1章
バージェス頁岩の研究を通して、生物進化の歴史を説明する。
バージェス頁岩はカナダのブリティッシュ・コロンビア州東端ヨーホー国立公園内のロッキー山中にあり、無脊椎動物の化石群を擁する。頁岩の化石動物群は、5億7千万年前の多細胞生物の爆発的出現を記録している。この出現は「カンブリア紀の爆発」と呼ばれる。
本書の目的は次の3点である。
1 バージェス頁岩の解釈をめぐる変遷をたどること。
2 人間がもしかしたら進化していなかったかもしれないという可能性について言及すること。
3 バージェス頁岩に関わるプログラムがなぜ無視されてきたのかを解明すること。
頁岩に保存された動物群の種類は現生生物の数を凌駕している。
――生物進化の歴史は、大量の生物が除去された後に生き残った少数の系統内で起こった分化の物語であって、従来語られてきたような、優秀さや複雑さや多様性の着実な増大という物語ではないのだ。
進歩が劣等なものから高等なものへと直線的に進んでいくという図式は、猿から人間への行進の図に示されるように、長く人びとの常識を支配してきた。しかし、進化とは環境への適応であり、チンパンジーやネアンデルタール人は人間の祖先ではなく親戚である。
生物は多様性の増大ではなく除去によって進化した。生物の生き残りと適応は偶然によって引き起こされ、大多数の者は不運から絶滅した(不運多数死)。
本書はあくまでバージェス動物群の細部を検証することで、普遍的な概念を導き出す。
バージェス動物群の種数は多くないが、その設計プランの異質性は際立っている。種同士がまったくかけはなれた構造を持つという点で、群は多様性を備えている。一方、現生生物は限られた設計プランの中で種数を増大させているという特徴を持つ。
2章
バージェス頁岩発見の経緯について。通常、化石の残る環境というのは生物の住めない環境である。バージェス頁岩は、おそらく地殻の変動によってカンブリア紀の多細胞生物が大量に残存することになった貴重な遺跡である。
1908年ウォルコットが発見、1966年、3人の学者らによる再調査。
地球の生物の歴史は古生代、中生代、新生代に分けられる。古生代はカンブリア紀以降を含み、中生代は、三畳紀、ジュラ紀、白亜紀を含む、新生代は現生を含む。
3章
最初の発見者であるウォルコットは、バージェス動物群をすべて現生の動物の祖先として、同じ分類の中に押し込めてしまった。
ウィッティントンらは、地道な再調査の結果、動物群の中の多数のものが、現生動物とはまったく異質のものであることを発見した。
動物分類は界(動物、植物、菌、原生生物等)、門(脊椎動物、節足動物、海綿動物、刺胞動物、環形動物、軟体動物等)という風に分類されていく。
現生の節足動物門は単肢類(昆虫)、鋏角類(クモ、ダニ、サソリ)、甲殻類(フジツボ、えび、カニ)、三葉虫類(三葉虫)のどれかに分類される。
ところが、バージェス動物群であるマルレラやヨホイアはどの類にも属していなかった。つまり、現生動物の祖先ではなくまったく別の節足動物であることが明らかになった。
さらに、オパビニアは節足動物門ではなくまったく新規の門だった。
ウィッティントン、サイモン・コンウェイ・モリス、ブリッグスらの研究により、バージェス動物群は未知の門や節足動物類として分類された。
バージェス動物群の移動および摂食の方法は、現生動物とも共通のものである。
ほとんどは底生種と海底近くで生活する群集であるか、または水層中を遊泳しながら生活する種である。食物連鎖は機能しており、安楽な世界だったから多様な進化を見せたという説明はできない。
――バージェス頁岩は、カンブリア紀の爆発の産物が落ち着きを見せてしばらくたったあとの時代の様相を伝えているのだ。それでは、その後の悲運多数死を引き起こした原因は何だったのだろうか。限られた数の解剖学的デザインの枠内では多様性をほこってはいるものの、個々の基本デザインを隔てる溝はあくまでも深い、現在のような生物のパターンをもたらした原因はなんだったのだろうか。
淘汰は優れた種が必然的に生き延びたのではなく、偶然の要素が大きく影響していた、とグールドは主張する。これが、賛否両論を招いている点である。
4章
チャールズ・ウォルコットはバージェス頁岩の発見者だが、当時の科学的常識に基づいて、実物をよく見ずに誤った結論を下した。それは、かれが科学者として大きな業績を上げたため、行政的な仕事に追われているためでもあった。
科学者の世界では行政、管理は嫌われる。また、本書によればアメリカ人は一般に行政を嫌う。
この章は科学界の状況や問題をテーマにしており、適当に読み飛ばした。
5章
生物の進化は逆円錐状に増大していったのではなく、ある時点で爆発的に多様性が生じたが、悲運多数死により激減、その後は残った種が狭い枠の中でヴァリエーションを増やしていくという形をとった。
進化は偶発性が大きな要因を占めているが、それを立証する2つの観点がカンブリア爆発と大量絶滅である。カンブリア紀に爆発した種の多様性からは、目立った優劣は認められない。どの種が生き残り、どの種が亡びたかは、大部分が偶然と運に委ねられていると著者は主張する。また、生物の歴史上、大量絶滅は何度も発生している。このときの生存はほとんどが運と偶然によるものであり、あらかじめ大量絶滅の事態を想定した進化をしているということはありえない。
人類が出現したのは偶然によるものであると著者は考えた。もう1度歴史を巻き戻せば、どの種が支配者になっているかはわからない。原核生物から、原核生物同士のコロニーである真核生物が生じるまでに、50億年がかかっている。この時間も必然ではなく、もしかしたら真核生物が生まれる前に地球は太陽に呑みこまれていたかもしれない。
***
事実や研究成果の点で古い事項があるということなので他の本で補う必要がある。
バージェス動物群の奇妙な姿はいつまでも頭に残る。
ワンダフル・ライフ―バージェス頁岩と生物進化の物語 (ハヤカワ文庫NF)
- 作者: スティーヴン・ジェイグールド,Stephen Jay Gould,渡辺政隆
- 出版社/メーカー: 早川書房
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