うちゅうてきなとりで

the cosmological fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

『獄中記』佐藤優

 逮捕された元外務省職員の本。大量の本を出しており粗製乱造の感もあるが、本書は獄中での読書やメモをまとめた割と初期のものである。

 もし独房に入れられたり軟禁されたりしたら、とりあえず外国語勉強に専念しようという感想を持った。


 著者によれば、政争、失脚、蹴落とし工作、こういうものが政治である。そしてこの闘争を覆い隠すのが民主主義といった制度や、たびたび「擬制」と称される法律の概念である。曰く「政治の世界は嘘で塗り固められている」。

 法は政治が用いる道具であり、検察はその手先のように描かれている。Rule by Lawとはこのことだろうか。

 巧妙に隠されているが、日本にも国家の暴力がある。それは彼の言うところの「柔らかい暴力」であり、ソ連や途上国のように明快でないため、むしろ注意を要する。

 

 読書について。

 ――このような状況で危険なのは、関心領域が散漫になり、体系的な知識が身につかなくなることです。知的好奇心にブレーキをかけ、語学、歴史、哲学等の普段、外では時間がかかるので、敬遠しがちな面倒な事象を記憶に精確に定着させる作業を重視したいと思っています。

 

・彼の知識の中心は、ヘーゲルらの哲学およびキリスト教神学である。いわく、そもそもキリスト教は弾圧のもとで生まれ、それ以後政治と密接にかかわりながら発展してきたものである。よって、神学は現実から遊離しているわけではない。

 

・「汝の敵を愛せ」とは見境なく平等に愛せということではない。友敵の区別を厳しくつけたうえで、敵を愛せと説いているのだ。敵を愛することで彼は憎悪から解放され、敵の敵性を失わせることに集中できる。

・憎悪の奴隷となってはならないと説くキリストの教えは著者に大きな影響を与えている。
・国家は想像の共同体だが、ソ連崩壊を目の当たりにしたからこそ彼はこの架空の定義の重要性を実感したようである。

 大日本帝国の例を出すまでもなく、国家は国民を死地に追いやる力を持つ。だからこそこの力、国家を軽視してはならないという。
・独房は集中力を要する語学や哲学によい環境のようだ。
北方領土問題はロシアにとっては瑣事ではない。領土を日本に返上すれば、コーカサス独立運動を展開しているチェチェンイスラム過激派を煽ることになるからだ。

 当初、民族派が優勢をしめていたチェチェンは、いまはビンラディンアルカイダと同じワッハーブ派のジハード主義者で占められている。チェチェン人同士のあいだにすでに内紛がある。


 突き詰めてものを考えること、学生時代に基礎的な学問の訓練を受けること、論理や構造を理解するための訓練をおこなうこと、そして常に自分から距離を置き観察すること、それに基づいて行動方針を定めること、これらの重要性を本書は唱えている。

 

  ***
 精読の方法……まず軽く読む、次に抜粋をつくり、内容を再構成したノートをつくる。理解が不十分な箇所、あいまいな箇所についてチェックする。

 

 神学、ハーバーマス大川周明北一輝広松渉唯識ゲルナー

獄中記 (岩波現代文庫)

獄中記 (岩波現代文庫)