中学校のときに読んだが再び読んだ。『城』は退屈で投げたがこちらは読みきった記憶がある。
ヨーゼフ・Kが突然訴訟を起こされてから、2人の男に連行されて処刑されるまでの話。何か理不尽な理由で逮捕され、最後まで理解できずに処刑されるという話にはインパクトがある。ただし、その間の右往左往は退屈で、時折、印象に残ることばが出てくる以外は、大した意味の感じられない雑談、どうでもいい人物たちとの用件が続く。細かいところが退屈なのでカフカはいつも読み飛ばすことになる。これはわたしのセンスがないからだろうか。
日常的な風景のなかに突然拷問のシーンが挿入される。カフカの話には拷問や体刑の場面が頻繁に現れる。
***
――彼のまなざしは、石切場に接した家の、最上階へとそそがれた。光がぱっと走るように、ある窓の扉がさっと開かれて、遠い高いところに、弱いうすい影ではあったが、1人の男がぐっと体を前に乗り出し、その両腕をなおもまえにさしのばした。だれだ? 友人か? よい人間か? 事の参画者か? 助けようという者か? たった一人なのか? みんななのか? 助ける道がまだあるのか? 忘れていた論議があるのか? もちろん異議はあるのだ。論理はなるほどゆるがしがたいが、生きようと欲する人間には、その論理も逆らえないのだ。ついにおれの見なかった裁判官は、どこにいるのだ? ついにおれのいたらなかった高級裁判所はどこにあるのだ? 彼は両手をあげて、その指をぜんぶひろげるのだった。
しかしKの喉には一方の男の両の手がおかれ、もう1人は包丁を、その心臓ふかくつきさして、二度そこをえぐった。かすんでゆくKの目には、彼の顔のまぢかに二人の男が、頬と頬とを寄せ合って、決着をながめているそのさまが、なおも映った。
「犬のようだ!」と彼は言い、恥辱だけが生き残っていくようだった。
***
時々、カフカの思っていることが漏れ出るような文章がある。
――だってこのおれは法治国に住んでいるのだ、国中が平和だし、法という法はすべて厳然として存在しているのだ、ひとの住居にふみこんで、不意をおそうようなまねをするとは、いったい何者なのだ? なにごともできるかぎり楽に考え、最悪の事態は、その最悪の事態そのものがあらわれてからはじめてこれを信じて、たとえ雲行きが非常にあやしくなってきたときでも、かくべつなにも将来のための措置などはこうじておかないというのが、常日頃の彼だった。
- 作者: カフカ,Franz Kafka,辻セイ
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1966/05/16
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