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うちゅうてきなとりで

the cosmological fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

『田中清玄自伝』

 何をしたのかよくわからない人物の自伝。本書だけを読んでも、客観的な経歴や成果を知ることはできないようだ。

 

 1

 自分の一生は次のとおりであると説明する。

コミンテルン共産党の仕事で上海に渡る。

治安維持法で逮捕され1930年から1941年まで獄中におり転向。

・山本玄峰老師のもとで修業し、終戦直後に昭和天皇に拝謁。

・母体は会津藩士としての性格。

・人類の平和と安定を願い諸国で行動した。

 ――私がいま自分の一生を振り返って言うのは、自分が会津藩の筆頭家老の家柄に生まれたという自覚があったことで、いいかげんな連中と妥協しなくてすんだということなんです。

 ――日本をどうするか、アジアをどうするかだった。……自分の生活上の不満は何もないですよ。その頃、日本はまだ大土地所有制度でした。私のところも地主でした。だからその矛盾を感じたんですね。……アジアをどうするか、私の関心はもっぱらそれだった。

 戦前の共産党社会主義運動について語っている。学生たちはほとんどが上流階級の人間であり、右翼、左翼、ビジネス等、様々な分野で活躍する人間たちはほとんど一緒に生活していたような印象を受ける。

 ――……共産党ってそんなもんだ。人格なんかあるもんですか。自分らの出世と存在のためには何でもやる。今の自民党と一緒だ。どっちも同じ日本人だから、変わりがねえ。共産主義者になったから、人格が向上するなんて、そんな事はあり得ない。もっと悪くなりやがる。

 スターリンは猜疑心が強く保身のために粛清を行った。

 ――それが共産主義というものの本質じゃないですか。同時にそれは人類というものが、自己の保身と出世のためには人を裏切る冷酷な存在でもあるということですよ。
 「自分が助かるためにはなんでもやる。野坂参三も軍人も一緒です。陰険で小ずるくて冷酷無情な、どちらも同じ日本人です」。

 著者が天皇主義者に転向した理由は次のとおり。

 ――1人の日本人としての私に、共産主義マルクス主義を受け付けさせないものは、つまるところ、私が日本民族の1人であり、日本民族のまさに中核には、天皇制があるということです。……この世のあらゆる物は神であり、そのようにして自然界は存在しているという、汎神論の世界に自分は生きているからだということです。幕末に朱子学と水戸学派によって著しくねじ曲げられた、天皇だけが神であるというような狭隘な神道もまた、満足できるものでなかったことは、言うまでもありません。

 2

 禅僧の山本玄峰に弟子入りし、三島市の寺で修行する。山本玄峰は日本の指導者層に対しても影響力を持っていた。禅僧の言葉を尊重するような風習が当時あったらしい。

 ――人間は早く出世することを考えてはならん。若いときにはなるべく人の下で働き、人を助け、人のために働かなければならん。……それがためには出世を急がず、徳と知恵と力を養っておくことじゃ。

 和尚と著者は日本の生きる道は無条件降伏であると考え、鈴木貫太郎を説得した。その後、日本は降伏した。終戦後、天皇に拝謁した際に、天皇は次のようにしゃべった。なぜ開戦を止めなかったのかといえば、自分は立憲君主であって専制君主でないからである。

 著者は強権主義、軍国主義に対して一貫して反対する。

 戦後、ソ連はジダーノフの指揮系統を通じて著者に接触し、日本における米軍統治を攪乱させようと企んだ。著者はこの動きから、ソ連朝鮮戦争を勃発させようとしているという情報を得た。しかし、GHQや政府首脳部はまったく信じなかった。著者が貴重な情報源であることがわかると、人がいっせいに押し寄せた。

 ――……スターリンの本当の狙いは、朝鮮での戦争に中国を巻き込ませたかったという点にあります。要するに彼は中国を強大な国にはしたくなかったし、いつも中国を自分の支配下に置いておきたかったということです。……これが現実の世界政治というものです。イデオロギーなどにだまされちゃいけません。

 3

 政治家評……竹下、金丸、小沢はうすぎたない。

 右翼……児玉誉士夫は屑、尊敬する人物は橘孝三郎と三上卓だという。赤尾敏と野村しゅうすけは小人物とされる。

 外務省……「日本外務省の連中の、この奴隷根性だけは我慢がならん。なぜならこれは国を亡ぼすからだ。何もアメリカと喧嘩をしろと言うのじゃない。もういい加減に自立国家の矜持を持てと言いたいんだ」

  ***

 ――日本の中には政治家はだめだけれど財界人はいいという考えがあるけど、これは間違いです。政治家と同じです。甘さ、のぼせ上り、目先だけの権力欲。それを脱しきらなければ、日本人は本当の意味で世界の人たちから尊敬されない。

 スペインは馬泥棒、盗賊の国で、テロの本場。イタリアは詐欺師とスリの国。

 人的関係をつくること……自分を捨てて接すること。純一無雑の心境が必要である。相手が信用した以上はこちらも信用を貫き通す。いったん約束した以上はどんな困難があってもやる。ウソをつかない。

 ――私はこれまでに自分なりに1つの原則をもって行動してきました。それは自分が関係した人物のコネクションを利用して、仕事をしないということです。人の路線は使わない。やるときは全部自分が培った路線を使ってやる。これが私の原則です。
 ……自分がお付き合いいただいた人たちのことを、自分の仕事や就職運動に使うことは一切やるまいと決心して、やってきたのですが……。

  ***

 その他の主張

・宇宙とは何か、この世の真理とは何かを常に考える。

・西洋一辺倒、アメリカ一辺倒になってはいけない。

昭和天皇は平和主義者だった。その意思を勘違いしてはいけない。

田中清玄自伝 (ちくま文庫)

田中清玄自伝 (ちくま文庫)