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The Cosmological Fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

『The Israel lobby and U.S. foreign policy』John Mearsheimer, Stephen M. Walt その1

 合衆国政治に影響力を持つイスラエル・ロビーについての本。事前知識のない私でも理解しやすく書かれていた。

 2人の著者はどちらも合衆国の国際政治学者である。

 ロビーの概要について検討した後、どのように対処することが合衆国にとって適切なのかを考える。


 合衆国において、すべての大統領候補はイスラエルへの支援を表明する。これはイスラエル・ロビーの活動によるものである。イスラエル・ロビーはユダヤ人とそれ以外の双方から成り立ち、単一の指揮官を持たないゆるやかな連合をなす。

 中東安全保障への本格的な参入は、1940年代のサウジアラビアとの同盟からだったが、イスラエル建国後、特に67年の6日間戦争以降、合衆国はイスラエルに無条件の支持と支援を与えるようになった。

 イスラエル・ロビーは合衆国の外交方針に影響を与え、国民に対し、合衆国とイスラエルの利益は同一であると思いこませている。しかし著者によればこれは誤りであるどころか、イスラエルへの肩入れはアメリカの安全を脅かしているという。

 反セム主義の歴史やロビーの宣伝によって、イスラエル・ロビーや対イスラエル方針に異を唱えることが難しい状況になっている。

 著者はイスラエルの独立を認めるが、無条件に支援することは合衆国の利益にならず、またイスラエルの利益にもならないと主張する。

 

 1部 合衆国、イスラエル、ロビー

 1 後援者

 経済援助……建国初期からスエズ動乱までは、合衆国とイスラエルの方針には不一致があり、合衆国政府は度々経済援助の打ち切り打診により影響力を行使した。ケネディは初めてイスラエルを全面支援しホークミサイルを売った。無条件援助が本格化するのは6日間戦争以後である。

 この本が書かれた時代には年間4.3億ドル以上の援助を受けている。この助成金には用途が示されていないためイスラエルは自由に利用することができる。

 その他、寄付や金融機関の優遇等、様々な援助を合衆国から受けている。

 イスラエルが世界有数の経済大国であることを考えるとこの援助規模は異様である。また、イスラエルとの和平協定を結ぶエジプトとヨルダンにも合衆国から助成金が与えられている。

 軍事的援助……米国の多大な援助を受けており、非NATO同盟国の1つとなった。

 外交的援助

 2 戦略的にプラスかマイナスか

 イスラエルを支援することの利益はロビイストらによって過大評価されている。冷戦時代においては、イスラエル支援にはある程度の利益があった。しかし、今は反米感情を惹起し、合衆国に危険を及ぼすマイナス点となっている。

 対テロ戦争において合衆国はテロリストの標的となっている。ならず者国家についてもイスラエル支援が抑え込みに効果的であるとは言い難い。またイスラエル自体、国益を優先するために合衆国に対立する行動をとることが多々ある。

 3 道徳の問題

 イスラエル無条件支援を支持する人びとは、これが道徳的な根拠に基づく行為であることを主張する。しかし、事実を検討すればこれは誤りである。イスラエルが占領のために行った行為は道徳的に正当化されず、また中東の中でも飛び抜けた国力を有するため、弱い立場や被害者でもない。

 弱者を助けるという論理を採用するなら合衆国はパレスチナを支援しなければならない。

 独立戦争においてイスラエルは軍事力と組織力の活用によりアラブ連合に対して勝利した。以降、アラブ諸国が本格的にイスラエルを抹消しようとした痕跡はない。

 民主主義国を支援するという理由については、合衆国は多数の独裁政権を支援し民主的に選ばれた政権をつぶしている。民主主義的価値を共有しているという主張についても、アラブ人やパレスチナ人に対する非人道的な扱いを考えると、成立しない。

 イスラエルは建国当時から拡大主義的であり、パレスチナ人を暴力的手段によって追放するしかないことは、ベン=グリオンら建国者たちも承知していた。かれらは自分たちの行動が道義的に成り立たないことを知っていたので、パレスチナ人追放政策を、なるべく対外的に公開するべきでないと考えていた。

 不成立の根拠……パレスチナ側のテロ行為。クリントン政権時、アラファトが一方的にキャンプ・デイヴィッド合意を拒否し和平の道をふさいだという通説。ユダヤ人国家支援は神の意思だという宗教的な主張。

 米国人の大半が、イスラエルに対する過度の肩入れに疑問を抱いている。

 4 イスラエル・ロビーとは

 ある特定集団が政治的に力を持っている場合、国益に反する方針を国にとらせる場合がある。

 イスラエル・ロビーは、他の利益集団と同じく政治活動及び宣伝活動によって国の外交政策に対して影響を及ぼそうとする。それは統合された団体ではなく、いくつかの組織や個人からなる。かれらには右傾化の傾向があり、また新保守主義と親和性がある。

 構成要素は、ユダヤ系アメリカ人、キリスト教シオニスト等、多様性を持つ。

 石油会社やアラブ系のロビーは、それぞれ本来の任務(利益追求)を抱えていたり、また勢力が弱小だったりするため、イスラエル・ロビーの動きを抑制する規模には達していない。

 イスラエル・ロビーの主要な活動である、政治家への働きかけと、公共の言説をコントロールすることの2点を次に説明する。

 5 政策誘導過程

 議会では様々な問題が激しい議論を呼ぶ。にもかかわらず、イスラエル支援については、異論はほとんどない。

 金銭的援助等を含めた、政治家への支援及び妨害。

 6 公の言説を支配する

 大学やマスメディアでの統制活動。イスラエル批判を「反ユダヤ主義」に結び付け、敵の社会的信用を低下させる方法は、近年では効果が薄まっている。

 イスラエル政策やイスラエル支援に対する批判は、昔よりはタブーではなくなってきている。

 

 [つづく]

The Israel Lobby and U.S. Foreign Policy

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