自らも部落民出身であるライターが部落問題についてわかりやすく説明する。
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部落の起源はかつては江戸時代の政治制度とされていたが現在では否定され、中世から賤民階級の形成が始まっていたという。穢多、非人以外にも無数の被差別身分があり、由来や職業も様々である。
現代では、部落の定義はあいまいになっているが、確かに存在する。
部落民を親族に持つ者、被差別部落に住んでいる者が、部落民とみなされている。特に、住居が流動化した現代では、地縁、同和地区や被差別部落に住んでいる事実の方が、部落民の定義にとって重要となる。
部落民は伝統的に劣悪な環境で生きてきたため、教育の程度は低く、またガラが悪い傾向がある。暴力団の相当の割合が部落出身かまたは在日韓国・朝鮮人である。
こうした事実を隠す同和教育は、空疎な建前とスローガンになりがちである。
部落に対する差別は同和対策事業や教育でだいぶ改善された。部落民の多くは差別にあったことがなく、部落民であることを知らなかった例もある。一方、差別は見えにくいかたちで残っている。特に、結婚や就職の場面で顕在化するという。
差別意識は、同質性を求める性向と、異質なものを排除する性向がつくりだす。「かれらは違う」という意識が、特に親から子へ伝えられていくことに言及している。
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――部落問題でなにが一番の課題かと言うと、無関心である。……最悪の場合、、差別する者に同調したり、差別する側にいることもある。
――差別が自然になくならないのは、部落問題に限ったことではない。女性や同性愛者や障害者や在日外国人やハンセン病の元患者に対する差別は、いまだ問題を残しつつも、以前(たとえば五十年前、三十年前、十年前)に比べてましにはなった。言うまでもなく、それぞれの立場の人びとが差別に反対し、自らの存在をアピールしてきたからである。自然に差別が緩和されたわけではない。人は指摘されることによって差別している自分に気づく。わがままや傲慢な人が、自分でそれに気づかないのと同じである。
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著者の考える部落問題対策は次のとおり。
・身近な題材をきっかけとして部落問題について知らせる。子供が成長していずれ部落問題に出会うことがあるからである。
・ほとんどの人は部落民と会ったことがない。部落の生活を見学し、また部落民の話を聴くことが、差別の理不尽さを知るために効果的である。
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著者の文章はくだけた調子だが、理解しやすい。差別について伝える言葉は、単純だが説得力がある。
――世の中にはいろんな人がいる。
どんな理由をつけても人を殺してはならない。
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被差別者たちは、多数派に無条件に従属して立場を解消しようとしがちである。しかし、こうした態度にも警戒しなければならないという。
全国水平社は日米開戦直前に翼賛運動に取り込まれて消滅した。
――「被差別」という後ろ向きの意味ではなく、さまざまな付加価値を持った部落や部落民なら、残ってもいいのではないか。部落や部落民が、なにがしかの社会的な存在意義を持ったとき、部落差別は消滅しているはずだ。そうなれば、部落や部落民を隠す必要はない。
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メモ
部落民:部落の人たちが自称する際によく用いられる。
特殊部落:悪意を持って使われたため一般的に用いられない。
同和:昭和天皇の言葉を典故とする行政用語。
未指定地区:被差別部落だったが、その事実を隠すために同和地区指定を拒否したか、または穢多・非人以外のマイナー身分の部落であるため指定されなかった地区。
部落の起源:江戸時代よりも古く、中世から存在する。