ブッツァーティはイタリアの小説家で、他に『タタール人の砂漠』というおもしろい本を書いている。
短い話を寄せ集めたもの。文はわかりやすく、昔話に似た印象を受ける。キリスト教を題材にしたものや、日常の出来事を拡大させたものが含まれる。いくつか、趣旨のわからない話もあった。
神と天使のやりとり。
コロンブレ
海に棲む怪物にとりつかれた船乗りの話。
アインシュタインとの約束
戦の歌
不気味な、死の軍隊についての文章。著者の短編の中には、起承転結のない、ぼんやりとした暗い風景だけを表現するものがある。
七階
非現実的な病院にほんろうされる男。
聖人たち
人間臭い聖人たちはよく用いられる材料である。かれらは穏やかで退屈な生活を送っている。
グランドホテルの廊下
神を見た犬
神の力を宿した犬が、村びとたちを改心させていく話。人間は愚かで無知だが、作者は完全に見放してはないい。宗教関係者たちについても、否定的に書いていない。犬のうごきが生き生きとしている。
風船
護送大隊襲撃
若干、感傷的な盗賊の物語。半透明の幽霊はほかの短編にも登場する。
呪われた背広
おとぎ話。
1980年の教訓
冷戦を題材とするおとぎ話
秘密兵器
同じ。
小さな暴君
非現実の要素はない。甘やかされた生意気な子供と、ガキのご機嫌取りに苦労する中年、老人たちの風景。
天国からの脱落
人間味のある聖人。
わずらわしい男
早口でまくしたてるわずらわしい男には守護聖人も困ってしまう。
病院というところ
お役所仕事の病院に対する嫌悪感を表明する。
驕らぬ心
聖職者についての、温かみのある話。
クリスマスの物語
マジシャン
芸術について擁護する男の話。芸術の意義は各所でよく聴くような内容である。
戦艦<死>
いかめしい海軍と戦艦の話で、オチがない。
この世の終わり
こっけいな人間と聖職者に対しても、作者は寛容の精神を持っている。
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通して読むと、人間とキリスト教に対する肯定的な印象が強い。人物たちは聖人君子ではないが、それでも完全な悪人ではない。