日本における軍事暗号利用の歴史を辿る本。一部、脚色があるという。
暗号技術の発展により危機感を抱いた日本陸軍は、第1次大戦後誕生したポーランドから将校を招き暗号の基礎を学んだ。この将校の教え子たちが後の日本陸軍暗号の基礎を作り上げた。
参謀本部は通信科に暗号班をつくり作成と解読に取り組ませた。済南事変において、初めて開発した暗号を利用するが、無線機が安定性に欠けていたため技術的な課題を残した。
その後暗号分野は情報部に解読部門、通信部に作成部門を置き、ソ連との対立や満州事変等実戦での利用を通じて改善を続けていった。
原久は無限乱数を用いたワンタイムパッド方式を発明した。これは1次暗号書と使い捨て乱数表を併用するものであり翻訳と組立も容易だった。原は参謀本部に呼ばれ無限乱数式暗号を日本陸軍一般暗号として制定した。この暗号は終戦まで解読されることがなかった。
日中戦争やヨーロッパ戦線の拡大に伴い暗号従事者たちは各地に飛び任務に励んだ。具体的には以下のとおり。
・各国にアンテナを設置し電信通信を傍受し解読する。
・戦線において無線有線網を構築する。
・暗号運用及び規律について現地部隊を監査指導する。
・憲兵隊に依頼し、大使館や領事館に侵入してもらい他国暗号書の写真撮影を行う。
・暗号の作成配布
・ポーランドやフィンランド、ハンガリーといった反ソ親独国に行き暗号情報の共有を図る。
暗号班が定めた暗号書方式や運用方式はそのまま自衛隊でも使用されている。最初期、暗号の取扱は将校に限定されていたが、その名残が暗号配布や通信保全隊の幹部配置等に散見される。
日本陸軍は国民革命軍の暗号、ソ連国境警備隊の暗号を解読していた。また、終戦間際にはソ連軍暗号、米軍暗号の一部、また米国防省暗号、外交官用暗号の解読に成功した。
暗号班員らは陸軍数学研究会を創設し民間数学者の協力を得た。
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暗号業務のほとんどは終戦に伴い証拠隠滅された。
政治的な動きから距離を置き、組織の基礎をつくる人たちの動きがよく説明されている。
暗号を盗んだ男たち―人物・日本陸軍暗号史 (光人社NF文庫)
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