うちゅうてきなとりで

the cosmological fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

『The Essential Chomsky』

 言語学ノーム・チョムスキーの文章を集めた本。

 言語学についてはわたしの素人知識では読みにくい部分が多いが、政治的なエッセイは明快だった。

 

 ◆感想

 チョムスキーの政治的立場は、自由主義、人権、民主主義を重んじるものである。かれは大国による侵略や介入を批判する。

 わたしはこの本を読んで、いまでは鼻で笑われるような価値観……自由や人権、平和主義の重要性を確認した。

 同時に、このような価値観を掲げる裏で、植民地主義、奴隷制や先住民へのジェノサイド等が行われてきたことも認識しなければならない。20世紀の歴史に対するコメントとして、合衆国の行為は自由と民主主義への信頼を貶めた、とどこかに書かれていたが、それは数百年前から変わらないのではないか。

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 1 スキナー『言語行動』評

 スキナーの言語論に対する批判と、チョムスキーの仮説について。

 子供たちが言語を習得する様子を観察してみると、人間にはあらかじめ言語を身に着ける機構が存在することがうかがえる。

 2 統語論の諸相まえがき

 3 方法論的序説

 従来の言語学は、理想的な話し手と聞き手を想定する。しかし、実際の会話は正確な文法どおりに行われるわけではない。

 生成文法理論とは、実際に現れる言葉を、各人の持つ文法に基づいて創造する。

 個別の言語、個別の文法とは別に、言語表現を生み出す心的過程が人間には内蔵されているとかれは考える。

 

 4 知識人の責任

 知識人は思考環境に恵まれているので、政府の嘘と真実を見抜かなければならない。

 アメリカの攻撃的な外交方針を支持する者は、反対者をヒステリーの、社会性のない人間であると批判する。いわく、反対者たちは国際関係や民主主義諸国の思考が理解できない。

 しかし、私たちは自分たちの責任を放棄して国際関係を「専門家」に委託するべきではない。

 ベトナム戦争を支持する者の発言からは人権や自由の観念が欠落している。

 アメリカの価値観を途上国において役立てるには、双方が利益を得なければならない。すなわち、民主主義と自由を重んじる、開かれた社会として経済的にも発展しなければならない。ベトナムのように占領することによる代償は大きい。

 阿諛追従者は、いまやイデオロギーが終わり、専門知識と個別の利益だけが問題となったと主張するが、それは目の前の非人道行為や人権侵害、テロを無視しているだけである。現状や体制を変化させようとする若者、学生の動きは不自然ではない。

 チョムスキーベトナム戦争賛成派を批判するが、歴史的な評価を経ると、それが正しかったと感じる。

 良心にもとる行為が行われているとき、それを黙認することは従っていることと同様である。自分たちはいったい何をしているのかと問い続けなければならない。

 5 抵抗について

 不服従デモに参加した感想。ベトナム戦争と徴兵に対する不同意は、抵抗と同時に、引き続きなされるべきである。帰ってくる棺の数と増税との影響から、国民の多くが戦争に疑問を抱き始めた。

 ベトナム政治への軍事介入には正当性がない。しかし賛成派の学者たちは目下行われている非人道行為を無視し、国益論に終始している。

 政府の行う残虐行為に対して異議を唱える若者にとって、不同意と抵抗の手段は開かれているべきである。

 

 6 言語と自由

 ルソーはデカルトの考え方に基づき、人間と動物を分けるものが自由意思であるとする。自由な思考と意志を作り出すのが、言語である。言語は自由な思考を作り出すという創造的な役割がある。文法のルールに縛られているが、それらが生み出すことのできる表現は無限である。

 ルソーはあらゆる権力を、所有者による恣意的な抑圧と考えた。ルソーやフンボルトは自由、自己完成こそ人間の発展のために重要な要素であるとみなす。

 言語は自由な思考と自己表現の手段を提供する。

 ただし、人間の自由の確保について、政府がどのような役割を果たすかについては、思想家ごとに異なる。

 

 7 アナーキズム

 アナーキズムリバタリアニズム社会主義についての評論。アナーキズムは国家や政府、当局といった一部の支配層を作らず、労働者による自治を目的とする社会主義の一形態である、と著者はいう。

 人間の本質に基づいた、人間を機械としてではなく生きた人格として扱い、また人が人を隷従させない社会を作ることをアナーキズムは目指す。

 国家社会主義や「赤い官僚制」ではなく、スペインにおいて形成された自発的なアナーキズムと革命を範とすべきである、と著者は考える。

 特にアナルコ・サンディカリズムに強い関心を示す。

 8 国際関係における武力についてのルール

 アメリカのベトナム介入をめぐって、合法性と正義の観点から考察する。

 ニュルンベルグ裁判を参考に検討した場合、アメリカの軍事介入とその作戦は間違いなく戦争犯罪になるが、ベトナム戦争支持者らはそうは考えない。

 虐殺や、一般市民の殺害等、多くの事例が報告されている。村を消滅させ、ゲリラを消滅させる、動く東洋人をすべて射殺するという米軍の作戦が公式に遂行されている。

 支持者らは、ベトコンが軍服を着ておらず、すぐわかるように武器を携帯していないといって非難する。

 しかしこれはおかしな理論である。ある政府が反対派を弾圧するために大国の支援を受けた場合、反対派は正規軍の装備を持っていない。よって、軍人と判別できないため、国際法に違反するという。しかし、軍事介入を行った大国は侵略国ではないのだろうか。

 米軍や戦争指導者たちは皆、軍事力だけで他国を鎮圧することが困難であるという事実を学んだ。傀儡政府を作るには国民の政治的な支持が不可欠だが、米軍の作戦はこの目的を一瞬にして破壊し、ベトナム人の多数を敵に回した。

