うちゅうてきなとりで

the cosmological fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

『Embracing Defeat』John Dower その2

 5 犯罪

 東京裁判と、各地で行われたB・C級戦犯裁判について。

 アジアにおける軍事裁判は特にオランダ、イギリス、フランスが多く実施し、日本兵や朝鮮・台湾出身の兵を処刑した。

 東京裁判の特徴……

・GHQとキーナン判事は天皇免責工作を行った。

A級戦犯、すなわち「平和に対する罪」の定義が問題となった。それまで、攻撃的戦争を行った者に対する罪という概念がなかったからである。

・判事たちは日本の撤退後に再び植民地を再征服する欧米諸国だった。またソ連は「攻撃的戦争」を日本に対して行っており、連合国は無差別爆撃や原爆投下を行っていた。

・被疑者の選定が恣意的だった……731部隊の免責、外国人・植民地人強制労働の責任問われず、フィリピンでの非人道行為に対する訴追はなし。

 勝者が政治的な工作を行ったのと同様、敗者である日本側も天皇免責のための自主裁判案を提出したが却下された。日本側は分裂しており、東条ら統制派が全ての責任を押し付けられようとしていた。

 

 征服者たちは、強固なきずなで結ばれた侍たちが、かれらを迎え撃つのを想像していたが、そこに見出したのは「ビザンチン風の、ひそひそとささやきあい、不和で分裂した人びとだった」。

 

 戦争に負けた場合、犠牲者をどのように位置づけるかが問題となる。兵隊は無駄死にだったのか、未来のために死んだのか、様々な理屈が考えられた。

 終戦直後から、負けたのは科学力と合理主義の不足であるとの意見が強まり、科学立国が唱えられた。

 田邉元『懺悔道としての哲学』、竹山『ビルマの竪琴』を例に挙げ、当時の知識人や作家が戦争と敗戦をどう考えたかを検討する。

 冷戦の本格化や東京裁判を通じて、米国の化けの皮がはがれていく一方で、A級戦犯、特に東条の評価が高まった。また、白人による裁判は復讐と人種差別に過ぎないとみなす風潮がさかんになった。

 BC級戦犯や兵隊たちは詩や歌、抒情的な文章をさかんに公表した。こうした作文は、人びとの反戦感情に訴える一方、加害者としての意識を希薄化させていった。

 今でも反戦思想は一般的に被害体験に集約されており、アジア人に対して行った暴力行為、人権侵害等は無視されがちである。

 

 6 再建

 GHQによる民主化への幻滅、逆コースと公職追放解除、経済復興等について。

 占領期のマッカーサー崇拝が、「日本人は12歳の子供」発言で一挙に消失していった経緯がおもしろい。いわく、日本人は子供のように素直で無邪気なので、ドイツ人とは異なり、新しい思考様式を難なく受け入れることができる。

 中小企業による軍需産業から民需への転換は、ホンダやソニーといった新興企業を生み出した。

 官僚主導による産業振興策は、重工業や化学工業を発展させたが、同時に官民の癒着や賄賂の蔓延を生んだ。賄賂にはGHQも関係していた。

 GHQは占領統治の円滑化のために戦前の社会構造……財閥、官僚制等、いわゆる「1940年体制」を利用した。米軍による統治も、軍国主義の変形だといえる。

 財閥のより緩やかな形式である系列企業、官僚による産業育成は日本を短期間で超大国の1つにした。一方、高度成長モデルが行き詰ってからは、いまだに活路を見出せないでいる。

 敗戦によって日本は変わったが、社会の根底的な構造は変化していないと著者は考える。それは、戦前から続く「日本―アメリカ様式」ともいえる社会である。

 戦争は忘れられ、東京裁判の意義は米国のその後の振る舞いによって陳腐化し、日本による加害行為も忘れられていった。

 

  ***

 用語

 SCAP……the Spreme commander for the Allied powers 連合国軍最高司令官

 CCD……Civil Censorship Detachment 民間検閲局。検閲

 CIE……Civil Information and Educational Section 民間情報教育局。宣伝工作

 

 GHQによる検閲のキーワード……

・SCAPへの批判

東京裁判への批判

・SCAP憲法草案への批判

・検閲への言及

・合衆国への批判

・ロシアへの批判

・英国への批判

朝鮮人への批判

・中国人への批判

・その他連合国への批判

連合国一般への批判

満州における日本人取扱いへの批判

連合国の戦前政策への批判

・第3次世界大戦についてのコメント

・ロシア対西側諸国についてのコメント

・戦争プロパガンダの擁護

神の国プロパガンダ

軍国主義プロパガンダ

ナショナリズムプロパガンダ

・封建的理想の賛美

・大東亜プロパガンダ

・一般的なプロパガンダ

戦争犯罪人の擁護

連合国人と日本人女性の交際

闇市の活動

・占領軍批判

・飢餓の誇張

・公共の秩序を乱す言動

・事実でない言動

・SCAPへの不適切な言及

・未公開情報の暴露

Embracing Defeat: Japan in the Wake of World War II

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