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うちゅうてきなとりで

the cosmological fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

『生命とはなにか』シュレーディンガー

 物理学者シュレーディンガーによる、生物を物理の言葉で説明する本。生物もまた物理法則に基づく現象の1つであることを示す。

 若干難しいのでさらに勉強が必要だと感じた。

 

 生きている生物体の空間的境界の内部でおこる時間・空間的事象が、物理学と化学によってどのように説明されるかを題材にした講演の記録。

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 生物体の働きには正確な物理法則が必要である。

 ――第1に、1つの物質組織が思考と密接に対応するためには、それは非常にきちんとした秩序ある組織でなければいけません。このことは、その中で起こる事象が少なくともはなはだ高い精度で厳密な物理的法則に従うべきことを意味します。第2に、このように物理的にきちんとした秩序ある体系に対して、他の物体により外界からくわえられた物理的作用は、それに応ずる思考の素材になる知覚や経験に対応することは明らかです。したがって、われわれの思考器官と外界との間に起こる相互作用は、ふつう、それ自体がある一定度の物理的秩序性をもっていなければなりません。

 われわれ生物の身体が原子に比べて巨大なのは、この秩序を与えるためである。原子はもともと、無秩序な熱運動を行っている。莫大な数の原子が集まることで、統計的な法則が生まれ、秩序を見せ始める。

 ――生物の生活において重要な役割を演ずることの知られている物理的・化学的法則は、すべてこのような統計的な性質のものなのです。

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 生物は、きわめて多くの原子からなる構造を持っていなければならない。また、偶然的な1つの原子による現象に過大な影響を受けないよう保障されていなければならない。

 生物においては、少数子の原子からなる集団が、きわめて秩序正しい役割を演じ、生物体の働きの重要な特製を決定している。それが遺伝子である。

 染色体には生物の型の暗号文が含まれていて、生物の生長と設計、建築を担う。

 遺伝子の大きさと、そこに含まれる原子の数は、本来なら規則正しい法則を生みださない規模のものである。さらに、遺伝子は驚異的な永続性を持っている。

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 不連続の変異をド・フリースは突然変異mutationと名付けた。突然変異は進化の契機となる。

 対立因子とはたとえば生物の色の有無などをさす。「劣性対立因子は遺伝型が同型接合のときにのみ、表現型に効果を現す」。

 突然変異は有害である例が多いため、稀な現象である。

「遺伝子が高度の永続性をもつことの結果として、比較的に保守的であることが本質的に大切なのです」。

 突然変異の数は、X線の照射量に比例して増加する。

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 遺伝子の永続性の秘密は量子論によって説明することができる。量子論は、自然のなかに不連続性が存在することを発見した。原子等の小さい体系は、あるいくつかの飛び飛びの量のエネルギーしか持つことができない。

 原子は互いに密接に結びつき分子を形成するが、この分子は安定性を持つ。よって、その準位を引き上げるエネルギーが外部から供給されない限り、配列状態は変わらない。

 ――この分子の安定性という事実が量子論の根底そのもの、つまり準位構造の不連続性といかに緊密につながっているかがわかるでしょう。

 準位の移行はエネルギー供給以外によっても妨げられる。同じ1群の原子が分子をつくる際、2つ以上の結合の仕方がある場合がある。これを異性体isometricという。異性体と異性体の間にはエネルギーの「閾」が存在する。生物学に関わってくるのは、この異性体間の遷移である。

 こうした理論はデルブリュックによって考案された。

 埋められた金貨や宝石が何千年も形を保っていることがあるが、これも分子の結合と同じである。

「分子、個体、結晶というものは本当に異なったものではないのです」。

 突然変異は温度を上げると増加する。

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 遺伝子は「その暗号の縮図は、はなはだ複雑でしかも明細に指定された生長の設計図と一対一の対応をしており、さらにこの設計を施行する手段を何らかの仕方で含んでいる」。よって、生物は、物理学の法則を免れないが、まだ知られていない別の法則を含んでいるという結論に至る。

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 生物も、他の物理現象と同様、エントロピーの法則の影響を受けている。隔離された無生物は通常、運動は静止状態になり、電位差や化学ポテンシャルは均されて一様になり、最終的に「系全体が衰えきって、自力では動けない死んだ物質の塊に」なる。これをエントロピー最大の状態という。

 ――生物体というものがはなはだ不思議にみえるのは、急速に崩壊してもはや自分の力では動けない「平衡」の状態になることを免れているからです。

 生物は物質代謝(メタボリズム)によって平衡を免れている。それは、負のエントロピーを取り入れることによってなされる。言い替えれば、「物質代謝の基本は、生物体が生きているときにはどうしても作り出さざるをえないエントロピーを全部うまい具合に外へ棄てるということ」にある。

 生物は周囲の環境から秩序を吸い取り、安定を保っている。

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 生命を理解する手掛かりとして、マックス・プランクの「生命はひとつの純粋な機械的仕掛け」、「時計仕掛け」でああるという言葉を引用する。

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 結論

 生物内部での時間・空間的現象は、統計的、決定論的である。物理学から考えると、「わたし」とは「原子の運動を自然法則に従って制御する人間」である。

 ――この「私」とは一体何でしょうか? ……それは個々の単独なデータ(経験と記憶)を単に寄せ集めたものにほんのちょっと毛のはえたもの、すなわち経験や記憶をその上に集録した画布のようなものだということに気づくでしょう。 

生命とは何か―物理的にみた生細胞 (岩波文庫)

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