うちゅうてきなとりで

the cosmological fort 無職戦闘員による本メモ、創作、外国語の勉強その他

『社会生物学の勝利』オルコック

 目的……宗教的・倫理的な観点から批判されることの多かった社会生物学を解説する。

 

 1 何だ

 社会生物学ダーウィンの進化理論と動物行動学を結びつける学問分野である。この分野の創始者O.E.ウィルソンによれば「すべての社会行動の生物学的基礎の総合的な研究」である。

 ウィルソンと社会生物学はアメリカ社会の一部から攻撃を受けたが、この学問は新しい珍奇なものではない。ダーウィンを起源とする、現代の集団遺伝学と自然淘汰による進化の理論を統合した学問である。

 なぜ社会生物学は攻撃を受けたのか……。

 ――マルクス主義者は、思想的な処方箋によって人間の制度を完璧にすることができるという前提の上に成り立っている。それゆえ、マルクス主義を信奉する人びとは、進化によって形成された「人間の本性」があると指摘されると、それは、人間の行動は変えられないという意味に解釈されるのではないかと恐れるので、ことさら頑強にそれに抵抗する。

 70年代、ウィルソンらの生物学はナチスや優生思想と結び付けられ、非難の対象とされていた。

 2 研究内容

 生物学者たちは、生物が社会的目的に沿ってデザインされているように見える理由を解明しようとする。

 かれらの仕事は、特定の行動を生理学的観点から説明するのではなく、遺伝的観点、進化論的観点から説明することにある。

 進化論及び社会生物学に対する誤解……進化は、種の保存を目的にしているのではない。

 ――……自然淘汰は長期的な見通しをとることはできないということを理解した。なぜなら自然淘汰は、現在この場における個体間の繁殖成功度の差異が足しあわされることから生じる遺伝的効果であり、知恵など持ち合わせない盲目のプロセスだからだ。

 世代交代により、「個体がより多くの自分の子供または遺伝子の複製を遺すようにする性質が、すべての種の間に広まっていく」。

 行動の中には、たとえばペットを飼う習慣のように、個体の繁殖という利益にとっては非適応な副産物のものもある。

 3 遺伝子

 ――社会生物学は、行動を制御している遺伝子を見つけようとしているのではなく、ある特定の社会的な性質が、今日、個体の(種全体のではなく)遺伝的成功度を高めるかどうかに興味を持っているのだ。

 ウィルソンは、遺伝子は行動の発達に重要な役割を果たしているが、単独で行動を決めることはできない、と説明している。

 遺伝子の持つ情報は、まわりの環境から提供される化学物質がなければ表現できない。遺伝的決定論を唱えている社会生物学者はいない。

 それでも、人間の行動のいくつかの側面では、遺伝的な違いが異なる発達を促すことが証明されている。

 4 科学

 社会生物学者は、自らの理論を出版可能なレベルの科学論文にしなければならない。

 自然淘汰によって形質が進化していることは間違いない。ただし、「すべての種に見られるすべての形質が適応を意味しているわけではない」。

 かれらは、ある種の形質は適応の結果だ、という仮説のもとに研究を行う。

 ――……典型的には、社会生物学者は、複雑で多数の要素からなる、どうみてもなにかをするためにデザインされたと思われる形質を研究しているので、それらが本当に適応的な効用を果たしている可能性のほうが高いのだ。

 社会生物学はほかの科学と同様、しっかりした検証方法を持っている。

 5 科学と現実

 一部の文化相対主義者、社会構築論者の中には、科学の方法自体を、価値観のひとつにすぎないとして否定するものがいる。

 しかし、現代の生活が科学手続きによって発展してきたことは間違いない。また、因果関係を見つけようとする科学手続きの思考は、もともと人間に備わっているものである、と著者は考える。

 科学も社会的なイデオロギーの産物で、恣意的なものだ、と考える相対主義者、ポストモダンの論者については、飛行機もコンピュータも使うべきでない。「なぜなら、あなたは、航空機の作動とコンピュータの機能のもとにある、何千という科学的結論を信じる理由がないからである」。

 ――科学的な検証が内に備えている論理と、過去の検証に基づく技術的結果とは、科学には議論の余地なく社会的側面があるゆえに、科学的仮説の正確さを判断する客観的な方法は存在しないという主張を却下するに十分である。

 6 何を発見したか

 ――……社会生物学者が遺伝子に興味を持つのは、遺伝子の違いがどのようにして生理学的な違いをもたらし、挙句の果てには社会行動の違いにまで行きつくかの正確な道筋を決定せねばならないからではなく、対立遺伝子の頻度の変化が進化の原動力となっているからである。

 遺伝子の機能等は遺伝学者や発生生物学者の担当分野である。

 7 文化決定論の困ったところ

 人間の行動を決定するのが文化か生物的要因か、という二分法はそもそも誤りである。どんな行動形質も、進化によって形成された生理学的システムによって生じるのであって、それが発達してくるためには、遺伝と環境と双方のインプットが必要である。

 人間の脳は何も書かれていない石板であり、教育や文化によって自由につくられる、と考える人たちは、たいてい思想的な影響によって事実を正しく見ることができないでいる。

 ――実際、盲目的な進化のプロセスがわたしたちを造りだしたのであり、私たちの無意識的な目的は、粘菌やツチブタや松の木やミミズのそれとかわりがないとは、ほとんどの人びとには信じがたいことだ。こんなことは確かに受け入れがたいが、それでも真実なのである。

 8 人間の文化

 適応理論が、人間の文化にも根付いているという話。

 9 実際的応用

 進化論、自然淘汰社会生物学を実際的な目的で使用することは、しばしばマイナスのことととらえられる。しかし、ナチ党が科学を誤用した責任はナチ党にあるのであって、進化論にあるのではない。むしろ、学者は社会組織による科学の誤用を指摘しなければならない。

 進化によって生じた形質であること、つまり「自然」であることと、道徳的に正当であることとは別である。社会生物学は強姦や不倫を繁殖行動と関連づけするが、それが自然だから道徳的である、と主張するわけではない。

 10 勝利

 社会生物学、適応論的アプローチは人間行動を理解する上で重要である。この本は、初期から激しい批判を受けてきた社会生物学を弁護するものである。 

 

社会生物学の勝利―批判者たちはどこで誤ったか

社会生物学の勝利―批判者たちはどこで誤ったか