 集団的自衛権国連憲章により保障されているが、アメリカが自国の生存を北ベトナムによって脅かされたとする証拠は見つけるのが困難である。

 支持者らは、北ベトナムの成立と民族解放運動は、他国による浸透戦術であると考える。しかし、米の南ベトナム支援に比べれば中国の北ベトナム支援は微々たるものである。

 アメリカの介入政策を合法性と正義の観点から考えなければならない。

 9 ウォーターゲート:懐疑的な見方

 10 歴史を作り直す

 ベトナム軍事介入の失敗から安易に教訓を引き出すべきではない。

 当初は、南ベトナムの主権と自己決定を保持するための介入だった、と主張する者がいるが、これは疑わしい。始めはフランスの再占領を支援し、続いて傀儡政権を支援した。

 インドシナにおけるアメリカの軍事介入は、無法、野蛮、愚かの3語に集約される。弁護者は、野蛮ではなくスマートな方法を使えばいい、介入は偶然の失敗、悲劇だった、と主張する。しかし、著者によれば、そもそも軍事介入に合法性がなく、介入そのものが間違っているのである。

 世界経済を掌握する国が、世界の秩序を安定させるために武力を行使するという方策自体に欠陥のあることを認識しなければならない。

 

 11 外交政策インテリゲンチャ

 外交政策は、政策決定者の利益と方針によって作られる。

 アメリカにおいては、知識人は政府の侵略的な政策を支持する者が多かった。かれらは軍事介入自体の可否を問わず、技術的な方策にのみ執着した。介入自体に反対する者は夢想家のユートピア主義者として非難された。

 ベトナム戦争において、政府に反対したのは一部の学生と下層階級だった。下層階級はメディアのプロパガンダや反共主義の公教育から遠ざけられているために、洗脳を免れたと著者はいう。

 メディアは権力の監視ではなくプロパガンダの装置として働いた。

 外交方針、つまりアメリカの攻撃的政策は、世界経済の秩序維持のために行われる、と主張する者がいる。外交方針と企業との関係はこれまで無視されるか、見て見ぬふりをされてきた。

 大戦中の会議資料等を調べれば、企業が途上国へ経済進出するのを支援するために、外交方針がつくられていることがわかる。

 また、知識人や弁護者たちは、アメリカは善意と平和と民族自決の原則に基づいて外交政策を形成する、と主張する。かれらによればその結果発生する非人道行為や侵略はミスや悲劇、計算違いということになる。

 しかし、知識人は、「米国は善意と平和と民族自決、繁栄、民主主義を追求する」という前提自体を疑わなければならない。米国の方針は経済進出のために行われているのが現状である。

 12 東ティモール

 インドネシアはアメリカの軍事援助により東ティモール独立運動を鎮圧している。非人道行為や実態はメディアから黙殺されているのが現状である。政府や学者たちも、産油国かつパートナーであるインドネシアを擁護している。

 

 13 特別関係の起源

 米国とイスラエルの特別関係について。

 米国はイスラエルの強硬政策を単独で支持しており、また米国、外国企業からの軍事援助、援助金によりイスラエルは特異な発展を遂げてきた。

 なぜ合衆国はイスラエルを支持するのか。圧力団体だけではその原因を説明することができない。合衆国内のユダヤ人団体、またイスラエルの政府や団体は、イスラエル国家政策に対する反対がすなわち反セム主義であるとして反対意見を封じ込めてきた。この傾向は、イスラエルの政策を擁護することが困難になってきた1967年以降、より顕著である。

 しかし、主要な原因はアメリカの国策である。政府は各地域に自らの衛星国を配置し、地域の安定を図る。これにより経済進出や資源の確保が可能になるからである。

 このような地政学的な擁護者に加えて、リベラルたちもかつてイスラエルを支持した。

 イスラエルと合衆国のプロパガンダの体系は大規模なものである。イスラエルに対する批判を反セム主義として封殺し、またイスラエルとアラブをダヴィデとゴリアテになぞらえる。

 イスラエルの侵略政策が擁護しがたくなると、かれらは全世界が反セム主義者であると非難する。しかし批判の原因はイスラエルの非人道行為と侵略行為にある。

 

 14 覇権

 アメリカにとってラテンアメリカは資源を確保するための地域であり、他国の介入は許されない。

 合衆国に対し従属的でない体制は、不安定な体制である。よって、このような不安定な体制を破壊し、安定した体制を築く必要がある。

 覇権確立のための論法が常に用いられてきた。ラオスグレナダへの侵攻も、アメリカに対する脅威を取り除くためであると説明される。

 

 15 心の研究のための見通し

 言語を扱うことができるとはどのような知識なのか。どのように言語知識は得られるのか。どのようにその知識を使うのか。言語習得に関わる身体機能はどのようなものか。

 わたしたちは、言語が文化的、教育的な産物であるという間違いを否定し、言語が生来のものであることを学ばなければならない。

 言語を使用する傾向、倫理的な判断の傾向、科学的な探求の傾向は、人間に共通の基盤である。

 言語機能を含む様々な機能が脳にあらかじめ備わっているという考え方については、環境が人間を作る、という立場から長く批判を受けてきた。それは近代の思想のためである。

 

 16 敵の封じ込め

 メディアには「企業による寡占」、「国家統制」、「民主的交流方針」の3つの形態がある。企業による寡占は資本主義国における共通の傾向で、メディアは宣伝広告と深く連関する。

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  知識人は、自分が都合のよいように歴史を作る。知識人は権力と戦う存在ではない。実際には、知識人の多くが権力に服従し、操作と支配に加担している。

The Essential Chomsky (New Press Essential)

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