化についての思考の様式は、比ゆ的に拡張されて、状態の変化を<状態空間>のなかでの動きとして概念化すること、そしてある物がどこかにあるとか、どこかへ移動していると考えるとき、心はそれを全体として1つの単なる塊としてとらえること、である。
動詞は言語を組み立てる核となる。子供は、動詞の変化についての複雑な規則を先天的に身に着けているように思える。
ヒトの認知にはクセがあり、空間、時間、因果性、所有、目的といった概念が、<思考の言語>を構成する。こうした概念が、わたしたちの言語の仕組や用法に反映されている。
3
言語は、豊かで抽象的な人間の思考を理解するためののぞき窓である、という概念意味論を強化するために、3つの異説を検討する。
すなわち、極端な生得主義(遺伝子の中に国語辞典程度の語彙が記録されている)、ラディカル語用論(心には語の意味の固定的な表象は存在しない)、言語決定論(言語が、思考の言語を決定する)である。
言語決定論は、言語が思考を決定し、言語にない事柄は思考することができない、とする仮説である。
ウォーフや、ウィトゲンシュタインをはじめとする多くの学者がこの説を支持し、また人文系学問を学んだ人間の多数が、この説を信じている。
しかし、多くの実験や検証から、言語が思考を形成する、という説が誤りであることがわかる。
言語をつくるものは思考であり、思考は、時間、空間、因果性といった先天的な概念と、環境、生活習慣等の影響によってつくられる。
言語が思考に与える影響は限られたもので、それは突飛なものではない。
ホッブズが書いたように、言葉は思考のための計算機である。
[つづく]
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