うちゅうてきなとりで

The Cosmological Fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

『福島第一原発 真相と展望』アーニー・ガンダーセン

 元原発技術者が福島第一原発の状況について説明する本。

 著者は大学で原子力工学を学び原子炉設計に携わっていたが、炉の欠陥を訴える内部告発をきっかけに追放され、以後、原発廃止論者となった。

 インタビューを並べたもので構成は漫然としているが、原子力発電が深刻な状況にある点は理解できた。

 本書の主張:

・政府及び東電原発の状況、健康被害に関して虚偽の発表を続けている。

原発のコストとリスクは大きく、総合的には人類にとってマイナスである。

・アメリカ、フランス、日本、いずれの国でも政府・電力会社・大企業の利権は強固であり、国民は眼中にない。

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 1

 福島第一原発の事故はスリーマイルと同様の冷却材喪失事故である。1~4号機は外部電源を失い、発発も津波で壊れたために全交流電源喪失となった。そのため温度のコントロールができず燃料が溶けて圧力容器の底を抜けて格納容器まで落ちた。

 古い基準のまま運用していたため、後発の第二原発は被害を免れたが第一原発津波被害を被った。

 ――新たな技術上の発見があったのに、なぜ旧型には適用しなかったのか? 答えは「採算」です。

 採用されているGE社のマークI型の問題点を著者は以前から指摘していた。

 現在、各号機はなんとか抑制されながら有害な放射能を漏らしつづけている状況である。

 

 2

 各号機の状況……

・1号機:メルトダウン、水素爆発、汚染水の流出、

・2号機:格納容器の損傷、再臨界のおそれ

・3号機:放射性蒸気を放出中、メルトダウン使用済み核燃料プールで臨界が起きたおそれ、燃料が2キロ先まで飛散し、海中にも沈んでいるという

・4号機:最も深刻である。使用済み核燃料プールが露出しているが、建物倒壊等により火災となるおそれ

 ――大気圏内で行われた歴代の核実験で放出された量を合わせたほどの放射性セシウムが、4号機のプールには眠っています。原子炉は原子爆弾よりはるかにたくさんの放射能を抱えているのです。4号機の使用済み核燃料プールは、今でも日本列島を物理的に分断する力を秘めています。

 

 3

 廃炉と核燃料の取り出しは高度な技術を必要とする。福島第一原発の被害収束にはこの作業が不可欠だが、日本はまだ技術を持っていない。

 汚染物の集積は一か所にまとめるべきだが、日本政府は、がれき等を分散させている。

 ――日本ほど地震活動が活発な地域での長期的な地下貯蔵施設などナンセンスです。地震の心配がない場所など日本にあるのでしょうか。日本政府は保管場所がないと気付いているため、廃棄物について正面から議論することを避けてきたのでしょう。

 原発の問題は人類の時間スケールを超えており、天文学的なコストがかかる。

 

 4

 健康被害について……

 政府及び東電は当初メルトダウンを否定し、放射性物質の放出量について嘘をついた。現在も放射性物質の漏えいは続いている。

 外部被ばく、内部被ばくにより遺伝子が損傷するとがん化が始まる。

 特に有害な同位体ストロンチウムセシウムである。その他、放射性ヨウ素超ウラン元素希ガス(キセノン、クリプトン)。

 首都圏の人間は、震災時に有害な放射性物質を浴びた。ある個人に着目しただけでは影響はわからないが、統計には確実に現れる。

 ――160キロの沖合でデッキに出ていた米空母の乗組員は、1か月分の上限とされている被ばく量を1時間で浴びました。

 放射性物質は溝やホコリ、地表に付着しているため家に帰ってきたら衣類をはたかないといけない。

 ――日本では、こうした現実には触れず、日常を取り戻すことが最優先だという意識が働いているようです。それが可能なのは、実際には始まっている健康被害が表面化するまでに数年かかるためです。……肺がんのリスクが10パーセント上がった程度ならもみ消せるのです。しかし、今回は生体への影響を無視することは不可能でしょう。政府や医学界が未補正のデータを隠さない限りは。

 

 5

 経産省原子力安全・保安院原子力安全委員会は、原発利権を持っているだけで事故の対処には何もできなかった。

 現場監督者の賢明な判断により海水注入が行われた。

 ――東電は、日本という国よりも、とにかく会社の利益を優先していたのだと思います。国民はさらにその下なのでしょう。眼中になかったのかもしれません。

 ――これまでのところ、日本政府は抜本的な対策を講じていません。汚染を封じ込めるのではなく、むしろ薄く広く拡散しているようです。……とんでもない話ですが、数年後、健康被害が生じたときに原因を特定できなければ、彼らにとっては好都合なのです。

 

 6

 アメリカの原発は潜水艦建造から始まった。GE、WHといった政治的に強い企業が原動力となって産業が発達した。

 原爆、戦争、兵器、海軍といった背景から原子力発電技術は波及していった。

 スリーマイル島原発事故のときは、経営への悪影響を恐れる本社が事実を隠ぺいした。

 

 7

 著者は原子力産業において設計者として仕事をしていたが、「内部告発を機に政治的信条が」変わった。

 内部告発をした結果、著者は会社とNRC(規制当局)から圧力を受け業界にいられなくなった。

 

 8

 著者はコストの面から脱原発の方針をとる。

 ――安全な原子力は実現できる、安価な原子力も実現できる。しかし、それらは相容れない。

 過去33年間に5つのメルトダウンが起きており、事故は隕石よりも高い確率である。

 原発事故の対価は最終的に納税者が負担することになるだろう。

 ――国特有の事情など本質的には関係ありません。業界の影響力はあまりにも強く、これは万国共通です。業界が規制をコントロールしています。そうでもしなければコストを抑えられないのです。

 かつて原子力が安価だったのは、負の遺産を計算に入れていなかったからである。

 

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 福島第一原発の状況や、健康被害について、深刻な内容が書かれている。

 政府と会社はうそをつく。

福島第一原発 ―真相と展望 (集英社新書)

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