うちゅうてきなとりで

the cosmological fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

『労働法入門』水町勇一郎

 各国の労働法は、その国の労働観、宗教観に深く影響されている。

 日本の労働法は欧州の考え方と、日本の伝統的な思考とが混ざったものであり、本書はその本質と特徴を明らかにするものである。

 労働法の成り立ちから、労働法の枠組み、日本における運用と問題点等を簡潔に紹介する。

 また、理想とかけはなれた現実の労働現場における問題を解決するために、労働組合、労基署等の行政機関、最終的に労働審判や裁判といった手続きがあることを教えてくれる。

 

 ◆感想

 会社が違法行為の温床となっていることは身近な問題であり、まずは個人として覚悟を決めることが重要である。『権利のための闘争』に書かれていたとおり、虫けら扱いをされても黙っているものは、踏みつぶされても文句は言えない。

 絶対に不当行為や違法行為を許さないという意識がなければ、国の規制と労基署のアドバイスだけでは現実は変えられない。目の前にいる、タイムカード早押し強要人間を許さないことが分水嶺と考える。

 

 1

 労働法の歴史は近代の歴史である。産業革命と市民革命により、社会の保護を失った労働者たちが大量に生まれ、過酷な労働を強いられた。対策としてつくられた労働法は、労働者の「集団的保護」(労働時間等)と「集団的自由」(組合、ストライキ)を保障するものだった。

 ニューディール政策の時代を通して、政府による保護の自由の方針がさらに進められた。

 しかし、近年の労働環境の変化により、労働法も変化を強いられている。現在の問題として、著者は市場の競争激化による労働者の地位低下と、派遣社員、アルバイト等の労働者像の多様化をあげている。

 

 2

 ルソーは自由な意志に基づく「契約」と「法律」に基づき社会が営まれるべきであると考え、その哲学はフランス革命以後、現在においても受け継がれている。

 労働も契約の一種だが、使用者と労働者の立場の違いもあり、自由な契約を規制し、労働者を保護する規定のほうが多い。

 労働法は次の4つの法源からなる義務と権利の体系である。

・法律(強行法規)……労基法、最賃法等

労働協約労働組合法に基づく取り決め

就業規則:労働契約法に基づく

・労働契約:自由意思に基づく契約

 また、日本の労働法の特徴は次のとおり。

・会社を共同体としてとらえる。

・会社が一方的に課すことのできる就業規則が強い力を持つ。

 ――このように、日本の労働法は、他の先進諸国の労働法に比べて、当事者間の長期的な信頼関係を重視するという特徴を持っている。……そこには、メンバーシップを持たない者を差別したり、組織の論理を重視するあまり個人が組織のなかに埋没してしまうという危険が潜んでいる。非正社員の待遇をめぐる格差問題や、正社員の過重労働による過労死やメンタルヘルスの問題は、この企業共同体に内在する危険が顕在化した例である。

 

 3

 日本の労働法の特徴

・解雇権濫用法理が強力であり、労働者解雇への規制が厳しい。

・そのため辞職に追い込む風習があり、問題となっている。

・長期雇用を前提としているため、採用段階での身分、地位、思想信条での差別を認めている。ただし、男女差別は法律で規制される。

・使用者の人事権が強力だが、不当な命令等は裁判所が適切に処理してきた。

 ――……むしろ日本の問題は、このような判例法理等が存在するにもかかわらず、それが労働者や会社(特に中小企業)にきちんと認識されていない点や、裁判所などの法的な紛争解決機関があまり利用されていない点にあるのではないか。大学などで学ぶ「労働法」と実際に企業に入って味わう「現場」とのギャップこそが、日本の労働法の最大の問題といえるのかもしれない。

 

 4

 労働者の人権保護には雇用差別の禁止、労働憲章、ハラスメント防止、プライバシー保護、内部告発保護等がある。

 日本の課題は、開かれた意味で労働者に集団性・連帯性を付与すること、労働者個人の人権を尊重することの2点にあると著者は主張する。

 

 5

 賃金、労働時間、健康については法規によって規制がかけられているが、過酷な労働条件から労働者を保護するという機能はまだ不十分である。

 

  ***

 労働法の様々な分野において、法が前提とする認識が経済構造の変化に追いつかなくなっている。

 労働組合は労使関係を円滑に改善するための集団であり、法的に制度化されている。具体的には、労働協約や、団体交渉、団体行動権、不当労働行為の禁止(組合活動を理由に解雇等)が保障されている。

 しかし、日本の企業別組合制はどうしても使用者の方が優位に立つ傾向があるため、今後の展開が望まれる。

 労働供給事業は、歴史上、強制労働や中間搾取の温床となってきたため、法律によって禁止されてきた。

 しかし、現在は一部の業種(港湾労働、警備等)を除いて、労働派遣業(労働供給ではない)が解禁されている。そのため、低収入の派遣労働者をどうするかが課題となっている。

 国の雇用政策には、消極的政策(失業保険)と積極的政策(職業訓練、雇用促進)とがある。

 

  ***

 労働関係の多様化とともに、「労働者」、「使用者」の概念があいまいになりつつある。このため、裁判で戦いにくいという弊害が生まれている。

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 著者の主張

・個人だけでは力が弱く、また国家は大きすぎて細かな現実にすぐ対応できない。中間機能としての集団、つまり労働組合等が個人と国家の触媒となり、労働問題を解決していくことが求められる。

・国家は、労働者を保護するために強制力を用いなければならない。また、個人は不正や違法行為に対し毅然と対処しなければ、使用者を増長させ、ひいては「競争に勝つためなら違法行為をしても問題ない」という文化を形成してしまうことになる。

労働法入門 (岩波新書)

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