うちゅうてきなとりで

The Cosmological Fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

『日本の統治構造』飯尾潤

 日本の政治制度について説明する本。特にシステム面について検討した本であり、読みやすい。


 はじめに

 議院内閣制は、行政権の成立根拠を議会すなわち政権党に置く制度である。

 ――本書は、日本における議院内閣制の分析を通し、国会、内閣、官庁、政治家、官僚制、政党、選挙制度、政策過程などについて、歴史という縦軸、国際比較という横軸から照射し、日本という国の統治構造の過去・現在を、構造的に解き明かす試みである。

 ――日本政治の何が問題か、どこをどうすれば、もっとよくなるのか―。この疑問に正面から答えるのが、本書の最大の目的である。

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 1 官僚内閣制

 一般に大統領制は権力を分立させ、議院内閣制は権力を集中させるものと考えられている。議院内閣制は議会に基礎を置く内閣を意味するもので、戦前日本にはこの議会の権限が欠けていた。

 帝国憲法には議院内閣制がうたわれていなかったため、美濃部達吉らは解釈によって政党政治及び政党内閣に正統性を与えようと試みた。しかし憲法運用には欠陥があり、政党内閣が崩壊してからも、内閣は権力を集中させることができなかった。

 ――明治憲法体制は、権力集中による独裁者を生み出したことによって崩壊したのではなく、意思決定中枢を欠くために、図指導者がお互いに手詰まり状況に陥り、事態打開のための決断が遅れ……崩壊へ突き進んだのである。

 戦後日本においては、首相が各大臣を指揮するという原則が忘れられ、大臣は省庁の代理人となった。これが官僚内閣制であり、意思決定中枢が空洞化していたことのあらわれである。

 議院内閣制は議員を基礎とした内閣及び行政が大原則である。

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 2 省庁代表制

 ――……「官僚内閣制」は、内閣が官僚の意のままになっている側面だけでなく、官僚が省庁に分かれて独立しながら社会的には開かれている側面に注目する。

 日本の省庁制は、細かい政策形成を可能とするが、大きな変化や改革を拒むシステムになっている。また、法案の運用は地方公共団体が担うことが多く、省庁は政策実施に疎い。

 日本は予算から見ると比較的小さい政府だが、関連団体が多く、また民間が政府の機能を肩代わりしていることも多いので、大きな政府という印象を与える。

 官僚は独自の支配集団ではなく、社会に深く浸透し、その利益の代表者という役割を持つ。

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 3 政府・与党二元体制

 官僚たちは自民党本部や族議員のもとに出向き、政策や法案を説明する。与党議員と調整しなければ、政策の成立が確定しないからである。官僚は政治家との調整が主たる業務となり、一方、政治家は細かい行政運用にばかり気をとられることになる。内閣は、自民党における派閥間の均衡を保ち、また、当選のインセンティブを上げるための人事制度として利用されている。

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 4 政権交代なき政党政治

 政権交代がなく、政権に目的が生まれにくくなり、政党は弱体化する。各個人の政治家が有権者の御用聞きとなり、利益を媒介する。こうして、大規模改革や民意の集約、トレード・オフを伴う決定は難しくなる。

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 5 統治構造の比較

 アメリカ……権力分立を目指す大統領制、大統領ごとに官僚を入れ替える猟官

 イギリス……権力集中を旨とする議院内閣制、政治とは独立し、尊敬を受けているメリットシステム(資格任用制)に基づいた官僚たち

 フランス……大統領を持つ議院内閣制

 韓国……強い大統領制

 政官関係すなわち官僚制度についても各国の違いがある。

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 6 議院内閣制の成立

 戦後日本の政治構造の問題点として、著者は

(1)権力核の不在

(2)民主的統制の不在

(3)首尾一貫性の不在

の3項目を挙げる。

 対策

 政権選択選挙の実現と、首相の機能強化。内閣の首相補佐の役割を強め、政府と与党を一元化させる。参議院は場合によっては自己抑制させる必要がある。

 マニフェストには「数値目標、財源、実行期限」の明確化が求められる。

 政党の再建案としては、有権者がより積極的に政党に参加できる環境の整備をあげる。公務員でない一般有権者は、政治的に中立である必要はない。有権者が政党と一体化しなければならない。

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 7 政党政治の限界と意義

 二院制は議院内閣制と矛盾する要素を持っており、その問題はねじれ国家において表面化した。

 官僚制について……責任ある政治家の命令に従うこと、政策実施の場面では政治的中立を保つこと、政治家と官僚が共同し、官僚が新しい規範を確立することが重要である。

 司法機能の拡大

 国家の権力核の明確化と、民主的統制の強化は、グローバル時代になってより必要とされてきている。

 地方分権の推進 

 

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 ◆所見

・官僚の権限を抑制するには立法府が権限を行使しなければならない。しかし、政治家が官庁の代弁者であってはその機能が果たせない。

・大臣は官庁の指揮官のはずだが、実態は作文朗読装置であることが多い。答弁のほとんどは国会の横に詰めている職員が作成しているが、各大臣は自分の担当をどの程度把握しているのだろうか。

・本書では、有権者の政党活動を推進すべきと書かれている。政治参加についていかに学ぶのかについて、オークショット等を参考にする必要がある。

・民主主義は安全装置ではない。多くの国民が他人種や外国人を殺してもかまわないと考えるようになれば、それは簡単に実現する。

 専制君主や独裁者でない限り、単一の人物に対してテロ活動を行ったとしても、集団の流れは変えられないだろう。